表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Book Dive  作者: カオス
9/28

狂気の世界3




雨宮を中心に強い光が漏れ出し、俺達を包むように周りを漂う。



次第に意識は刈り取られ、ダイブした時に感じられる独特の感覚が全身を襲った。そして、頭に直接流れて来るあらすじ。



『死を司る王が統べる狂気渦巻く暗黒の世界。あらゆる生物が己の力を誇示し、殺しあう。この世界に光などは存在しない。ましてや幸福な ども――。これは闇に包まれ混沌とした世界で神に匹敵する力を持つ年わずかの魔王が様々な者たちと対立し、己を見つける物語である』



 地面に足が着く感覚と共にねっとりとした嫌な感じの空気が身体に触れた。刹那、葛西の呻き声が聞こえ即座に目を開ける。



「――どうした葛西!?」



 葛西は胸を手で押さえ、苦痛に満ちた表情でしゃがみ込んでいた。



「りくちゃん……?」



「――ふぅ、ふぅ、ふぅ。………………大丈夫だ。少し気分が悪くなっただけさ」



「――いったいどうしたんだ? 以前もりく君はこんな状態になったのか?」



 西村は首を横に振り、雨宮は腕を組み唸りだした。



――葛西以外に異常はない。なぜ葛西だけ……? 考えられるのは葛西がダイバーではないってことだが。――――待てよ。たしかあらすじで――



「もしかしたこの世界に漂う狂気が原因ってことはないよな?」



「――狂気? どういうことだ神埼?」



「お前も聞いた事があるだろう? 魔力を持たない者が強い魔力に当てられた時、体に大きな負担がかかることがあるって。俺達の持つBDエネルギーと魔力は殆ど同じと考えていいんだろう? 


そう考えるならばこの世界に渦巻く狂気はBDエネルギーそのものだ。それゆえ俺達はBDエネルギーを体内に持っているからなんともないが、葛西は持ってない。そのため、体に負担がかかっているんじゃないだろうか?」



