最後の選択3
{神崎side}
一ノ瀬達がファイと戦闘を行っていた時と同じくして、多くの場所で激しい戦闘が行われていた。
俺達はギリスに戦闘を仕掛けようとすると何処からか新たなギリス政府幹部が立ちはだかった。
その名もシータ。綺麗な水色の長髪をなびかせた美人だ。
――どうやらこいつを倒さなければギリスと戦うことはできないようだ。仕方が無い。ギリスは一旦高崎に任せるか・・・。
現在の状況は高崎がギリスと一対一での戦闘を開始。ポセイドンは敵の最高幹部の一人であるブサイと戦闘中である。
能力を発動させた俺達を見据えながらシータは笑い声を上げた。
「きゃははは! 私と本当に戦うのか? ――いいじゃねぇか! やってやるよ! 能力――惑星の力! 火星!」
「気をつけろ!! 奴の能力は未知数だ! 私が攻撃を防ぐから神崎は隙を窺いつつ攻撃を! 葛西は鈴を守れ!! 鈴はすぐに能力を使用できる準備を! わかったな!?」
俺達は雨宮の言葉に頷く。その間にもシータの能力は発動され、彼女を中心に周囲の地面が震えて裂けていく。
振動は相当な強さでバランスを保つのがやっとだった。
さら に、裂けた地面から大量の炎が噴き出し、シータの身体を纏うように集束する。
それを見て、雨宮も高濃度な雷風を自身に纏った。
対峙する二人の美しい女性――。一人は絹のように綺麗な黒髪をなびかせ、雷風を纏う雨宮真理奈。
もう一人は透き通るような水色の長髪を揺らし、燃え盛る炎を纏うギリス政府幹部シータ。
「行くぜぇ? 黒髪のお嬢さん!!」
「さぁ、来い!!」
二人の女性は物凄い速さで移動する。そして何時の間にか出現させた互いの武器が、激しい金属音が響かせながら衝突する。
雨宮は刀を、シータは先端部に球体が付いたステッキを持っていた。
何度か斬り合うがお互いにダメージを与えることは出来ない。雨宮は後方へ距離を取る。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
雨宮が両手を広げ気合を入れると、彼女の左右に膨大な雷風が渦巻き始める。
そして二つの巨大な竜巻を作り出した。彼女が両手をシータに向けて振ると、竜巻は地面を抉りながら迫り直撃する。
数十秒雷風の竜巻はシータを襲い続けた。
「やりましたね雨宮さん!!」
「――――いや。まだだ……!」
雷風の竜巻が晴れると、無傷のシータが現われた。
しかし、先程のように炎を纏っておらず、その代わりに目が眩む程の輝きを放つ、黄金の鎧を彼女は身に着けていた。
「きゃははは! これが金星の力だ! 防御の金星に! 攻撃の火星!」
「厄介だな……。どうする?」
「雨宮――。次は俺も行く。炎は任せたぞ?」
俺がそう言うと、雨宮はこの状況でもゆるい笑みを浮かべ頷いた。
俺も込み上げる笑いを抑えつつ新しく手に入 れたロングソードを手に持つ。
「まず速さに特化した黄色。トリガーは楽しむこと――。ははは! 興奮してきたぜ! はっ!!」
一つ気合を入れると、身体中から溢れる光を足に集める。
そして、一瞬でシータとの距離を詰めた。俺はロングソードを彼女に振るうが、流石に黄金の鎧に弾かれてしまう。
カキンッ。カキンッ。カキン。
シータの周りを高速で動きながら何度も斬りつける。
彼女はその間不適な笑みを浮かべ、時折炎を噴出
させる。
――やはり見た目通り防御力が高い。黄色じゃ攻撃は通らないか……。ならば――能力変化。赤!!
俺はシータの背後に高速で移動し、能力を攻撃の赤に変化させる。そして、膨大なエネルギーを剣に集め全力で振るった。
鈍器で殴った時のような鈍い音と共に、ロングソードは衝撃に耐えられず砕け散る。
――また壊れやがった。これでも攻撃は通らないのか……? いや――効いているぞ!!
シータを見ると、徐々に鎧に亀裂が入り始めた。そして騒がしい音を立てながら崩れ去る。
さらには、シータ自身もダメージを受けたのか地面に膝を着く。
その隙を狙って即座に雨宮の雷風がシータを襲った。
雷風を飲み込むように、膨大の量の炎を放出させることでシータはなんとか雨宮の攻撃を回避する。
しかし、先程の俺の攻撃が効いているのか未だに立ち上がることは出来ないようだ。
彼女は怒り狂いながら炎を噴射する。俺達は噴出された炎をなんなく避けた。
しかし――――――
「しまったっ!! 炎が葛西達の方向へ!」
「くそっ――。間に合わない……っ」
シータの噴出した炎が葛西と鈴を飲み込む。俺の脳内には一瞬で最悪の光景が浮かんだ。
しかし、そのイメージとは裏腹に炎が消えると、ドヤ顔でキメポーズ姿の葛西と若干引き気味の 鈴が姿を現す。
「無事か!! きみ達はもっと遠くに避難していろ!!」
「嫌っすよ!!」
「何をわがままを!? ――鈴! りく君を連れて行ってくれ!!」
「いえ……。今回は私もりくちゃんの意見に賛成です!」
「鈴まで――――!?」
葛西は両手に銃を生成し、鈴はスキルブックから弓を取り出し激昂した。
「俺達だって戦えるっす! 何時までも守られているわけにはいかないんだっ!!」
「そうですよ! 真理奈さんは知らないかもしれないですけど、私達だって修行したんですよ! ねっ! りくちゃん!!」
「あぁ! 二人がなんと言おうと俺達は戦うっす!!」
そう言って二人は俺達の隣に立つ。雨宮はため息を一つついた後、嬉しそうな表情で叫んだ。
「みんな! 一気に畳み掛けるぞ!」
俺と雨宮はシータとの距離を詰める。彼女は地面に膝を着きながらも炎を放出しようとした。
刹那、背後に控えていた葛西の銃弾と鈴の弓が襲い掛かった。彼女はその攻撃を地面を転がり回避。
しかし、その時には既に俺の新しく出したロング
ソードと雨宮の漆黒の刀が迫っていた。
