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Book Dive  作者: カオス
27/28

最後の選択5

{神崎side}



ホワイトアウトし移り変わる視界。俺は余りの眩しさに咄嗟に目を瞑る。そして次の瞬間には――――生暖かい風が全身を流れた。



 目を開けると、そこには――――――――



「学校の屋上………………?」



 俺の視界に写ったのは雨宮と初めて出会った屋上。そして彼女は俺の目の前で此方に背中を向けながら佇んでいた。



俺は咄嗟に声をかける。



「何が起きたんだ……?」



「――――――――」



「あめみや……?」



 俺が雨宮に近づこうとした途端、彼女から野太い声が聞こえる。



『やぁ。久々だね。神崎大翔君』



「―――その声はっ! 雨宮の父さん!?」



『そうだ。良く支配者の本の支配から逃れてくれたね。――――ありがとう』



「何故貴方が……? 俺が支配されていた――。そうだ。何故俺は支配されていたんだ?」



 俺がそう問うと、彼女は此方を振り向く。



『きみは気がついていたのか?』



「あぁ。理由はわからないが……」



『前に話しただろう? きみの父親と私が支配者の本の研究をしていたことを』



「それと何か関係が……?」



『あぁ。実は一度だけ、彼は我々が研究する場所に幼いきみを連れて来た事があっ た。彼はきみに自身の仕事を見せたかったのだろう。


しかし、偶然か必然かわからないが、きみが研究室に現われた瞬間。今まで安定していた支配者の本が突如暴走し始めた。そして――本から溢れた光がきみを包み込んだのだ』



「そんなまさか――」



雨宮の姿をした渡辺は言葉を漏らす。


『光は直ぐに消え去り、きみに外的症状は見られなかった。しかし、それを機にきみは赤ん坊の仕事である泣くことを忘れてしまったんだ。


その時私は理解したよ。きみの心が支配されてしまったことにね……。だから私はそんな奇異な事を忘れまいと神崎大翔の実験記録を残すことに決めたのだ。いずれきみが訪れる時のために――』



「なるほど――。それでか……」



『気がついたようだな。だが、既にその支配からきみは自力で抜け出した。これは考えられない事だ。やはりきみに頼むべきことだろう。支配者の本に唯一対抗できた君に……』



「俺に頼む……? 何故貴方は雨宮の身体を??」



『そう心配しないでくれ。今は真理奈の身体を少し借りているだけさ。』



「身体を借りている? でも貴方は――」



『あぁ。ギリスに殺されてしまった。しかし、実は殺される寸前で真理奈のスキルブックと西村君のスキルブックに支配者の本のレプリカを使い、この時のために私の意志がきみ達と対話できるように細工をしておいたのさ』



