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Book Dive  作者: カオス
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狂気の世界1

{神崎side}




「ふわぁ~……」



 雨宮の間の抜けた声が室内に響く。俺達は今湖の化け物を倒した対価として与えられた部屋にいた。



この部屋には俺と雨宮の他に二人の人間がテーブルを境に向かい合って座っていた。その二人とは湖で助けた青年達である。



雨宮が疲労による眠気と格闘しながら、制服のスカーフを緩めると口を開いた。



「状況は神崎から聞いた。私を助けてくれたのだな? 礼を言う。――――ありがとう」



 少女は小動物のようにペコペコと可愛らしく頭を下げながら口を開く。



「此方こそありがとうごじゃいます! 私達の命を助けてくださって!」



 少女は緊張しているのか噛んでいることも気がつかず、何度も頭を下げる。



そんな姿を見た雨宮は、微笑みを浮かべながら少女を制止した。



「それにしてもきみの能力は凄いな? 傷が最初からなかったように綺麗に直っている……。能力名は何だ?」



「女神のゴット ティアーズと言う能力です。そんな凄い能力ではないですよ」



 雨宮がさらに質問を続けようとする前に俺は口を挟む。



「仲良くやるのはいいが、俺達を忘れないでくれよ? まずは互いに自己紹介するのが先だろう? 」



「ん? そうだな。悪い悪い! それじゃ、改めて私の名前は雨宮真理奈! 胸はEカップだ。よろしくぅ!」



「最後の情報はいらねぇだろ……。はぁ――。俺の名は神崎大翔だ。よろしく頼む」



 俺達の自己紹介が終わるの見計らって、先程雨宮と話していた少女が自己紹介を始める。



「わ、わたしの名前は西村にしむら すずです。今回は本当にありがとうございました! それと、わたしの胸は……」



 西村が雨宮と同じように自身のバストを言おうとした途端、今まで西村の隣で黙っていた青年が慌てて口を挟む。



「おい。鈴! それは言わなくていいんだよ! ったく……。鈴はいつも素直すぎるんだから。――ぁ! 自己紹介でしたね。俺の名前は葛西 りく(かさい りく)って言います! あの化け物から鈴を助けてくれて本当に感謝しています!」



 全員の自己紹介が終わると、雨宮はまた西村に質問を続けた。



西村はふんわりとした栗色の巻きに、落ち着いた雰囲気を漂わせる瞳の雨宮とは対照的な美少女である。



そして、葛西は燃え盛る炎のような赤髪をワックスで立たせ、自身に溢れた瞳の美男子。



 ――葛西に西村。悪い奴ではないとはわかったが……。それにしても雨宮の傷が治ったのは驚いたな。かなり深い傷だったんだが



ガンマを倒した後一刻も早く治療するために、俺は気絶している三人を運ぼうしていると、ちょうど西村が目を覚ましたのである。



彼女は傷ついた二人を見ると咄嗟にスキルブックを出現させ、能力を行使した。



 すると雨宮と葛西は手から放出された白い光に包まれ、暫くすると血だらけだった傷が何もなかったように完治していたのである。



 ――女神の涙。見たところ外の傷は治せるが、病気や疲労などは取れないのだろう。雨宮が眠たそうにしているからな。



 その後俺はなんとか担いで村に戻ると、族長を含めた村の連中が俺達を出迎えたくれた。



そして村一番の部屋を与えられ、今に至るって

わけだ。



それにしてもあの態度の変わりようには目を見開いたよ。まぁ、そのおかげで豪華部屋や食事を貰うことができたのだが。



そんな思考を 繰り返していると雨宮の驚いた声が響いた。



「なんだって! りく君はダイバーじゃないのかっ……!?」



 ――いつから名前で呼ぶようになったんだよ。それにしても葛西はダイバーではない?



