最後の選択1
{葛西side}
全身を震わせる程の悲鳴を上げるモンスター達。それに立ち向かうたくさんのダイバー。
俺達の眼前では激しい戦闘が繰り広げられていた。俺は物陰に隠れながら鈴に話しかける。
「先輩はいなそうだなぁ」
「そうだね……。私達は此処で見ているだけでいいのかな?」
「今はいいんだよっ! 俺達は雨宮さんを助ける指令を受けただろう? それを遂行しなきゃ!!」
「そっか――。そうだよね! うんっ!」
俺は戦場から目を逸らさずに愚痴を零した。
「――それにしてもあの野郎。俺達だけ元の図書室に飛ばしやがって……」
「あれから頑張ったけど元の場所に戻ることは出来なかったからね――」
「くそっ。何か情報があるかもしれないってエスポワール本部に来てみれば、ここも戦場になってるし……。なんなんだよっ!」
――まぁ、本部が乗っ取られているかもしれないと予測を立てたのは俺なんだがな……。
「これからどうしよっかりくちゃん……?」
「うーん。やっぱりもう一度あの場所に戻った方がいいだろうなぁ」
鈴に目配せした後、立ち上がる。すると彼女も辺りを警戒しつつ腰を上げた。
「それにしても凄い戦いだな 。敵と仲間が入り混じってわけがわからなくなってる」
「そうだね。でも、一ノ瀬さん達の姿はないよね?」
今の状況は、エスポワール本部に立て篭もるギリス政府をエスポワールが攻撃している形だ。
「敵のボスが出てくるまで一ノ瀬さんも出てこないだろう。――――おおおっ!」
突然エスポワール本部で大きな爆発が起きる。そして、それによって出来た穴から何人もの人間が飛び出して来た。
そして、その者達を追うようにして飛び出して来たのは見慣れた連中。
「りくちゃん……! あれ! 一ノ瀬さん達だよ!!」
「本当だ! まさか内部に潜入していたとは……。プロトポロスのメンバーもいるよな」
彼らは飛び出すと同時に各地で戦闘を始めた。
ギリス政府のダイバー1人に対してエスポワールのダイバー3人が戦闘を行っている。
――俺が思っていたよりギリス政府のダイバーは少ないんだな。
そして、最後に飛び出してきた連中を視界に捉えると、俺の全身は震え上がった。
鈴も同じく恐怖を感じたのか後ずさる。
「なんだあいつらは……。他の奴らとは圧倒的に違う」
「高崎さんだよね……?」
「あぁ。まるで感じが違うけどな。それより高崎さんの隣にいるおっさんと、もう一人対峙するおっさん。あいつらは次元が違う――――」
――おそらく高崎さん達と対峙しているのが、ギリス政府のボスと最高幹部の一人って奴だろう。これは早く退散したほうが良さそうだよなぁ―――。
「鈴そろそろ行こう」
「そう……待って!! りくちゃん! あれ見て!!」
「――ん? どうしたんだ? ………………えっ。あれって! 神崎先輩と雨宮さんじゃないか!!」
俺達の前方に見慣れた二人の後ろ姿が見える。突然現われたところを見ると、おそらく何処からかダイブして来たのだろう。
俺は咄嗟に手を上げながら二人に呼びかけた。
「おーい! 神崎先輩!! 雨宮さーん!!」
俺が呼びかけると、二人は此方に気づき振り向いた。しかし、雨宮さんは直ぐに視線を戦場に向け、その姿を見た神崎先輩は複雑な表情をしていた。
「なんだ? いったいどうしたんだ……?」
「なんか二人ともいつもと違うよ――」
俺達は目配せすると一気に駆け出し、二人の下へ向かう。戸惑いながらもいつもの明るい声を出す。
「二人とも無事だったんすね!! いや~。よかったよかった!」
「――――――――――」
「どうしたんですか二人とも? まさかあの男になんかされたんすか!? あの野郎次会ったら……」
俺達を移動させた男の話をすると、雨宮さんは鋭い目つきで此方を見る。
その有無も言わさぬ表情に俺は口を開くことが出来ずに、神崎先輩に視線を送った。
しかし、彼も此方に目を合わせようとはせず、雨宮さんだけを見詰めていた。雨宮さんは憎しみの篭った声を出す。
「――――あいつだ。あいつが……ギリス!!」
「ま、待て! 雨宮!!」
神崎さんが制止するのも聞かずに雨宮さんは敵のボス――ギリスを視線に捉えると、狂ったように走り出す。
俺は突然の行動に狼狽したが、なんとか声を張り上げた。
「雨宮さんっ!! ――神崎先輩! なんで追わないんっすか!? ……いったい何があったって言うんすか!!」
「……………………」
神崎先輩は黙ったまま動かなかったが、少しして弱弱しく語りだす。
俺達はその話を聞いて色々な感情が込み上げて来た。しかし、最も溢れた感情は怒り――。
神崎先輩は語り終えると、今にも消えてしまいそうな表情をしていた。
俺は込み上げてくる怒りを爆発させ、辛辣な言葉を注いだ。
「神崎先輩! なんで雨宮さんに何も言わないんですか!? なんで追いかけないんすか……! 一度拒絶された くらいでなんで諦めちゃうんすか……! 先輩だって雨宮さんが苦しんでいるのがわかるでしょう!? それなのにっ――。それなのに……!