シータは再度自身を黄金の鎧を纏うが、瞬刻の間にそれは鈍い音を響かせ砕け散った。
雨宮は追い討ちと言わんばかりに雷風を飛ばし、葛西と鈴の遠距離攻撃もシータに直撃する。
雷風が晴れると全身ボロボロのシータの姿が視界に写った。彼女は悲痛な呻き声を上げ、此方に鋭い視線を向ける。
雨宮は俺に目配せすると言葉を漏らす。
「――私が止めをさす」
「まて! 俺が殺る……。お前らの手を汚させるわけにはいかない」
そう口論していると葛西達が声を張り上げた。
「二人とも駄目っす! 殺してはいけない!!」
「そうです!! 例え相手だろうと、殺してしまったら私達も同じです!!」
「――だが、俺は既に人を殺している。もう汚れているんだ! だから……」
「駄目です!! それならば、なおさら大翔さんが人を殺すことは私が許しません!!」
「 鈴………………。ありがとう――。奴は捕縛しよう。雨宮もそれでいいな?」
「あぁ。皆がそう言うならば私も賛成だ。ならまずは気絶させ――――――」
突如として感じるシータの殺気。彼女はフラフラになりながらも立ち上がり、此方に両手を向けていた。
そして――――
「きゃはははは……。お前らは此処で死ぬんだよっ!! 私の全力を見せてやる! 行くぜぇ! ――――――流星群!!」
その直後、上空からとてつもない騒音と共に膨大な量の隕石が姿を現した。
シータの狂った笑い声が耳を刺激する。
「きゃははははははははは……はぁ、はぁ――。もうお前らは終わりだぁぁ!!」
――あれはまずい!! どうする!? どうすればいい!? 逃げ切るには範囲が広すぎる……!
「みんな! 私の周りに集まるんだ!」
「――どうする気だ!?」
「私が雷風で落ちてくる岩を破壊する」
「本気か!? あんな量を一人でだぞ!?」
「私一人では無理だ。だからみんな! 私に力を貸してくれ!! 私にみんなのBDエネルギーを分けてくれ!!」
雨宮は真剣な眼差しで俺達を見回す。その大それた提案に俺達は浅いため息をつくと、雨宮の肩に其々手を置いた。
「みんな――。ありがとう……! 時間が無い。能力を全開で発動させる。能力発動――風神雷神! ――暴神二強の守り!!」
雨宮を中心に周囲に膨大な雷風が渦巻き、俺達を包み込んだ。
俺達のエネルギーも手から雨宮の体に流れていくのが感じられる。
――中々の量が吸い取られていく。葛西には少し厳しいかもしれないが、頑張ってもらうしかない――――。
連続で多数の鈍い衝撃音と破砕音が全身を震えさせた。雨宮は目を瞑り、普段のおちゃらけた雰囲気は一切見られなかった。
額にからは汗が垂れ落ち、時折苦しそうな表情をする。
暫くの間シータの攻撃を防いでいると、突然何処からか耳を劈くような音が聞こえ、さらには地面が大きく揺れる。
その影響で彼女は態勢を崩し、能力の維持が途絶える。
雷風が消え去り、視界に写ったのは空から差す巨大な光の柱。皆絶句する中、雨宮が驚きの声を上げ
た。
「――――なんだあれは?」
「たしかあの方向には一ノ瀬達がいたはずだ……」
「そんな事よりシータの攻撃がっ!!」
葛西の言葉により俺が慌てていると、雨宮が言葉を漏らした。
「もう大丈夫だ。あそこを見てみろ」
「何を――――」
雨宮の視線の先を追う。するとそこには既に力尽き、地面に倒れたシータの姿が目に入る。
俺達は恐る恐る近づき、安否を確認した。
「うーむ――。どうやら気絶しているだけのようだな……」
「よかったぁ――――――」
鈴は本当に安心した様子で息を撫で下ろす。俺は前方を見ながら唸るように言った。
「それにしてもさっきの光はなんだったんだ……?」
「――今は気にすることではないだろう。こいつを捕縛して先に行くぞ!」
俺達は葛西の作り出した道具でシータを捕縛し、休む間も無く高崎とギリスの元へと足を速める。
「みんな! BDエネルギーはまだ大丈夫か?? 特に葛西と雨宮。どうだ?」
「私は問題ない。しかし――――」
「心配無用っすよ! 俺もまだまだいけます!」
――葛西はそう言っているが、相当厳しいだろう……。回復するまで俺がなんとかしなければ
「葛西と雨宮はBDエネルギーの回復に努めろ。最初は俺がなんとかする」
そう言って俺は前を見据える。すると前方から何か黒い物体が地面を転がりながら此方に向かってくる。そして俺の目の前で止まった。
「――おい! 高崎!! どうしたんだ!?」
黒い物体の正体は――忍者衣装を纏った高崎であった。
彼は悲痛な表情を浮べ、立ち上がり此方を見る。
「――くそっ。姉さん達ですか……。幹部は倒せたようですね――――」
「龍! どうしたんだ!? ギリスにやられたのか?」
「――はい。やはり、あいつは相当強いです」
「もう私達が来たからには大丈夫だ! 助太刀するぞ!」
高崎が言葉を放つよりも先に空中から感じた気配。
俺達は即座に視線を向ける。するとそこには足場も何もない空中で佇むギリスの姿が見えた。
彼は奇妙な笑みを浮かべ、声を発する。
「おや? 私の部下を倒したのか。中々やるじゃないか。渡辺の娘達よ――。これで少しは楽しめるかな?」
「ギリスっ……!! やっとお前と戦える!! 覚悟しろ!」
今にも襲い掛かろうとする雨宮を止め、俺は高崎に目配せした。彼は俺の意図を読み取ったのか口を開 く。
「奴の能力は――混沌。全ての力を混沌の中に飲み込む能力だ。奴には物理攻撃以外は効かない」
「どうやって奴は空中に浮いている?」
「それは奴が足元に見えない足場を作り出しているからだ」
「見えない足場……?」
「あぁ。奴はBDエネルギーの形を変換させ、足場として利用している。BDエネルギーとはお前が思っている以上に柔軟なエネルギーだからな」
――このエネルギーはそんな事もできるのか?