「――なるほど。だが、狂気ってのはそんなにも体に害があるものなのだろうか……?」



 雨宮はそう言って心配そうに葛西を見詰め考え始めた。彼はなおも胸に手を当ていたが、次第に呼吸が正常な状態へと戻っていった。




「ふぅ……。すずっ。もう大丈夫だ」



「――無理しちゃだめだよりくちゃん……。もうちょっと休んでいたほうがいいよっ!」



「……大丈夫だって」



「本当に大丈夫なのか葛西? なんならお前は現実世界に戻っても良いんだぞ?」



 葛西はいつもなら考えられないような鋭い目つきで俺を睨み言い放つ。



「ふざけないでく ださい神埼先輩。俺がいなくなったら誰が鈴を守るっていうんですか!」



「――そうか。だが無理はするな」



 葛西は頷き、もう一度呼吸を整える。俺はそんな姿を一瞥した後辺りを見回した。



どうやら今回ダイブしたポイントは崖の上のよう

で、前方に視線を向けると、荒れ果てた大地が広がっているのが見て取れた。



崖の先へと近づき、下がどうなっているか確認しようとした瞬間。大きな歓声が響き渡る。雨宮は驚きの声を上げる。



「――な、なんだ!?」



 歓声は崖の先の方から聞こえたため、俺達はすぐに足を進めた。するとそこには――――――



「あれはいったいなんの集まりっすか……?」


目前の光景に圧倒され、葛西の小さな呟きだけが漏れた。荒れた大地に真ん中を堺に前方、後方に分かれる二つの集団。



どちらも人間とは思えないような異形な者達が集まっており、葛西はおちゃらけた様子で口を開く。



「まさにこれから争いますって感じっすね~」



「そのようだな。それにしてもあの数……。まるで戦争だな」



「ナイス例えっすね神崎先輩!」



「お前はよくそんな気楽にいられるな……」



「――ごめんなさい神崎さん。りくちゃんはいつもこうなんです」



「まぁ。天才ですから!」



葛西のドヤ顔を無視し、雨宮の方へ視線を向ける。彼女はその綺麗な両眼を細め口を開いた。



「みんな。見てみろ! 首領らしき奴らが真ん中に出てきたぞ!」



「本当っすか!? ――うーん? まったく此処からじゃ見えないんですけど……?」



「――はっきりとはわかりませんが私は見えます」



「俺も見える」



「まじかよみんなっ! なんで俺だけ見れないんだよぉ~……」



 俺はさらに意識を集中させる。するといつの間にか能力が発動されており、視力が大幅に上昇した。



そのためさらにはっきりと顔まで視認することに成功した。



 ――あれだけ能 力の発動が難しかったはずなのに……。ガンマとの戦闘で自然に能力が発動するようになったのか?



 背後に自身の配下を従え、中心に対峙するように立つ二人の者。前方にいるのは襟に金のきらびやかな装飾が施された赤黒いマントを羽織った男。



顔立ちから青年のようだ。背中には紋章のような絵が刻まれている。そしてもう一人ははだけた着物を着て、手には大きな扇子を持った妖艶な女性。



体型などは完全に普通の女性だが、一つ違うのは肌が深い青色をしている。

 


 二人の間には静寂が支配し、互いの配下達も物音一つ立てようとはしない。



その雰囲気に圧され、一人を除いて俺達も息を飲んでその場を見守った。葛西はおちゃらけた声を出す。



「なんでみんな黙っているんだよー。すず~。あめみやさ~ん。しんざき先輩~。なんか言ってくださいよ!」



 俺は能力を高め、意識を集中させる。すると、青色の肌をした女性がに笑い出した。



流石に雨宮と西村も音までは聞こえていないのか反

応を示さない。



 

西村は悲しそうに声を漏らす。



「戦争ですね………………」



「心配するなって鈴! 俺がついてるからさ!」



「――神崎さん。あの人達はいったい何者なんでしょうか……?」



「――おっほっほ。やっと貴方をこの手で殺す日が来ましたわ。暗黒王――――ユゼル!」



 俺は無意識のうちに言葉を漏らす。



「暗黒魔王……ユゼル?」



「突然何を言っているんだ神崎? ――まさかあちらで話していることが聞こえるのか?」



「まじっすか神崎先輩っ!?」



「――あぁ。能力のおかげでな」



「ほぉー……。きみもやっと能力を使いこなせるようになってきたか!」



「能力? 神崎先輩のダイバー能力のことっすか?」

 