――――ちゃんと前見ろよ!」
「……………………」
いくら声を張り上げても先輩は何も言わなかった。俺は鋭い視線で見詰めた後、鈴に言葉をかける。
「俺は雨宮さんを助ける。鈴は此処に居てくれ。――――神崎先輩。あんたがそんな間抜けだとは思わなかったよ」
「りくちゃん………………」
そう言い捨てると、全速力で走り出す。先輩の横を走りぬける際、彼の顔が垣間見えた。
彼は相変わらず消え入りそうな表情で佇んでいたが、その瞳には強い意志が込められているように思えてならなかった。
敵と味方が混戦する戦場を俺は走り抜ける。雨宮さんはもう既にはるか前方におり、俺は能力を発動させた。
「全てが存在する模造の世界よ。我にその力の一片を分け与えよ! 能力――模造せし世界(イミテーション オブ アルケミスト)」
始動語を唱えると身体中からBDエネルギーが溢れ出す。数日修行したことにより、BDエネルギーも大幅に上昇した。
しかし、それでも少量なので節約しなければならないが――。
脳内でロングソードをイメージすると、右手にBDエネルギーが集束し、武器の形造っていく。
途中襲い掛かってくる敵の攻撃をなんとか防ぎながらも進行する。
そして、次第に距離は縮まり追いつくことに成功した。しかし、彼女は此方を見向きもせずに憎しみの篭った声を張り上げた。
「ギリス!!!!」
前方で対峙する四人が声に気が付き一斉に振り向いた。高崎が慌てて声を上げる。
「姉さん! 無事だったんですね! ――それより何故来たんですか!! 早くこの場から逃げてください!」
「それは無理だ……。私は貴様に用があるんだ……! 答えろギリス!!」
一ノ瀬さん達から聞いていた年齢にしてはとても若作りのギリスは、此方を暫く見詰めた後、驚嘆する。
「まさかきみは……渡辺の娘の真理奈ちゃんかい?」
「気安く父さんと私の名を呼ぶな!!」
「あはははっ。やっぱりそうか! それにしてもどうしてそんなに怒っているのかな?」
「――ふ ざけるな!! おまえが……! お前が父さんを殺したんだろ!?」
雨宮さんの言葉にギリスは眉を潜め、穏やかな表情でこう言い放った。
「そうかそうか。きみもあの場所にいたのか……。道理で突然君の姿をサーチできなくなったわけだ――。そうだよ? 私がきみの父親を殺した」
「やはり……。でも何故だ!! 何故父さんを殺した!? 仲間だったはずだろ!」
「そんなの簡単なことさ。きみの父親が突然世界を滅ぼすのを止めると言い始めたんだから。私にとってはそんなひ弱な考えを持つ奴は必要ない。
さらには、私に支配者の本を使用させないと言い始めた。そうなったらもう殺すしかないだろう? あははっ」
「――――くそがあぁぁぁっぁっ! せっかく父さんがまともな人間になってくれたのに! おまえのせいで……!」
「きみの父親がまとも? あはは! そんなわけがないだろう? きみの父親は私と同じく殺人者だ。今まで何人の人間を殺したと思う? ――彼は悪魔だよ。
愛する妻の復讐を遂げようとする悪魔だ! その狂気染みた考えがあったからこそ私は加担したんだがな……。
急に止めるなんて……。まぁ、彼がこのまま支配者の本を使用したとしても、世界を造り変える事は出来なかっただろうけど」
雨宮 さんは困惑した表情で口を開く。