「だが、BDエネルギーなら俺達の目に見えるはずだろ?」
「奴ほどの使い手ならば、他の者に限りなく見えなくすることもできる。しかし、見えないわけではない」
俺は能力で視力を大幅に上昇させる。
すると、確かにギリスの足元には微かだがBDエネルギーが見て取れた。
「私の能力の事は少しは理解してくれたかな? ――それじゃ、きみ達の能力も見せてもらおうじゃないか!!」
「――あねさん。最初は俺と神崎で行きます。いいな神崎?」
俺はロングソードを取り出し、頷く。雨宮は不服そうな顔をしたが、渋々後退した。
高崎はそれを確認すると、小刀を出現させる。ついにギリス政府のボス――ギリスとの戦いが始まる。
高崎は多数の手裏剣を放ち、高速でギリスに迫る。
それに合わせる様にして俺も距離を詰めた。しかし、手裏剣はギリスには届かず、目前でBDエネルギーの壁によって弾かれる。
俺は即座に背後に移動し、剣を振るった。
「――おっと。危ない、危ない」
「ちっ――――」
俺は連続で攻撃を放つが、軽く避けられる。その隙に背後から雨宮、葛西、鈴の遠距離攻撃が迫る。
ギリスはBDエネルギーを器用に操作し、目の前に壁を作り出し俺の斬撃を回避。
そして後ろを振り向き、混沌の能力を発動させ、雨宮と葛西の攻撃を無に返し、鈴の弓を回避した。
葛西の銃弾は元はBDエネルギーのため、ギリスの能力で消されてしまう。
俺は後方に下がり戦況を確認した。
――一奴に まったく攻撃を与えることができない……。ことごとく回避されしまう。しかも、奴は全く反撃をしてこないとは。完全に遊んでやがるな――――。
高崎の能力――影を生きる者は影を操りって忍具を使用し、視界から敵を攻撃する。
先程の手裏剣もその一つだ。ギリスには俺のようなパッシブの能力以外は混沌に飲み込まれ、効かない。
だから物理攻撃しか手段はないのだが、その攻撃も
ギリスのBDエネルギーによって防がれてしまう。
「高崎! どうする!? 物理攻撃も効かないぞ!?」
高崎は小刀を片手にギリスに駆けた。奴は依然として不気味な笑みを浮べ待ち受ける。
そして、高崎の小刀がBDエネルギーの壁に衝突する瞬間。彼の姿は消失し、背後に肉薄していた。
彼の小刀がギリスの首元間近まで迫る。
後数センチで届く刃。しかし――ギリスの裏をかいた奇策であっても攻撃が通ることはなかった。
反射的なのか今まで何もしてこなかったギリスからの反撃。
彼の身体からは黒い混沌のエネルギーが放出され、衝撃波を巻き起こす。
その攻撃に高崎に直撃し、後方へ吹っ飛ばされた。
「――ぐはっ」
俺は即座に能力を赤に変化させ、ギリスに肉薄する。
そして、全力で地面に剣を下ろすと地面は崩壊し、ギリスは体制を崩した。
彼の驚いた表情が垣間見え、何時の間にか戻って来た高崎の攻撃がギリスに炸裂した。
「能力――影を生きる者。第三奥義――連角衝き!!」
高崎の手には忍具の一つである角指が装備されていた。
角指はメリケンサックルのような武器である。高速で高崎の角指がギリスに衝突し、物凄い衝撃波と共に崩れた地面を抉る。
さらに高崎は小さな爆弾である焙烙玉を膨大に落とし、
その場を回避した。
焙烙玉は次々に爆発の連鎖を引き起こし、爆風がギリスを襲う。
「――――やったか?」
高崎がそう言葉を漏らした直後、煙の中から物凄い速さで黒く鋭い槍が襲い掛かってくる。
高崎は忍刀を取り出しその攻撃をいなし、ひとしきり攻撃を避けると、高崎はいくつの手裏剣を煙の中に投げつけた。
そして、金属が弾かれる音と共にギリスは姿を現す。
ギリスは服装は汚れながらも無傷であった。彼は身体に混沌の力を纏わせ、距離を詰める。
高崎も同様に彼に肉薄し忍刀を振るった。忍刀はBDエネルギーに弾かれ、混沌のエネルギーは瞬時に形を大きな拳に変える。
そして、攻撃直後の高崎を殴りつけた。
追い討ちをかけようとするギリスに雨宮の高濃度の雷風が吹き荒れる。
俺は即座に地面を転がる高崎を抱きとめ、場を離れる。
高崎の左腕は変な方向に折れ曲がっているおり、悲痛な表情を浮べていた。
咄嗟にギリスの攻撃を防御したのだろう。
「くそっ! 油断したっ……!」
「お前は鈴に回復してもらえ。俺が時間を稼ぐ!」
高崎は頷くと、ギリスに鋭い視線を向けながらも鈴の元へと下がる。代わりに後方で休んでいた葛西と雨宮が俺の左右に立つ。
俺達は目配せすると、武器を構えた。ギリスは服の汚れを叩きながら口を開いた。
「私としたことが少しはしゃぎ過ぎてしまったな――。玩具は直ぐにボロボロになってしまうのだ……」
「――――玩具だと?」
雨宮はギリスの言葉に眉間に皺を寄せ、言葉を漏らした。
「何か気にでも障ったか? 私にとってお前達はただの暇潰しの玩具にしか過ぎない。私の計画は既に始動している」
「なんだと……?」
「さて? なんだろうな。まぁ、一つ言うならば……お前の父親の本が偽者だったならば、本物は誰が持っていると思う?」
「まさかお前が――?」
雨宮の問いにギリスは不気味な笑みを浮べるだけであった。彼女は舌打ちを一つ打つと、刀を抜き放った。
「第二ラウンドといこうか? せいぜい簡単に死んでくれるなよ? 渡辺の娘よ」
ギリスは今までの防戦一方の構えとは違い、黒い混沌のエネルギーを手に集め、漆黒の剣を作り出した。