 俺は頷く。すると葛西は目を輝かせながら口を開いた。



「まじっすか!! いったいどんな能力なんですか!?」



「今はあの会話に集中するから、説明は雨宮頼む」



「良いだろう。それじゃ、そっちは任せた」



 俺は意識を対峙する二人に集中させた。ユゼルと呼ばれた青年は暫くの間何も喋らず黙っていたが、女に片手の掌を向け言葉を放つ。



「本当に我と戦うのか? ――蛇の皇女エイダよ」



「ふふふ。何を今更言っているのか しら? 貴方は私が殺すわ。それとも……この私と戦うのが怖いのかしら?」



「――下等な爬虫類め。いいだろう。すぐに殺してやる」



「貴方を倒して私がこの世界を支配してげるわっ!」



 そう言うとまた一瞬の静寂が場を訪れる。そして、暗黒王ユゼルと蛇の皇女エイダの声が響き渡った。



「さぁ。行きなさい! わたくしの可愛い下僕達よ!」



「――お前ら! ザコどもは任せたぞ!」



 その言葉を機に後ろに控えていた多種多様の異形の者達の怒号が大地を響かせ、互いに殺気を撒き散らしながら衝突した。



皆、首領を狙おうとはしない。首領は首領同士、配下は配下同士で戦うようだ。



大きな怒号により雨宮達は驚きの声を挙げ、俺に質問を投げかけてくる。



「――神崎! いったい何が始まったんだ!?」



「見た通り殺し合いさ……」



 西村は強い意志のこもった目を俺に向ける。俺は先程二人が喋っていた内容を話した。すると雨宮が首を傾げる。



「暗黒魔王ユゼルに蛇の皇女エイダ……。どこかで聞いたことのある名だな――」



「アハハ。なんかいかにも中二っぽい名前っすね!」



「りくちゃん! 今はふざけている場合じゃないでしょ! ――私も聞いたことがあります。神崎さんどうですか?」



「――――ぁ。エイダってのはわからないが、ユゼルってこの小説の主人公じゃなかったか?」



「――あぁ! 確認してみます!」



 西村はそう言うとスキルブックを出現させる。そして本を広げ中身を確認し始めた。



「――スキルブックで確認できるものなのか?」



「はい。あらかじめ現実世界でダイブする小説の内容をインプットさせることが可能なんです」



 雨宮も感心したように頷くところを見ると、どうやら彼女も知らなかった機能らしい。



それにしても、西村は天然の女の子かと思っていたが意外にしっかり者なんだな。



「――――ありました。たしかにこの小説の主人公の名は暗黒魔王ユゼルですね」



「暗黒魔王……。凄い肩書きだな。――エイダって女は誰かわかるか?」



「―― 蛇の皇女エイダ。彼女は暗黒魔王ユゼルと並ぶこの世界の強者の一人ですね。そして……」



 西村が言葉を続けようとした刹那。蛇の皇女エイダの左右に大きな魔方陣が出現した。ついにエイダが動きを見せたのだ。



左の魔方陣からは強烈な青白い光が漏れ出し、右の魔方陣からは赤白い光が漏れ出したかと思えば、次の瞬間には何十メートルはあるであろう巨大な蛇

が現れた。



葛西もようやく視界に捉えたのか驚きの声を上げる。



「なんなんすかあの化け物は!?」



「あれ俗に言う召喚魔法か? それならば蛇の皇女エイダの名にふさわしい魔法だな……」



 雨宮と葛西が話しているのを聞き流しながら、ユゼルとエイダに五感を集中させる。



エイダは扇子で口を覆い隠しながら笑った。



「ふふふ。そろそろ私達も殺り合いましょうか?」



「――いいだろう。すぐに殺してやる」



 互い睨み合い、同時に口を開いた。



『行くぞ(行きますわよ)!』



ユゼルの体からは黒い稲妻のようなエネルギーが溢れ出し、言葉を放つ。



「――光を滅し、闇を誘う暗黒の稲妻よ。サタンの使いし剣を我が手中に召喚させよ! ――いでよ破滅の剣。ルーイン・ソード!!」



 そう言葉を放った瞬間。黒い稲妻はさらに荒れ狂い、ユゼルは空中を掴む仕草をした。



すると、右手には黒々としたロングソード程の剣が握られていた。刀身は生きているかのようにドクドクと脈打っており、ユゼルはエイダの元へと高速で駆ける。



能力により五感を上昇させていなければ捉えきれない程の速さ。



 エイダは襲い掛かってくるユゼルをしっかりと見据え、口元で広げていた扇子を閉じ、先端をユゼルへと向けた。



すると、左右にいた巨大な二匹の蛇が同時に口を開き、エイダと同じ青色をした左の蛇は口から紫の毒液を、赤色をした右の蛇は口から真っ赤な炎をユゼル目掛けて噴射した。



 ユゼルは迫り来る二つの攻撃を避けようともせずに直進する。