「そうなのか? 葛西りく?」



「そういえば言ってなかったっすね。俺はダイバーではなくて興味本位で着いて来ただけっすよ。そしたらあんな危険な目に合うなんて……」



 葛西は焦燥感を露にして西村を見詰める。その姿を見て雨宮は渋い顔で言った。



「知らなかったとは言えこんな危険な世界に能力なしで来るとは……。きみ達はどうやってその本を手に入れたんだい?」



 はっきりとした口調で葛西はこう言った。



「鈴の家族は本が大好きで、世界中に行っては本を買ってくる程の愛読家だったんす。それもあってか、鈴の家にはたくさん本があったっす。


そんなある日、いつもみたいに鈴の家で俺達は幼馴染だったので遊んでいました。そして、一緒に何か面白い本がないか探してたんすよ。そしたらこの古びた本を見つけたっす」



「それきみ達はこの世界に来たと?」



「そうっす。最初はふざけた本だなと思ったんすけど、鈴が本を手にした瞬間本が輝きだしたこともあって、興味本位でこの世界にダイブしたんです」



「なるほど。――――よし、わかったぞ! 数多ある本の中で私達がこうして出会えたのは、偶然なんかじゃないと思っている。そこでだ! 私からきみ達に頼みたいことがある!」



 俺は雨宮が言い出そうとしていることに気がつき、驚きながら言葉を放つ。



「おい……まさかこいつらを巻き込もうとしてんか?」



「そうだ。私達二人で探すより人数が多い方がきみもいいだろう?」



「それはそうだ が……、こいつらをまた危険な目にあわせるかもしれないんだぞ?」



「大丈夫さ。私はもうあんな風には負けないからな……」



 雨宮の発言に呆れ果て、返答するのを俺は止めた。



彼らの様子を窺うと、チラチラと興味があるような顔で俺達を見ていた。



雨宮は強めの口調で言い放った。



「今からきみ達にとっては現実味のない話をする。だが落ち着いて聞いてくれ。実は……私達はある目的があってこの世界に来たんだ」



「その目的とはいったい何すか?」



「――――現実世界の滅亡を救うことだ」



 葛西達が同時に驚きの声を上げる。葛西は困惑した様子で雨宮に問いかけた。



「め、めつぼうってどういうことっすか!?」



「そうだな……。うーん。まずは何から話そうか――」



 そう言って雨宮は腕を組むと、俺に話してくれた時のように彼らに世界の危機が迫っていること、このブックダイブの世界の事、そして俺達が協力を求めていることについて丁寧に話した。



最後まで聞き終えた二人は顔を見合い、未だに信じきれていないといった様子で唸り声を上げる。



「そんなスケールのでかい話を信じろと言われてもな……。でも実際にこんな世界に来ているわけだし――。うーん……」



「簡単に信じることはできないと思う。――だが! 本当のことなんだ!」



 葛西は考え事をしている西村に「どう思う?」と声をかけた。



彼女は今までのほんわかした表情を一変させ、決意に満ちた顔で口を開く。



「私は雨宮さんの言うこと信じます。――そしてこんな私でよればぜひ手伝わせてください!」



「本気か……!? こんな現実味もない話を信じるっていうのか!? ――――ってまさか! お前あれのために……?」



 葛西は目を見開き西村を見据えた。彼女は目をいっさい逸らさずに頷く。



「うん。雨宮さん達が嘘をつくとはおもえないし、私達を助けてくれたお礼もしなきゃだよっ!?」



「それはそうだけど……。はぁ、わかったよ。鈴がそう言うなら俺ももう疑ったりはしない! 俺も手伝うっす!」



 葛西は西村の疑いのない瞳に押し負け、呆れながらもこの状況について信じてくれたようだ。



雨宮は顔に笑みを浮かべ、二人に礼を述べる。俺は彼らの会話に違和感を感じていたが、雨宮がそれについて何も言おうとしないので 、問い詰めることはしなかった。



「本当にいいのかい? 私から頼んでおいてなんだが……、この先たくさんの危険が待ち構えているかもしれないんだぞ?」



 葛西と西村は曇りのない瞳で雨宮を見詰め、強く頷く。



「二人とも本当にありがとう。――しかし、りく君はダイバーではないのだよな? 困ったものだ……」



「俺は大丈夫ですよ! 逃げ足だけは速いっすから」



 ドヤ顔で言い放つ葛西に俺は若干引き、雨宮は腹を抱えて笑った。



その後も「俺の体の中には神をも越える力を持っているんで余裕っすよ。きらんっ」などと意味のわからないことを真剣な顔つきで言い始めた。



雨宮はそのふざけた話を本当に信じてしまったのか、目を輝かせながら付き合ってしまい、俺はめんどくさくなり口をつむぐ。



そんな俺を見てか西村が口を開いた。



「りくちゃんそんな馬鹿みたいな事言わないのっ! 神崎さん達に迷惑でしょ!?」



「すず! 俺はふざけたこ……。うぅ――。わかったよ。でも嘘なんかじゃないんだぞ! 本当に!」



「もう知らないっ!」



「そんな怒るなよすずー」



焦った顔で泣きつく葛西を無視し、西村は俺達に視線を合わせる。



「雨宮さんも神崎さんもすいません。りくちゃんはいつも意味のわからないことを言いたがるんです……」



「なんだって……! 嘘だったのか――」



 どうやら雨宮は本当に信じていたようで、嘘だと聞くとあからさまに落胆してしまった。



 ――雨宮はやっぱり天然なのか?