俺は哀しみがトリガーとなる守りの型に能力を変化させると、身体からは青い光が溢れ 出した。
「防御は任せろ。雨宮と葛西は攻撃に専念してくれ」
二人は頷くと、同時に駆け出す。俺もその後ろを密着するように着いて行く。
ギリスは葛西の銃弾を軽く避けながらも雨宮の刀に自身の武器を当てた。そして、黒い力を針のような形にさせ、葛西を襲わせる。
俺はその葛西の前に立ち、青い力を溢れさせ待ち受
けた。
カキン。カキン――。
黒い針が迫ると、青い力は壁のように広がった。
そして金属に当たった時のような高い音を響かせて攻撃を阻んだ。
――ギリスの戦い方を見てもしやとは思ったが……。やはり俺の能力はBDエネルギーのように形を変える事も出来るようだな。
葛西は俺の無事を確認すると、BDネルギーを溢れ出させる。
「――俺も特大の攻撃を仕掛けてやるっすよ! おおおぉぉ。おらららららららあぁぁぁぁl」
葛西から溢れ出したBDエネルギーが急速に集束し始め、巨大な大砲のような武器を造り出した。
さらにエネルギーは集まり、大砲の筒の奥底から巨大な光線が放出される。
光線は目にも止まらぬ速さでギリスに放たれる。その時には既に雨宮は退避しており、行く末を見守っていた。
ギリスは初めて焦った表情を見せ、混沌のエネルギーを目の前に放出させ、BDエネルギーの壁も作り出していた。
葛西の放った光線は混沌エネルギーに飲み込まれ消失していく。
しかし、それ以上に光線の勢いは強く、徐々に競り勝っていた。
葛西とギリスはお互いに厳しい表情でエネルギーを消費する。
――葛西の奴。こんな技を持っていたとは……!!
「――神崎先輩っ! も、もう無理っす……。BDエネルギーが空っぽっす――」
「そうか……! 後は俺がやる!!」
刹那、放出されていた光線はピタっと止まり、同時に葛西は地面に膝を着き、深呼吸をした。
俺はそれを見計らって地面を強く蹴る。
「能力変化――――黄!」
黄色の帯をなびかせながらギリスにロングソードを振るう。
脳内では再度弾かれるイメージが過ぎるが、ギリスはBDエネルギーを使用せずに攻撃を避けた。俺はさらに連続で攻撃を仕掛けるが全て避けられてしまう。
しかし、ギリスは初めて後方に距離を取る。直後、高崎の声が響く。
「神崎! やめとけ!! 何かするつもりだ!」
突如、全身に寒気が走る。視線をギリスに移すと今までの穏やかな表情を崩し、鋭い視線で此方を見ていた。
そして、ギリスが何かを行おうとした瞬間。何処からか黄金に輝く三叉の矛が物凄い速さで飛来した。
ギリスは咄嗟にその攻撃を避ける。三叉の矛が地面に刺さると大地は強く震撼し、俺達は膝を着いた。
「あの武器は――ポセイドンか!!」
――ポセイドン? プロトポロスのメンバーの一人か!
俺達の眼前に二人の男が空中から降りてきた。高崎は目を見開き声を上げる。
「――ポセイドン! それに一ノ瀬まで!!」
「高崎殿。大丈夫ですか?」
二人は此方をチラっと見ると、直ぐに視線をギリスに戻した。ポセイドンが手を上げると、地面に刺さった三叉の矛が震えだし、ポセイドンの手中に納まった。
「お前達が来たってことは幹部達は殺られてしまったようだな。――っち。まったく使えない奴らだった。……まぁ、いい。またやり直せばいいことだ」
「お前……! 自分の仲間を見捨てるのか! この悪魔めっ!!」
俺は怒りを覚え、声を張り上げる。続けて一ノ瀬達が口を開いた。
「私達が貴方を生かすと思いますか? すぐに私達の仲間も来るでしょう。貴方はもう終わりですよ?」
「お主は我等が倒す。覚悟しろ――」
一ノ瀬とポセイドンは攻撃の構えを取った。一ノ瀬は背後に光輝く魔方陣をいくつも出現させ、ポセイドンは三叉の矛の先を向ける。
高崎はおもむろに立ち上がると二人の間に立ち、こう言った。
「此処からが本当の第二ラウンドだ。――――行くぞ!!」
三人は一斉に駆け出し、初手に高崎の手裏剣がギリスに飛来し た。
その隙に一ノ瀬は言葉を漏らす。
「召喚の陣! 慈悲の剣――カーテナ!!」
取り出されたのは赤い鞘に金の装飾が施された剣。
一ノ瀬がそれを抜き放つと、銀の輝きを放つ刀身が姿を現した。
高崎の手裏剣は見えない力によって弾かれるが、一ノ瀬は即座に距離を詰め、伝説の剣の一つであるカーテナを水平に振るった。
ギリスは黒い剣を生成して防ごうとするが、カーテナが黄金の輝きを放つと黒い力は消え去ってしまう。
カーテナの刀身がギリスに迫るが彼は態勢を仰け反らし回避する。
そして瞬時に彼が作り出した黒い拳を受け、一ノ瀬は後方へ飛んだ。
「――後は任せてくれ一ノ瀬殿……。海を、我に力を与えよ!! 能力――海神! 水牢!!」
ポセイドンがそう言葉を放つと、何もない地面から噴水のように青い水が溢れ出す。
そして、その水は激流となりギリスを飲み込んだ。
さらに水を操り、ギリスを水で造られた牢獄に閉じ込めるポセイドン。
一ノ瀬は水牢に向かってさらに攻撃を放つ。
「私も行きます! 攻撃の陣――雷!!」
新たに一ノ瀬の背後の魔方陣が輝きだし雷が放出された。
それは水と混じり合ってギリスを苦しめ、彼は全身から混沌の力を出し、周りの水を無に変化させる。
しかし、それをはるかに越える水をポセイドンを操っていた。
――よしっ! 確実にこっちが圧倒している!!