そして、通常の生物ならば一瞬で消し灰にできる炎と毒液がユゼルに直撃した。



俺は勿論のこと、蛇の皇女エイダさえも勝利を確信した様子で笑みを浮かべていた。



――しかし、その笑みは次の瞬 間には驚愕の表情へと変わる。



「――なぜっ!? 何故蛇達の攻撃が効かないっ!?」



 姿を現したユゼルはまったくの無傷。彼はさらに加速を続け、二匹の大蛇の目の前に移動した。そして水平にルーイン・ソードを振り斬った。



二匹の大蛇の頭部は簡単に崩れ落ち、噴水のように血が噴出する。それを機に響き渡るエイダの怒号。



「おのれこぞおおぉぉぉ! 殺してやるぅぅぅぅ!!」



 そう叫んだかと思えば一瞬にしてエイダの姿は消失し、ユゼルの眼前まで迫っていた。



彼女は閉じた扇子をユゼルの脳天に振り下ろす。ユゼルはその攻撃を冷静に見極め、右手に持つルーインソードで防御した。



あまりにも強大な力が衝突したためか周囲に衝撃波が広がった。



それにより衝撃波に巻き込まれる部下達も現れる。エイダは目を血走らせながら、さらにユゼルに追撃を加えた。



彼女の右手からは青白い光が漏れ出し、高濃度なエネルギーが集中していることがこの距離にいても見て取れる。



「これで終わりよ! 死になさああああぁぁい!!」



 刹那。エイダの右手が強烈な光を放出したかと思えば、扇子を防御して身動きとれないユゼルに向けて青白い光が光線のように噴出される。



そのまま光線はユゼルや後方にいた配下達も飲み込んでいく。俺達は眩しさの余り目を瞑った。そして、暫くして焼け焦げたような匂いが鼻を刺激する。



俺は恐る恐る目を開け、目の前に広がる光景を見ると言葉が漏れた。



「――――これは酷いな」



「また凄いことになっているな……。いったい何があったんだ神崎? 私には何が起きたのかさっぱりわからなかったのだが?」



「蛇の皇女エイダが暗黒王ユゼルに向けて攻撃を行ったんだ」



「――とんでもない奴だな。まさに怪物か……」



「何を言っているんすか雨宮さん……。あいつらは人間じゃないっすよ――」



 葛西ですら目の前の光景に言葉が出ないようだ。元々荒れ果てていた大地であっ たが、エイダの攻撃によりの巨大なクレーターが出来上がり、所々黒煙が立ち上っていた。



煙のせいで彼らの姿を視認することはできない。運良くエイダの後方にいた異形の物達は呆然と立ち尽

くしていた。



「神崎。戦況はどうなっているんだ?」



「煙が邪魔で今は何も見えない――」



「な~んだ。神崎先輩の能力も大したことないっすね~」



「りくちゃんのバカっ! 自分が見えないからって八つ当たりしないの!!」



 可愛らしく頬を膨らましていた西村は葛西に声を上げる。葛西は少しションボリしながら前を見詰めた。



 次第に立ち上っていた黒煙が晴れていき、荒れた大地の全貌が見えて来る。そして、さらなる衝撃が俺達の全身を貫いた。



視界に飛び込んで来たのは、懐に潜り込んだユゼルをエイダは顔を苦痛に歪め、憎しみのこもった瞳で見詰めている姿。



さらに彼女の背中にはユゼルのルーインソードが貫いていた。エイダは息を乱しながらも口を開く。



「き………………さま。いつのまに――――」



「――お前が光線を打ち放った瞬間さ。余りにも隙があったんでな」




 ユゼルはルーインソードを乱暴に引き抜く。それによりエイダのお腹からは致死量をはるかに越えるであろう血が滝のように流れ落ちた。



ユゼルはそんな光景を見ても何も感じないのか、軽く一瞥すると直ぐに生き残っているエイダの配下達に視線を向けた。



「――――次はお前らだな」



「ま……てっ! ぐっ――。わた・・しは、まだ――――」



「――――――」



刹那の出来事であった。未だに倒れないエイダにユゼルは近づき、戸惑うことなくルーインソードを首目掛けて振り下ろした。



エイダの頭部は地面を転がり、彼女は完全に絶命する。その光景を見た雨宮は言葉を漏らす。



「――敵を殺すのに躊躇どころか関心も示さないのだな……奴は」



「それは戦いを行う者なら当たり前のことだろう?」



「たしかに感情を殺すことは必要だ。力を持つ者ほどその感情を殺すことに長けているだろう。――しかし、あいつはそんな領域じゃない――」



「どう言うことだ?」



「――どんな強者でも感情のある者ならば相手を殺す時、僅かでも殺気などの感情が表れるってことだ。だが、奴からは殺気すらも感じ取ることが出来なかった。それはまるで――――感情のないロ ボットのように」