「ってことは葛西達も今は鈴の兄と対話しているって言うことですか?」



『そうなるね。西村君はあの 子達にまかせるしかない。もしかしたら、自分の過ちを認めてくれるかもしれないからね……』



「でも、何故そんな事を?」



 渡辺さんは一瞬間を置いた後、言葉を放つ。








『君は世界を救う気はあるか』





刹那、俺の頭に過去の一部分が蘇る。



 ――まさか、あの夢が正夢になろうとは……。『世界を救う気はあるか』か――。


俺が雨宮に会う前に見た夢だ。あの時の俺はならば

答えはNOだ。しかし今は―――



「あります――」



 自身を持ってYESと答えることが出来る。俺は葛西達が住む世界を、雨宮と共に過ごした世界を救いたい。



『――――そうか。ならば問おう。きみは真理奈の命と引き換えに世界を救う覚悟はあるか?』



「いったい何を………………?」



『西村君が発動してしまったロスト・ワールドを止める方法が一つだけある。それが真理奈を殺すことだ』



「なんで雨宮を殺す事が発動を止める事につながるんだよっ!?」



『支配者の本には三つの絶対的力が存在した。一つは世界創造の力。一つは心の支配の力。一つは完全封印の力だ。


私達は支配者の本を操るための研究の過程で、この三つの力を分けることで操ることに成功した。それによって、本物以外に二つのレプリカが作られたんだ。


本物には世界創造を残し、ギリスのレプリカには心の支配を、そして私のレプリカには完全封印の力を付与した』



「それがどうしたっていうんだ?」



『この ままではロスト・ワールドによって小説の世界全てが破壊されてしまう。さらには現実世界にも影響が出るだろう――。


どうにかして止めなければならない。ロスト・ワールドを止める方法は、私のレプリカの能力――完全封印で真理奈の身体に支配者の本を一時的に封印し、真理奈を通して支配者の本を破壊することしかない』



 渡辺は悔しそうに呻く。俺は恐る恐る言葉を漏らした。



「それが本当だとして雨宮以外じゃ駄目なのか……?」



『――真理奈以外にももう一人だけ適用者はいる』



「それならっ――――!」



『だが……もう一人は西村君だ』



 ――西村駆ける。鈴のお兄さんか……




『私には彼を巻き込む権利はない――。勿論、真理奈を巻き込む権利もないのだが……。しかし、真理奈なら私の気持ちをわかってくれるはずだと思っている。


きみにこのような決断をさせるのは間違っているのは私もわかっている。だが! もう時間がないのだ……。


私の意志も直ぐに消え去ってしまうだろう。きみが真理奈を殺せば、世界は救われる。きみが真理奈を救えば、この世界は消滅する。二つに一つだ……』



 ――雨宮を救えば、結果的に俺も含めた全ての人間が死んでしまう。こんなの選択する余地もないじゃねぇかよっ! ――くそっ!

せっかく俺の本当の気持ちに気がついたっていうのに……



「――――――雨宮を救えば、全てが崩壊してしまうんだよな?」



『あぁ――――』



脳内では既に答えは出ている。俺が今すべき事がなんなのかわかっている。しかし、その答えを俺の心が否定する。どうする事もできない状況。俺は複雑に荒れ狂う感情を押し殺す。





「――――――――――――――――――――――――――――――わかった」



 俺は込み上げてくる涙を堪えて、言葉を漏らした。



「だが、一つだけお願いがある……」



『なんだね?』



「最 後は雨宮と二人で話させてくれないか?」



『――――そうだな。神崎大翔君……。後は頼んだよ――』



 そう言うと渡辺の声は消えていき、普段の透き通るような綺麗な声に戻る。



俺が何も喋らずに俯いていると、雨宮が口を開いた。



「――神崎。きみは何も悪くない。きみが今から行う行動はとても尊い事だ。だから……何も責任を背負う事はないんだぞ?」




雨宮は全てを知っているような口ぶりで言い放つ。その言葉にせきとめていた涙の壁が崩壊し、大量の涙が溢れ出す。



そんな俺に雨宮はいつもの明るい声で言い放った。



「泣くな! 神崎!! お前はそんな弱いやつじゃないだろう?? きみはいつも私達を助けてくれた。きみと会って私は変わる事が出来た。


きみのおかげでここまで頑張ることができた……。神崎――いや、大翔っ! 今までありがとう!!」



 俺は相変わらず俯いたまま、弱弱しく言葉を漏らす。



「――雨宮。俺の方こそお前に出会って、全てが変わった。目に見える世界も、自分の価値観でさせえ――。お前がいたからこそ俺は自分を保っていられた。


俺はこの感情がどんなものなのか今までわからなかった……。だけど! やっと気がつけたんだ俺の本当の気持ちに――。真理奈……。俺はお前の事が大好きだ!!」



「―――どうやらもう時間がないようだね。――大翔。私もきみの事が大好きだよ! はははっ。名前だけでも恥ずかしくて言えなかったのにこんな事言っちゃうなんて……。大翔っ! 鈴とりく君は頼んだよっ!」