俺の頭には勝利の二文字が見え始めていた。しかし、その状況も束の間であった。
ギリスを包んでいた水牢が突如として消え去ったの
である。
皆、唖然としていると手に光輝く本を持つギリスが、此方を鬼の形相で見ていた。彼は低い声色で言い放つ。
「――貴様ら。流石に私も怒ったぞ? 雑魚どもが私に歯向かいやがって……。まさか、支配者の本の力を使うことになろうとはな――」
「支配者の本だと!?」
高崎が声を張り上げる。ギリスは水滴を垂らしながら本をかざした。
する と、濡れていた服が嘘のように水滴を吸収して服を完全に乾かす。
「そうだ。これがお前らが求めている本。この世界の原点であり、世界の均衡を左右することができる本だ」
「やはりお前が本物を……っ!」
俺がそう質問を口にすると、ギリスは呆れた表情で口を開く。
「違うな。そう簡単に使えるわけがないだろう? ましてや貴様ら如きに本物を使うまでもない。図に乗るな小僧。
――しかし、ゼウスとほぼ同等の力を持つ奴と戦うならば、私も少し力を使わずにはいられないな……」
――本物ではないのか……?
ギリスはそう言って鋭い視線をポセイドンに向ける。高崎はその言葉を聞いて激昂した。
「やはりお前がゼウスを殺ったのか!?」
「――あの老いぼれめ。私の駒達を何人も殺しやがった。その仮を今返させてもらう」
「やれるもんなたやってみろ! ゼウスの敵は俺が取る!!」
高崎はポセイドンが制止するのも聞かずに駆け出した。手には忍刀を持ち、刀身の先をギリスに向けた。
「第四奥義――疾風一閃衝き!!」
一点に集中した超攻撃型の衝きは刹那にギリスの目の前まで衝き進む。
後数センチでギリスを貫く寸前、突如として高崎は方向を変えた。
それによって高崎の攻撃がギリスに当たることはなかった。
さらに高崎はそのまま糸が切れた人形のように地面に倒れ込み動かなくなる。
その姿を見てポセイドンは声を張り上げた。
「高崎殿っ! ――貴様!! いったい何をした!?」
「さて? なんだろうな? ハハハ」
「くそっ!! 奴を貫け! 伝説の三叉の矛!!」
ポセイドンは手に持っていた矛を投げやりのように投擲し、三叉の矛は黄金の輝きを放ちながら飛来した。
その隙にポセイドンは水を操り、高崎を此方に運んだ。
三叉の矛がギリスの眼前に到達すると、ギリスの本が輝きを放った。
刹那、黄金の矛は消失し、次の瞬間には矛はポセイドンの目の前に出現する。
ポセイドンは咄嗟に身体をいなし、避けようとするが、突然のこともあり矛はポセイドンの肩に突き刺さった。
「――くそっ! 防御の陣――五重結界!! 続けて攻撃の陣――炎!!」
一ノ瀬の新たな魔方陣が輝き、俺達全員を包み込むように透明の半球が現われる。
さらに もう一つの魔方陣から膨大な量の炎が放出された。
彼はその隙にポセイドンと高崎の元へと移動しようとする。しかし、一ノ瀬も高崎と同じように突如倒れ込んだ。
さらにはポセイドンも同様に崩れ落ちる。
俺達は状況を理解出来ず目を見合わせた。雨宮は小さく言葉を漏らす。
「いったいどうなっているんだ……?」
「奴の仕業なのは間違いないっすねよね――」
葛西はそう言うと地面に倒れる高崎に視線を落とす。
鈴は能力を使用して回復を試みるが、一向に目を覚ます気配はない。
「駄目です……。傷は回復したんですけど――」
「一ノ瀬の発動した能力が解除されいない所を見ると、死んではいないだろうが……」
俺達が頭を悩ませていると、ギリスの笑い声が響いた。
「はははは――。驚いているな? それもそうだろう。一つアドバイスだ。そいつらから離れたほうがいいぞ?」
「何を―――。んっ!?」
刹那。意識を失い倒れていた三人がフラフラと立ち上がった。そして、最も近くにいたポセイドンは自身に刺さった矛を抜き去る。
鈴がポセイドンを制止しようとすると、彼はあろうことか三叉の矛を鈴に振るったのだ。
葛西が即座に手を引いたことで回避できたが、少
し誤れば致命傷になったかもしれない。
「――おい!! 私の仲間に何をする!?」
「―――――」
「何故黙っている! おいっ!!」
雨宮の問いにポセイドンが口を開くことはなかった。
彼らは虚ろな目をしながらギリスの方へと足を進める。ギリスの笑い声がさらに響いた。
「だから言っただろう? そいつらはもう既に俺の駒となった。もうお前達の仲間ではない」
「――――なんだと?」
俺がそう口にすると、ギリスは高揚した様子で語りだす。
「お前達は支配者の能力を知っているか?」
「――私が聞いた限りでは世界創造だろ?」
雨宮が急に喋りだしたため、俺達は驚きの視線を向ける。
すると、その視線に気がついたのか雨宮は言葉を漏らす。
「私が何故そんな事知っているか驚いているな? 私は前々から知っていた。私達がエスポワールに捕まる前、きみ達は私が 何処で情報を得たのかって聞いたよな?