「どういうことだ……?」
「考えてみろ。私がきみの父親に本当の支配者の本を託すと思うかい? もし、私に反発してしまったらどうする?」
「お前……まさか!!」
「そのまさかだよ。きみの父親が追い求めていた本は本物から作り出したレプリカ。どう頑張っても世界を造り変える力なんてない。
出来るとしたら封印くらいさ。彼があまりにも復讐に燃えていたんでね、面白くなっちゃってレプリカを与えたんだ。彼は最後まで気がつかなかったようだけど」
ギリスは俯いて聞く雨宮さんにさらに話を続ける。
「あはは。本当に今考えれば愚かな男だった。自分に力がないくせに私の部下を使ったり、さも私と対等に接したりと、実は以前から虫唾が走るほど嫌いだったよ。
彼を殺した時の快感は最高だったね。あはは。できるならもう一回殺したいよ。あははははははは!」
俺は我慢の限界を越え、殴り飛ばすために走り出そうとする。
しかし、それよりも先に雨宮さんの言葉が漏れた。
「雷風を司りし神々よ。我に迫り来る脅威を消し去る力を与えよ。能力――風神雷神!」
雨宮さんの全身から膨大に溢れでるBDエネルギーが高濃度の雷風へと変化していく。
あまりの力に俺は動くことさえ出来なかった。彼
女はスキルブックから刀を取り出し抜刀した。
そして――――――ニタニタと気色の悪い笑みを浮べるギリスに襲い掛かった。
それを機に今まで対峙していた連中が一斉に動き出す。
ギリスではない方がポセイドンと衝突し合い、高崎は雨宮さんに加勢しようと試みる。
しかし、チームワークの事などいっさい考えていない雨宮さんは周囲を巻き込みながらギリスに刀を振るった。
ギ
リスは最初の穏やかな表情を一変させ、狂ったように笑う。
雷風を纏わせた刀を振るう度に地面が抉れ、殺気の篭った攻撃がギリスを襲う。
しかし、ギリスに攻撃が当たる事はない。雨宮さんは叫び垂らしながら躍起になる。
「くそがあああぉぉぉあぉあぁ!!」
「あはあははははははは」
怒りに顔を歪めた雨宮さんと笑いに顔を歪めたギリス。両者の対極の表情を見ながらもなんとか加勢しようとする高崎。
俺はあまりにもレベルの高い戦闘に後方で呆然と立ち尽くす。
――なんだよこれっ! こんな戦闘の中に俺は入り込めるのか? ――いや。何を迷ってる葛西りく! 此処で止まるわけにはいかねぇだろ!! 俺が仲間を助けるんだ!!
俺はそう決心し、BDエネルギーを放出させて二丁拳銃をイメージした。
すると両手に光が集束し、二丁の拳銃が造り出されていく。拳銃は剣などの武器に比べ、イメージが難しいがなんとか生成出来た。
雨宮さんの雷風の範囲を考察しつつ、隙間を狙って攻撃を仕掛けなければいかないだろう。
俺は意識を最大まで集中させ時を待つ。そして――――――
「ここだ!!」
銃弾は一直線に雨宮さんの間を縫ってギリスの頭部へ近づく。
そして銃弾はギリスに――――――――――――届くことはなかった。
なぜなら、寸前で突然現われた雨宮さんの刀によって弾かれたからだ。俺は驚きの声を上げ、彼女を見た。
彼女は恐ろしい表情で此方を見詰めていた。そして次の瞬間には、彼女は俺の目の前に出現し、なんと自身の刀を振り上げていた。
その瞳は既に憎しみに曇っており、俺の姿はなかった。
――やばい……。殺される…………!