 ――たしかに何も感じなかった。雨宮の発言で確信した。暗黒王ユゼルは俺に似ている。正確に言うならば以前の俺に似ている気がする――。雨宮に会う前の何事にも無関心な俺に――――。



 俺はなんとも不思議な感情を心に抱きながら、ユゼルに視線を飛ばした。



すると、まるで俺の視線に気がついたのかユゼルが後ろを振り向いた。重なる視線。その深い闇を秘めた目を見た瞬間、俺の体は石のように硬直して言葉は失われ口を開くことができない。



しかし、少ししてユゼルは何もなかったかのように俺から視線を外し、再度前を振り向いた。



 ――気がつかなかった? ……いや、たしかに奴は俺を視界に捕らえたはずだ――。まぁ、どんな理由であれ、奴が俺達を見逃してくれたのならラッキーなことだ。



「――もう決着はついた。俺達もとばっちりを食らう前にここから離れよう」



 俺の突然の提案に雨宮だけは顔をしかめたが、追求されることはなかった。



西村も俺の言葉に大きく頷き、葛西はつまらそうな顔を全開にしたが同様に頷いた。



それを確認すると、急いでいることを皆に悟られないように歩き出す。



「神崎先輩っ! 勿論何処か当てがあって動き出しているんですよね?」



「――――いや。実は何も考えていなかった。すまない」



「なんすかそれ~。ははは。意外に神崎先輩も適当すっね」



 西村は俺の所へテクテクと近づいて来て小声で喋る。



「――気にしないでくださいね神崎さん?」



「いや。気にしてはいないさ。――西村こそいつも俺の心配をありがとな」



 俺はできるだけ愛想良く、普段は浮かべない笑顔を見せて西村を見詰める。すると、俺の顔を見た西村は急に俯いてこう言った。



「しょ、しょんなことないでしゅっ! ――ぁっ! ぅ~……。またかんじゃったよぉ」



「――ふふふ。そんな焦らなくてもいいのに」



「……神崎さんはいじわるですっ」



 俺が西村とヒソヒソと会話をしていると、葛西が突然割り込むようにして間に入ってきた。



「二人とも何こそこそ話しているんだよ!?」



「別にたいした 話はしてないさ。なぁ、西村?」



「――はいっ!」



「ふーん………………」



 葛西は信用していない目で俺達に見た。するとニヤニヤしながら俺達を傍観していた雨宮が声を上げる。



「みんな聞いてくれ! 神崎がこの先のことを何も考えていないようなので、私から一つ提案しようじゃないか!」



「ぉっ。まじっすか! いや~、流石雨宮さんっすね!!」



「はっはっは。なんせ私は美人で頭のきれるスーパーウーマンだからなっ!?」



「よっ! かっこいいっすよ先輩っ!!」



 葛西が雨宮を囃し立てる中、俺は言葉を漏らした。



「――お前が凄いことはわかったから、次の目的を教えてくれ」



「しんざき~。そんなそっけない態度でいいのか~?」



「――――はぁ。才色兼備の雨宮さん。どうか無能な私に次の目標を教えてください」



「なんだ。やれば出来るじゃないか! ……よかろう。私の素晴らしい提案をとくと聞くがよいぞ?」



上から目線の雨宮に呆れながらも問う。



「それで、作戦ってのは何だ?」



「実はな……神崎にも言っていなかったんだが、私にはきみ達以外にもう一人知り合いのダイバーがいるのだよ」



「――それはいったいどう言うことだ? あれほど他のダイバーに知られるわけにはいかないと、言っていたじゃないか!」



「それに関しては大丈夫だ。奴は信用に足りる人物だと私は思っている」



「お前が信用しているからって――――」



俺が雨宮の勝手な判断に反論しようとするのを制止し、葛西が横から口を挟む。



「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ神崎先輩! 俺達のリーダーは雨宮さんっすよ? リーダーが大丈夫って言っているんですからそんなに心配することじゃないと思うっす。鈴もそう思うだろ?」