あの時は話すことが出来なかったが、最初に情報を得たのは父の日記からだったのだ――。その日記には様々な事が書かれていてな。
勿論支配者の本についても書かれていたんだ」
「お前の父親に教えてもらっていたのか……」
俺達が納得すると、ギリスが笑みを浮べながら口を開く。
「そうか――。渡辺に教えてもらったのならば知っているのも頷ける。その娘の言う通り、支配者の本の能力は――世界創造。
この一冊で新しい世界を造れる程の力を秘めている。しかし、実は本質的力は他にある」
「本質的力だと……?」
「そうだ。支配者の本の真の力は――――心の支配。生物の心を使用者の意のままに操り、心を支配することこそが本当の力だ」
「ってことはまさか――!」
「気がついたようだな? そう、今そいつらは支配者の本の能力で心を支配されている」
俺達が話している間に移動した一ノ瀬達の肩に馴れ馴れしく手を置くギリス。
「さぁ、お前達は仲間と戦えるか? こいつらは容赦なくお前らを攻撃するぞ? 能力――心の支配」
直後、一ノ瀬達は能力を使用し始める。雨宮は厳しい表情で言葉を漏らした。
「くそっ――。モンスターキングダムの頃を思い出すな……。どうすればいい……」
「大翔さん――! 私達はどうすれば……?」
三人が俺を見詰める中、俺は自身の身体に異変を感じていた。ギリスが支配者の本を使用した瞬間。
胸の奥底に急激に締め付けられるような感覚に襲われる。
――なんだこれは? いったい俺の身体に何が起きている……!
俺は皆に心配をかけまいと、今の状態を隠しながら口を開いた。
「どんな能力にも何か突破口があるはずだ……。何か――――」
刹那、衝突音が鳴り響く。操られた者達の攻撃が一ノ瀬が先程作り出した結界に当たったのだ。
俺達は厳しい顔つきでその光景を見ていると、背後で気配感じて振り向く。すると、俺達の視界には見慣れたダイバー達の顔が映った。
どのダイバーも疲労し、敵との壮絶な戦いがあったことが窺えた。
「神崎さん! これはいったい……?」
ダイバー達の一番前に立 っていた女性が駆け寄り俺に声をかける。
「アフロデーテさん――――」
声をかけてきたのはプロトポロスのメンバーの一人―――アフロデーテさん。
一度だけ本部で話した事があるだけだっだが、どうやら名前を覚えていてくれたらしい。俺が彼女に手短に状況を話すと、悔しそうに嘆く。
「――では、高崎さん達は奴に操られているのですね。しかも、打開策もまだ発見出来ていないと……」
「残念ながら………………」
俺が言葉を漏らした直後。ガラスが割れた時のような高い音が鳴り響いた。雨宮が声を張り上げる。
「まずいっ! 防御壁が破られた!! みんなっ!! 攻撃が来るぞ!」
他のダイバー達に状況を説明する暇もなく、一ノ瀬達の攻撃が俺達に迫る。
皆、彼らが操られていることを知らないため攻撃に同様してしまっていた。
それでも一ノ瀬達の攻撃に当たる者は少なく、殆どが回避に成功する。
俺は状況の悪化を防ぐために他のダイバー達に説明すると、ボスを操られてしまっている事に怒り狂い予想とは裏腹にギリスに攻撃仕掛けに行ってしまう。
必死に止めようとするが、ギリスの挑発がさらにダイバー達の怒りを加速させてしまう。
そして、次々とダイバー達の心は支配され、一ノ瀬達のようになってしまった。
さらにはギリスはとんでもないことをし始める。
「正直こんなに人形はいらないな。――そうだ。一つ簡単なショーをお見せしよう!」
ギリスはそう言うと光り輝く本を掲げる。すると、操られていた何人かのダイバー達の手にショートソードが出現する。
そして、ギリスが軽く手を振ると、ダイバー達は剣を首に当て一斉に――――――引き抜いたのであった。
噴水のように噴出する血しぶき。頭はいとも簡単に自らの手によって切断され、地面に転がった。
鈴の悲鳴がこだまする中、ギリスはさらに手を振るった 。
すると、他の操られているダイバー達が自害した者達を何度も斬りつけ始めた。
「あははははは!! 傑作だ! どうだね? 信頼し合っていた仲間同士が殺し合うのは? 最高のショーだろう?」
「――――くそがっ……! くそがああぁぁぁぁぁ!!」
雨宮が大声で叫ぶのを見ながらギリスはさらに笑い声を上げる。
その光景に今にも襲い掛かろうとしていた連中もたじろぎ、悔しさに呻いた。
そんな中、俺の身体はさらに締め上げられる感覚に襲われ膝を着く。
即座に西村達が駆け寄り、声をかけてくるが、答えることができない。
「――おや? そこの少年はどうしたんだい? まさかきみにも心の支配が適用したのかな? さぁ、きみも此方においで。私と共に踊ろうじゃないか!」
ギリスがふざけた口調でそう言い放つと、雨宮は鬼の形相で彼を睨む。
手は強く握り締めすぎているせいか、爪が食い込み血が滲み出ていた。