 刹那、雨宮の身体が輝き出す。俺はスキルブックからロングソードを出現 させた。込み上げてくる言葉。



「ごめん――ごめんっ。ごめんっ……! ――――――――お願いだ。死んでくれ………………」



 過去の記憶が走馬灯のように頭の中を流れる。



これから俺が行おうとしていることを考えると全身が震え、今にも目の前の現実から逃げてしまいそうになる。



本当にこれでいいのか? と。何度自身に同じ問いかけをしただろうか。



結局、答えなんて出るはずもなかった。そう答えなんて存在しない。何が正しいかなんて誰にもわからないのだ――。



 手の震えによりカタカタと音をたてている武器を、両手でしっかりと握り締める。



彼女は何も喋らない。いや。喋ることができないのだ。彼女は今どんな表情で俺を見ているのだろうか。



俺はそんな彼女の顔を見ることさえできない卑怯者。



 何故こんな事になってしまったんだ――――。あんなにも楽しい日々をくれた彼女。



そして愛を与えてくれた彼女を俺は――――――








殺す。




彼女との記憶を断ち切るかのように、鉛みたいに重くなった足を動かし走り出す。



たかが十数歩の距離がとてつもなく遠くに感じら

れる。それでも足を止めることはしなかった。一度足を止めてしまったらもう動くことが出来ないと確信していたからだ。



様々な重みを背負いながら、彼女の穢れのない綺麗な体に武器を向けた。



悲しみの篭った剣先が彼女の心臓を貫く瞬間。彼女の表情が垣間見える。



 彼女は――――――――――どうしようもないくらい綺麗な微笑みを浮かべていた。



 その笑顔を見た瞬間、俺の決意は簡単にも崩れ去り、俺の武器は雨宮に届く事はなかった。



「神崎。何で殺してくれないんだよっ……」



「俺にはやっぱりできないよ。雨宮――――」



「この――馬鹿野郎っ………………」



 そして――――――――――――――――――――世界滅亡のタイムリミットが訪れた。



 光の粒子となり、消失して行く世界。その美しくも、もの悲しい光景に魅了されながら俺達は見つめ合う。



「きみのせいでこの世界はもう終わりだよっ……」



「そうだな……。皆は謝っても許してくれないだろうな。だけど――――例え世界を天秤にかけようとも俺 は真理奈を選ぶよ。そんな馬鹿な俺をきみは許してくれるかな?」



「――――――――――当たり前だっ! 好きだよ…………大翔!」



 俺達は消失する世界で初めて口付けを交わした。そして、互いの手を強く握り締め、俺達は目を瞑る。頭に浮かぶのは大切な仲間達。



 ――鈴、葛西。二人ともごめんな。最後にお前らの顔を見たかった……。俺はお前らと旅したことを絶対に忘れない。また、いつか――



「――――ありがとう。二人とも」







「まだ終わっていないっすよ! 神崎先輩!!」



「そうですよ! 雨宮さんっ!!」



 突如聞こえる懐かしい声。俺達が咄嗟に目を開けると、そこには――――――――



「葛西! それに鈴もっ!!」



「――何故きみ達がここにっ!?」



 崩れ去っていく世界の中で、目に見えるほどの膨大なBDエネルギーを放出させる葛西と鈴。



さらには、ロスト・ワールドを発動させた西村駆の姿も見て取れた。葛西が言葉を漏らす。



「今は詳しいことを言っている時間はないっすけど、これだけは言っておきます! また会えてよかった! 二人とも後は俺達に任せてください!」



「今まで助けてくれた借りをここで私達が返します!! 能力進化――――女神の聖杯ゴッドチャリス。与えられる進化の力! りくちゃんの能力を進化!!」



 鈴がそう言うと、鈴のBDエネルギーが葛西に集まる。そして――



「ありがとう鈴! 能力進化――――創造神のクリエイティビティ パワー。支配者の本を創造。能力――世界創造」



 葛西が能力を使用した瞬間、光の粒子となって消失していた世界が、逆再生のように元に戻っていく。



とても強い輝きを放つ葛西と鈴 。次第にその光は大きくなり、俺達も包み込んでいく。



それにともなって遠くなる意識。



俺は雨宮の手を強く握りながら、意識を手放した。







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