「此方こそ雨宮がアホですまない」



「おい神崎! アホとはなんだアホとは!」



「はぁ……。のん気に会話している場合じゃないだろう? なんのためにこの世界に来たのか忘れたのか?」



「――そうだったな。つい仲間が出来てうかれてしまった」



「それで、結局まだ支配者の本について手がかりがつかめていないが……どうする?」



 雨宮も俺と同じことを少しは考えていたらしく、眉間に皺を寄せる。



「この世界が支配者の本の影響を受けたことは真実だ。おそらくそれが原因であのギリス政府の奴も来たのだろう。――しかし、そう簡単には手がかりは掴めなかったが……」



「影響が起きた世界を順々に探していくことで、本当に支配者の本に辿り着けるのか?」



「わからない。だが、今はそれしか方法がないのだ



 俺と雨宮の会話を聞いていた葛西が口を開いた。



「二人の話を聞いてて思ったんすけど、支配者の本によって偶然この世界が影響を受けたんじゃなくて、ある目的があって、誰かがこの世界に影響を与えたんじゃないですか?」



「それはどういうことだい? あるダイバーがこの世界を選んで支配者の本を使用したというのか?」



「そうっす。雨宮さん達の考え方だと支配者の本に、あるダイバーが干渉したことによっていくつかの世界に影響がでてしまったってことっすよ? 


それはおかしいと思うっす。だって、支配者の本はブックダイブの世界を管理している本。そんな本が無理やりに干渉されたらいくつかの世界だけではなくて、全ての世界に影響がでるっすよ」



「――――なるほど。それは考えもしなかった。そうか……よく考えればそうだな。よく気がついたな?」



「いやいや、そんな大したことでも……あるかな~? ただ俺が天才だっただけのことですよ……ふっふっふ!」



葛西が天才云々は別として、確かに彼の考え方の方が的を得ている気がする。



俺は浮かれ狂っている葛西を尻目に口を開いた。



「それが本当だとしたら、そいつは何のためにそんなことを? しかも、そいつはある程度支配者の本を扱えるってことになるんじゃないか?」



「神崎の言う通りだ。と言うことは私達が戦ったガンマは、支配者の本の効力を調査するためにここの来たんじゃないだろうか?ギリス政府の連中が意味もなくこの世界に来るとは考えられないし」



「なら支配者の本への手がかりはギリス政府ってことなのか? ――っち。もしそうなら厄介なことになってきたな? 正直あんな奴とはもう戦いたくないぞ」



「うむ。まぁ、何はともあれこれで一歩前に進んだはずだ。よく気づいてくれたりく君! きみのおかげだ!」



 雨宮の言葉に葛西はさらに表情を緩め、自慢げに鼻を鳴らす。そんな中西村が疑問を口にした。



「雨宮さん達はギリス政府という人達が何処にいるか知っているんですか?」



「いや。残念ながら正確な場所はわかっていない。――だが、ギリス政府と対立する組織。エスポワールの連中なら何か知っているかもしれないな」



「その方々に どうにかして会うことはできないのでしょうか?」



「うーむ。実は会うことは簡単なんだが……、この先のことを考えると会わないほうがいいと思うんだ」



 俺は言葉を詰まらせる雨宮に疑問を口にする。



「それは何故だ? 一刻も早く手がかかりを掴むならエスポワールに接触すべきだろう?」



「そうなんだが……、今の私達はギリス政府やエスポワール、ましてや他の無所属のダイバーにも認知されていないはず。もし、私達が他のダイバー達に認知されてしまったら、自ずと邪魔をしてくる連中も現れて来るかもしれない。そうだろ?」