スローモーションのように流れる時間。徐々に振り下ろされる殺意の篭った刀。
彼女は怒りと憎しみに支配され、俺の事を認識出来ていない。俺は咄嗟に目を瞑り言葉を漏らした。
「すいません――――。鈴、神崎先輩……」
ざくっ――――。刀が肉を斬る音が響く。しかし、俺には痛みはない。恐る恐る目を開けると――――
「何がすいませんだ? 葛西――」
「そうだよりくちゃん? まだ終わってなんかいないんだからねっ?」
眼前には互いに素手で雨宮さんの刀を受け止める鈴と神崎先輩がいた。二人の 手からは血が流れ落ち、地面を赤く染める。
二人は痛みに堪えながらも笑みを浮かべ此方を見る。
「なんで二人が……!」
「――当たり前だろう? 俺達は仲間だ。仲間のピンチを助けるのはあたりまえじゃねぇか!」
「私達が雨宮さんを助けるんだよ?」
「二人とも……!」
「葛西――。ありがとうな。お前のおかげで自分のやらなければいけないことを思い出した。本当にありがとう……」
神崎先輩はそう言葉を漏らし、さらにこう言った。
「鈴。お前はもう手を離せ。後は俺が――――」
そう言われ鈴は刀から手を外す。俺は鈴を引っ張り後方へ飛んだ。
神崎先輩は両手で刀をしっかりと握り締め、正気を失った雨宮さんに声をかける。
「あめみや――――。俺にはお前の悲しみや憎しみを理解することは出来ない。だけど……、お前と一緒に悲しむことや、怒ることはできる! 一人で抱えこむんじゃねぇよ! 雨宮――っ」
「――――――――」
雨宮さんからの返事は無い。代わりに刀がどんどんと両手に食い込むのがわかった。
さらに血が流れ落ち、俺達が近づくのを止めて、神崎さんはさらに言葉を漏らす。
「お前と出会って色々な事があったな。最初お前を見た時は、なんでこんなに気安く接してくるんだろうって、思ったよ。――――でも、その時にはもうお前から目を離せなくなっていたんだよ。
俺は最初は感情がなかった……。だけど、お前と出会って様々な感情を貰ったんだ。お前を見る度に……! お前と一緒にいるだけで! 俺の心は温かくなる! 鈴と葛西だってそうだろ?」
「――――――――」
雨宮さんは喋らない中、神崎先輩 の言葉に俺達は頷き声を上げた。
「そうっすよ雨宮さん!! いつも見たいに俺の馬鹿な話を真剣に聞いてくださいよ!」
「――――――――」
「真理奈さん。私は貴方のことを本当に尊敬しています。おねぇちゃんが居たらこんな人が良いってずっと思っていました! ――――
なんで一人で全部抱えちゃうんですか! 妹の私に相談してくださいよ!! 一緒に泣いて! 一緒にまた笑いましょうよぉ………………!」
「――――――――」
「聞いただろう? みんなお前を必要としているんだ。俺にいつもの明るい声を聞かせてくれよ。あったかい笑顔を見せてくれよ! 雨宮……!! 戻って来い!! 雨宮!!」
「………………うぅ」
微かだが雨宮さんから声が聞こえた。俺達はさらに声を張り上げる。
すると、徐々に雨宮さんの瞳を覆っていた黒い靄が晴れて行く。そして――――――――
「み……んなっ! ――――ごめんよぉ。ごめん……。ごめん! ごめん!! うぅ――。うぅ…………うわぁぁぁあぁぁぁぁぁ」
彼女は武器を投げ出し、まるで小さい子供のように神崎先輩の胸に飛び込み泣きじゃくった。
その表情には既に憎しみはなく、いつもの雨宮さんに戻っていた。俺達も駆け寄り彼女を抱きしめる。
「やっと戻ってきたな。雨宮――――」
「遅いっすよ……雨宮さん!」
「おかえりなさい……! 真理奈さんっ!」
雨宮さんは暫くの間俺達の腕の中で泣き崩れ、周囲も気にせずに彼女の身体を暖かく包み込む。
ひとしきり泣いた後、神崎先輩が口を開いた。
「もう泣き止め雨宮。今はこんな事している場合じゃないだろう? 今は奴を俺達の手で倒す! わかったな?」
「………………あぁ。奴は――――私達の手で倒す!!」
俺達は立ち上がり、獰猛な光を帯びた目を持つギリスを睨んだ。そして、神崎先輩は決意の篭った口調で言い放つ。
「覚悟しろよ? ギリス! ――――行くぞ!」