「貴様……! 神崎に! 私の大切な仲間に何をしやがったあぁあぁぁ!!」
「さて? なんだろうな? あははははは」
「――殺す! 殺してやる!!」
俺は今にも駆け出そうとする雨宮を止めようとするが声が出ず、葛西達に視線を向ける。
しかし葛西と鈴も普段は見ないような怖い表情でギリスを見詰めていた。そして、アフロデーテの制止も聞かずにギリスに襲い掛かっていく。
彼は待ってましたと言わんばかりに、雨宮達を向かい打つ。
そして能力を使用した瞬間。雨宮達は他のダイバー達と同じように突然動きを停止し、次の瞬間には虚ろな目でフラフラと立ち上がっていた。
ギリスの笑い声がこだまする。
「ふははははは! 馬鹿な奴らだ! 威勢を張って来たかと思えば、こんな簡単にも私の駒になろうとは! まさに親子そろって馬鹿だなぁ!! あははははははは」
さらにギリスは笑い続ける。
「どうだい神崎君とやら? きみの仲間はもう私の駒だ。私の命令一つで何でもする。ためしに全員服を脱がせてみようか? くっくっく……」
俺は心の奥底から黒くてドロっとした何かが溢れ出てくるのを感じた。ギリスはさらに続ける。
「それ とも、仲間同士で殺し合うのもいいな! 腕を斬って、足を斬って……。それとも他の駒達に犯させるか!? どうだね? 神崎君?」
「――黙れ」
「ん? なんだい?」
「――――黙れ」
「ほら、もっと大きな声で言わないとわからないよ」
「――――――――黙れえぇぇぇぇぇぇぇえぇぇ!!!!」
心の奥底から溢れたドロっとした何かは身体中から溢れ出す。
そして、俺の意識はその何かに乗っ取られた。
ブラックアウトする視界。
そして俺は――――以前にユゼルと戦闘した時に訪れた場所に座っていた。
「ここは――――」
視界に広がったのは真っ白な部屋にポツンと設置されている木製のドア。
そのドアには『好奇心』の文字が刻まれている。
「ここに来たってことは、また俺は狂気に飲まれたのか……?」
二回目という事もあり、俺はそこまで同様することなく今の状況を受け入れる。
おもむろに立ち上がると、木製のドアに近づいた。そして開け放つ。
次に広がった部屋は『憤怒』の文字が刻まれた真っ赤な部屋。
さらに次は『喜び』の部屋。次は『哀しみ』の部屋。そして、黒一色の『狂気』の文字が刻まれた部屋に行き着く。
「次が最後の扉。あの時は意識を失ってちゃんと見ることが出来なかったが……」
俺は狂気の文字が刻まれた部屋に恐る恐る手をかけ、勢いよく開け放った。
そして、次の部屋が視界に広がる。様々な色が混ざり合った奇妙な部屋。
その部屋の中心に置かれた石で出来た巨大な扉。扉にはいくつもの鉄の鎖が巻きつけられている。
俺は引き寄せられるように扉に近づく。
全身を刺激する程の威圧感。足を一歩踏み出 す度に、心が締め付けられる感覚に襲われる。
扉は見上げるほどの大きさで、文字などはいっさい刻まれていなかった。
その扉を見た途端俺の頭に雨宮の顔が写った。
「これはいったいなんだ……?」
俺の問いは虚空に消え、静けさだけが部屋の中を支配する。
刹那、ユゼルの時と同様に俺の頭の中にイメージが流れ込んでくる。
不気味な笑みを浮べるギリス。そして黒い力に飲まれ暴れる俺の姿。
俺は仲間であるダイバー達を傷つけ、さらには雨宮達にもその剣を振るおうとしていた。
俺は咄嗟に、自分の行動を止める為に声を張り上げる。
「やめろっ! やめろ! やめろおぉぉ!!」
しかし、イメージは流れ続け、次々に中間達を傷つけていく。葛西を斬りつけ、鈴を殴り飛ばし、雨宮を蹴り飛ばす。
俺は目を瞑り、意識を戻そうと必死に奮闘する。しかし、イメージが消えることはない。
そして、仲間達にさらに攻撃を仕掛けようとした瞬間――頭の中で声が響いた。
『狂気に負けるな!!』
――誰だ!? 誰の声だ……?
『気をしっかり保て! 貴様の心に存在する光はまだ消えていないはずだ!』
「――――目を覚ませ! 神崎大翔!!」
頭の中で響いていた声が、突如近くで聞こえた。咄嗟に目を開けるとそこには――――
「暗黒魔王――ユゼル!!」
目の前には、かつてデスワールドで剣を交えた心優しい魔王がいたのである 。俺が上手く声を出せずにいるとユゼルが口を開く。
「貴様。また狂気に飲まれるとは!」
「なんでお前がここに……?」
「そんな事はどうでもいい! 貴様は狂気に蝕まれた我の心を救った――。なのに……何故貴様がまた狂気に飲まれている!!」
「俺も何故だか――」
「わからないと? ――ふざけるな!! 貴様は気がついているはずだ。あの扉に封印されている最後の感情を……」
――あの扉に封印されている感情?
「そんな事は俺は知らない……っ!」
「まだそんな事を言うか! この我が気がついているというのにっ! 貴様の心に感情をもたらしたのは誰だっ! 貴様の心の封印を解いたは誰だっ! その感情を知らなければ狂気には勝てない!