「なるべく邪魔されずに行きたいってことか。なるほど。雨宮の言うことも一理あるか。だが、いずれは他の連中と関わらなければいけなくなると思うが?」



「あぁ。それはわかっている。だが、今はまだ早いと私は思うだけだ。鈴とりく君はどう思う?」



二人は暫く考えた後肯定の意を表した。雨宮はそれを確認するとほっと息を吐く。



「ありがとう。よし、それじゃこの話をこれで終わりだ。――では! この世界にも用はないことだし、そろそろおさらばしようじゃないか?」



 俺はさらに質問を口にする。



「このまま現実世界に帰還するのはいいが、西村と葛西は離れ離れになってしまうんじゃないか?」



「安心しろ。それは大丈夫だ。さっき鈴とフレンド登録しておいたからな!」



「フレンド登録? なんだそれは?」



「――神崎は本当に何も知らないんだなぁ」



 雨宮の呆れ果てた表情を見て、西村が代わりにフレンド登録機能について説明してくれた。



「実はですね、スキルブックの最初のページにも書かれているんですけど、ブックダイバーにはフレンド登録と言われる機能が使えるのです。


これによって登録することで、相手の位置情報などがスキルブックの白紙のページに更新されるんです。


さらにはメールのような機能もあるんですよ! 簡単に例えると……携帯の電話帳機能をもっと便利にしたような機能なんですっ!」



 西村は無邪気な笑みを見せながら説明してくれた。俺はその表情に圧されながら も頷く。



 ――なんだろう? 西村と葛西を見ていると、雨宮を見ている時はまた違った暖かさを感じる。まだ能力の副作用が残っているのだろうか?



 雨宮が立ち上がり言葉を放った。



「よしっ! それじゃそろそろ行こうか!」



 俺達も立ち上がり、葛西はワクワクした表情を見せ突然叫びだした。



「よっしゃあぁぁぁぁ! なんかワクワクしてきたっすね!? 皆さん! これからはこの天才がついているので、大船に乗った気持ちでいてくださいっす!」



「もう……りくちゃん! いきなり叫ぶのはいけないよっ? ――雨宮さんに神崎さん。今回は本当にありがとうございました!それと、これからもよろくおねがいします! ――りくちゃん行くよっ!」



 そう言うと西村は葛西の腕を掴み、帰還の言葉を口にした。



すると、二人はスキルブックから放出された白い光にに包まれ、光が収まると二人の姿は既に消失していた。



雨宮が此方に視線を合わせ、手をギュッと。握り締め言葉を放つ。



『アウト オブ モンスターキングダム』




無機質な声が脳を刺激する。



『おめでとうございます。ダバーランクがGランクからEランクにランクアップしました。次のランクはDランクです』



 視界が強烈な白い光に包まれ、ホワイトアウトする。



少しすると景色は一変し、見慣れた景色が目に映った。



雨宮は俺の手を離し、思いついたように言葉を漏らす。



「そういえばハンターのおっさん達に何も言わないで帰ってきてしまったなぁ……」



「もうあの世界に行くこともないのだから大丈夫だろう。それより今の声、雨宮も聞こえたか?」



「あぁ。ちゃんと聞こえたぞ。ランクが上がったらしいな。うーむ……。まぁ、別にたいした事じゃないだろう。ふわぁ~……。やっぱりまだ眠いな――」



 そう言うと雨宮は俺のベットに勝手に潜り込んだ。



俺が顔をしかめると、彼女はスカーフを抜き取りニヒヒと下品な笑みを浮べた。



「どうだ神崎? きみも眠いだろう? 今なら一緒に寝てやってもいいんだぞぉ? ガンマから助けられた借りもあるしな! とことんサービスしてやろうじゃないか!」



 雨宮は制服のボタンを一つ一つゆっくりと外していった。そして次第に露になる大きな胸。彼女は妖艶な笑みを 浮かべ、上目遣いで此方を見た。



俺は咄嗟に目を逸らし、何もなかったかのように部屋を出ていく。



部屋からは彼女の残念そうな溜め息が、聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。



「ほんとにあいつは………………」



 無意識に言葉が漏れ、俺はドアを背に廊下に座り込む。



そして、モンスターキングダムで起きたことが脳裏に浮かぶ。初めて人を斬った感触。



あの時は恐怖を感じたが今は何も感じられない――――。



「俺はいったい何者なんだ……? わからない――。他のやつらもこんなめんどくさい感情を持っているのものなのか……?」



 ――雨宮に会ったことによって確かに俺は変わりつつある。それが良いことなのか、悪いことなのかはわからない。だがこれが普通の人間だと言うことなのだろう――――。



「めんどくせぇな……」




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