「――――私は雨宮さんを信じています。勿論……神崎さんも信じていますよっ!?」



「鈴もこう言ってるっすから……ねっ?」



「――わかった。話を遮ってすまん。続けてくれ雨宮」



「あぁ。もっと早く言っていればよかったな……。そのダイバーと言うのが支配者の本の影響があると思われる小説。つまり前回ダイブしたモンスターキングダムとデスワールドのこ とについて教えてもらったんだ。まぁ……、所謂、情報屋だな」



「情報屋か……。それで今からそいつに会いに行くっていうわけか?」



「そのつもりだ。私達の目的は、支配者の本について知るためギリス政府の情報を掴むこと。情報屋なら何か知っているかもしれんしな――」



「その情報屋の方とは連絡は取れるのですか……?」



 西村がそう言うと、雨宮は胸を張って答えた。



「当たり前じゃないか鈴! きみ達が話している間に既に連絡もとっているぞ!」



「それで、何処に行けばそいつに会えるんだ?」








「――――俺をお呼びかな?」


 


雨宮が質問に答えようとした直後、俺達の背後から声が聞こえる。



咄嗟に振り向くと、先程まで誰もいなかったはずの背後に何時の間にか全身黒の服に包んだ人物が佇んでいた。その姿はまるで――――



「にんじゃ………………?」



 葛西が俺達の心中を代表して言葉を漏らした。顔は目以外は隠れており、性別を判断することが難しい。



しかし、先程の声や体型からしておそらく男性であろう。腰には脇差らしき武器も窺える。



雨宮はその姿を視界に捉えると驚きの声を上げた。



「――おぉ! 龍じゃないか!」



「やぁ、あねさん。久しぶりですね」



「うむ。皆! こいつがさっき伝えた情報屋の高崎たかさき りゅうだ!」



「よろしく。皆さんのことはあねさんから聞いてますよ」



 ――こいつがどんな奴なのか謎だ。なんせ未だに素顔も見ることが出来ていないからな……。



 忍者姿の高崎は軽く会釈をし、俺達も順に簡易的に自己紹介をし終わると、雨宮は口を開く。



「それでだが龍。連絡した時に伝えた通り、ギリス政府のについて教えてもらいたいんだが?」



「了解です。あねさん」



「それは助かる! それで……?」



「――現段階で、 デスワールドにダイブしているダイバーは合計で俺を含め10人です」



「10人……? 私達と龍で4人だから――、後6人はいったい何者だ?」



「6人中3人がエスポワール、残り三人がギリス政府ですね」



「なんとっ! エスポワールの連中も来ているのかっ!?」



 ――他にも小説は腐る程あるにも関わらず、10人のダイバーがこの小説にダイブしていることは驚きだ。それよりも高崎はそこまで詳細な情報を持っているとは……。流石情報屋と言ったところか?



「その連中が何処にいるかもわかるか?」



「勿論ですよ。此処からはかなり遠い場所に互いに根城を構えています。おそらく……一日あれば着くでしょう」



「――なるほど。奴らは互いの存在に気がついているのか?」



「気づいているでしょうね。近いうちに争いが起こる可能性は高いですね……」



「うーむ……。彼らははいったい何のためにこの世界に――――」



「残念ながらその情報は掴むことはできませんでした……」



雨宮は落ち込む高崎を慌てて励まし、口を開く。



「――きみ達はどう思う?」



「正直なんもわかんないっす……。その連中に直接聞けばいいんじゃないんすか?」



「りくちゃんそんな簡単には――」



「――いや。りく君の言うとおりかもな」



「待て雨宮! 他のダイバーとは関わらないようにするんじゃないのか?」



「まずは様子を見に行くだけだから安心しろ!」



 俺は雨宮の言葉に渋々頷く。



「――それでは行きましょうか? 時間もないことですし……。俺が案内するので着いて来て下さい」



 高崎はそう言うと俺達の間を抜け、前を歩き出した。雨宮と葛西もそれに続く。



西村は申し訳なさそうに俺をチラッと見た後、テクテクと雨宮の後を追った。



 俺は灰色にぬったくられた曇り空を突き刺すように見詰めた後、仲間の後ろ姿を視界に入れる。



そして、乾いた地面に重くなった足を踏み出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