貴様はもう知っているはずだその感情を! 神崎大翔! 貴様は誰のためにここにいるっ!」
「――――――――――あめみや」
俺の心を縛り付けていた鎖が軋みだす。そして俺は自分の本当の気持ちに気がついた。漏れ出す言葉達。
「俺は雨宮と会って、雨宮に心が動いて、雨宮のために此処にいる――――。そうか……。最初から俺は雨宮の事が―――――――――
―好きだったのか」
突如、目の前に巨大な扉が光り輝く。扉に巻きついていた鎖は一本、また一本と音をたてて崩れ去っていく。
その度に俺の心の光が強く自身を照らす。そして、鎖が全て崩れ去ると、石の扉は透き通るような光の扉へと変化していた。
さらに、その扉の常上部には『愛情』の文字が垣間見えた。
「ユゼル! お前はっ………………!」
「――やっと気がついたようだな。これで我の役目も終わりだ。後は貴様次第だ」
ユゼルは最後にそう言 葉を漏らすと光の粒子となり弾けて消えてしまった。
俺は心に芽生える感情を噛み締め、言葉を漏らす。
「――ありがとうユゼル。お前のおかげで俺は本当の気持ちに気がつくと事が出来た。後は俺がなんとかする……」
その瞬間。『愛情』の文字が刻まれた扉が音を立てて開く。
扉の先は光に包まれており、俺は心に一つの強い感情を抱きながら、その扉の先に足を踏み出した。
光は全身を包み込み、意識はホアイトアウトする。
次の瞬間には、俺は再度悲惨な戦場へと帰還していた。
眼前には傷つきながらも操られ、立ち上がる仲間達。
そして、その光景を興奮しながら見詰めるギリス。
「――おや? 正気を失い仲間を傷つけ始めたと思ったら、突然止めてどうしたんだ?」
「――――――ごめん。俺せいでみんなを傷つけてしまった……」
「何を今更謝っているんだ? お前は直前まで狂ったように仲間を傷つけていたじゃないか? お前は言ったな? 仲間を見捨てる奴は悪魔だと。それならば今のお前はどうなんだろうな?」
「――――――」
「何も言い返すことも出来ないか? お前こそ悪魔そのものだな! はははっ」
「――――そうだな。俺はたしかに間違ったことをした。罰はは後でいくらでも受けよう。だから――今はせめてお前をこの手で殺す!!」
俺の言葉にギリスは高らかに笑う。
「俺を殺すだと? ほう。やれるものならやってみろ! 小僧!!」
「あぁ。やってやるさ。能力――共有される強き意志(シェア オブ ソウル)!!」
俺が能力を使用した瞬間、ギリスは興奮したように声を上げる。
「あははは! 馬鹿め!! 能力を使用したな!!心の支配 の発動条件は何かわかるか? それは対象が能力を使用すること! お前は今能力を使用した! これでお前も俺の駒だあぁぁぁ!! 能力――心の支配!」
ギリスは光輝くスキルブックを掲げる。しかし――――
「何故だっ……! 何故心が支配できない!! ――貴様、いったい何をしたっ!?」
「やっぱりな。俺にはその能力は効かない」
「なんだと……?」
「お前の組織の幹部。ガンマと戦闘をした時から引っ掛かっていた謎がようやく解けた。何故奴の能力が効かず、お前の心の支配が俺に適用されないのか。
それは――――俺が元々支配者の本によって心を支配されていたからだ」
ギリスは狼狽して此方を見る。俺は笑みを浮べながら口を開く。
「訳がわからないって表情をしているな? 俺も明確な理由はまだわからないが、だいたいの検討は着いている。まぁ、どんな理由にせよ――お前の心の支配は俺には効かないってことさ」
「――――まさか私の支配を避ける奴が現われようとは。――――だが! だからどうした!? 例え貴様を支配出来なくとも、私には多くの駒がいる! 貴様一人が頑張った所でこの軍勢に勝てるかな!?」
「あぁ。今の状況では無理だ。だが――――進化した能力ならばどうだろうな?」
「何をふざけたことを言っている! 進化だと? そんなまさか―――」
突如、ギリスに操られていたダイバー達がピンクの光に包まれた。
そして、次々に意識を取り戻していく。
「なんだ! どういうことだっ!!」
「お前も知っているだろう? 極たまに自身のダイバー固有能力が進化する事があることを」
「まさか………………!」
「そのまさかだよ。俺もつい先程能力が進化した。共有される強き意志(シェア オブ ソウル)。
元々俺は自分の身体機能を上昇させる事しか出来なかった。しかし、進化したことで俺 は他の人間の身体能力を上げることも出来るようになったのさ」
「例えそうなったとしても、私の心の支配を解くことはできないはずだっ!」
「――もう忘れたのか? 俺にはその能力は効かない。そして、俺と意志を共有することによって彼らの心の支配も解くことができる!もう、貴様の支配は終わりだ! ギリスっ!!」
意識を取り戻していく仲間達。そして、俺の大切な仲間も。
俺が意志を共有していることによって、今まで何が起きていたのかも、操られた人達に伝わる。
そして、俺の心にはみんなの感謝の気持ちが伝わってきた。しかし、その中には一つだけ哀しみが混じっていた。
その正体は――鈴。全てを共有した事によって確信出来た真実。
俺はあの時の葛西の言葉を思い出し、鈴を見る。勿論俺が雨宮に好意を抱いている事は共有されている。
鈴はほんの一瞬、悲しげな表情で俺を見た後、曇りのない笑顔を浮べた。
俺の心はただ感謝で一杯だった。様々な仲間の気持ち、鈴の優しい心を胸に俺は前を見続ける。
そして――――――――全ての仲間達が解放された。
「さぁ、行くぞギリス。お前を倒す!!」
一斉にギリスに放たれる攻撃。皆、俺の能力により大幅に身体機能が向上され、とてつもない攻撃がギリスを襲う。
初めの内はギリスは必死に混沌の力で無に返していたが、徐々に圧され始めた。そして、ほんの数秒でギリスは地に平伏したのであった。
俺達はまだ微かに息のあるギリスに歩み寄る。彼は全身から血を流し、地面は真っ赤に染まっていた。俺はギリスに言葉を放つ。
「お前の野望ももう終わりだ。最後は俺の汚れきった手でお前を殺す――」
俺の意志が共有されているため、雨宮達は悲しそうな顔をしながらも前回のように止めようとはしなかった。
そして、俺がショートソードをギリスに振り下ろそうとした瞬間。ギリスは弱弱しく笑い声を上げた。
「――――くっくっく……。まさ……か、わたしがまけると…………はっ。だが……。私の勝ちだっ…………!」
そう言って絶命するギリス。全てが終わったと思った矢先、背後で声が響いた。
「ギリス様っ! 貴方の野望はこの西村駆が叶えますっ!!」
突如背後で響く声。咄嗟に後ろを振り向くと、そこには――――
「おにいちゃん……!!」
「ふははははは。貴様らはもう終わりだ! 今からはこの世界を全て無に還す! この本物の支配者の本を使って!!!」
彼の行動を止めようと葛西と鈴が飛び出す中、西村駆は右手に持つ強い輝きを放つスキルブックを掲げ、言い放った。
「能力――――世界創造。この世界を無に還せ! ロスト・ワールド!!」
刹那、世界は闇に包まれ、全てが粒子となって消滅する。
しかし寸前で雨宮のスキルブックと西村駆が左手に持つスキルブックが光出し、雨宮の光は俺と彼女を包み込み、西村駆の光は鈴と葛西を包み込んだ。




