全面戦争の開始3
{神崎side}
松明の明かりだけが薄暗い通路を照らす。俺達は順調に敵の拠点の潜入に成功し、人質が捕まっているであろう場所へと足を進めていた。俺は前方を指差しながら言葉を漏らす。
「――あそこの階段が牢屋に続いていそうだな」
「そうですね。慎重に行きましょう。いつ敵が襲い掛かってくるかわかりませんから……」
「そうですけど。今の今まで一人だって敵に会ってないっすよ?」
葛西が不安の混じった声で一ノ瀬に反論する。
「たしかに――。ここまで敵と遭遇しないのは異常だ。何かあったに違いない」
「そう怖い顔をしてはいけませんよ獄道さん? おそらく、高崎さん達が上手くやってくれているのでしょう」
一ノ瀬はそう言うと、辺りを警戒しつつ階段を静かに下りていく。下に行き着くと、いくつもの牢屋が並んでいる地下室が広がっていた。
案の定、牢番は一人としていない。しかも、殆どの牢屋は空っぽであったが、奥に進んでいくと人間の呻き声が微かに聞こえた。
「……行ってみましょう」
――ここに雨宮がいるのだろうか? 俺には何故だか嫌な予感がしてならない――。
「――――これは!! 内村さん! 永遠さんも!! 今すぐ出します! 獄道さん!!」
一ノ瀬が見ていた牢屋を覗くと憔悴しきった姿で内村達は横たわっていた。獄道は牢屋に近づき能力を発動させる。
彼の能力は強面の見た目と違って、補助に特化した能力。その名も『異次元の扉』。
次元を経由して他の地点へ繋がる扉を生成する能力。それによって牢屋の中と外の次元を繋げた。
「みんなっ!!」
獄道が扉を生成すると一ノ瀬は一目散に中に駆け込む。そして仲間達の安否を確認した。
「――どうやら気絶しているだけのようですね」
俺達も雨宮を探そうと他の牢屋を見渡す。しかし、彼女の姿を発見することは出来なかった。
「雨宮さんがいない……? もしかしたら彼女だけ別な所に囚われているのでしょう。エルゼさん達を拠点へと転送したら他の場所を探しましょう。――獄道さん、頼みます」
「わかった。今扉を生成しよう。……ん!? 何故だっ! 扉が生成できない――」
「どうしたんですか?」
「拠点への扉が生成できないんだ……」
「なんですって……!」
幸運な事に囚われていた仲間達の傷は浅く、命に関わるものではなかったため焦ることはない。
しかし、このまま連れ添うわけにもいかず、困惑していると階段を駆け下りる音が鳴り響いた。
一ノ瀬と獄道は俺達を守るようにして前に立つ。そして、足音の主が姿を現すと、驚きの混じった声を出した。
「高崎さん!!」
「なんだ。お前達か……」
階段を下りてきたの情報屋であり、かつて存在した組織――プロトポロスの高崎と、俺達と同じくらいの青年だった。
「どうしてここに?」
一ノ瀬が質問を口にすると、高崎ともう一人の青年の顔には暗い影が差した。
「――お前らに聞きたい事がある。ここに来るまでに一度でもこの城の中で敵の姿を見たか?」
「いえ。一度も敵に遭遇していません」
「やはりな……」
「どうしたっていうんだよ?」
俺は痺れを切らして声を上げる。
「おそらくだが――、この城には敵はいないようだ。俺達も外で幹部の一人と遭遇して以来、一度も見ていない」
「なんだと? なら敵はいったい何処に……?」
「戦争を放棄したとは思えないが……」
俺達が頭を悩ませていると、葛西がぶつぶつと呟き始める。
「戦争の最中、自身の拠点を失うことは負けを意味する。なら、何故ギリス政府の奴らはこの拠点を捨てた? しかも大事な人質まで残して――。
新たな拠点に移動したのか? ――いや、他の拠点の位置は全て知られているし、土壇場で新しい拠点を探すのは無理だろう。
しかし、エスポワールの主要戦力が少なく、かつ思いもよらぬ場所があれば………………エスポワール本部!」
葛西の呟きが静寂に包まれた牢獄に漏れる。
「――ははっ。まさかそんなことはないっすよね。――で、ですよね?」
「いや。可能性としてはありうるぞ? 葛西と言ったな、良くやった。ボス! すぐに向かいましょう!! こいつの言うことが本当ならば本部が危ない!!」
「そうですね。高崎さんはどうします?」
「――俺達も共に行く」
「わかりました。神崎さん達は雨宮さ んを探すのを続けてください。私達は拠点へと一度戻ります。――では」
そう言うと一ノ瀬達は走り去った。俺達は呆然とその姿を見た後、苦笑いを浮べる葛西に視線を向ける。
「葛西はたまに鋭いことを言うよな?」
「あはは……。今回のは当たってなければいいんっすけどね――」
「二人とも! 私達も早く真理奈さんを探さなきゃ!!」
鈴の言葉で俺達は行動を再開するのであった。
{高崎side}
「――くそっ! やっぱり繋がりません……!」
「こっちも未だに扉を生成できない」
一ノ瀬と獄道が焦ったように声を上げる中、アポローンが口に手を当てて唸るように言った。
「ギリス政府に何かしらのプロテクトがかけられているんですかね?」
「――それではもう本部は乗っ取られていると!?」
「落ち着くんだ一ノ瀬。まずは他の拠点に向かっている連中を集めるぞ。アポローン。お前はポセイドンに連絡を取れ」
一ノ瀬は渋々頷き其々の仲間達に連絡を取る。
「高崎さん! 繋がりました! ポセイドンさんはナンバー2のオメガの討伐に成功。本部に帰還を試みた際、本部にいたアフロデーテさん達に遭遇。そして合流したようです」
「どう言うことだ?」
「どうやら、本部はあの子の予想通りギリス政府に襲撃されたようです。
その攻撃からなんとか逃げたアフロデーテ部隊と、エスポワールの面々はポセイドン部隊に合流との事です」
「私達の仲間は大丈夫なんですか!?」
一ノ瀬が物凄い形相でアポローンに詰め寄る。アポローンは若干引きながら口を開く。
「――正確な事はわかりませんが、エスポワールの人達もいるそ うですよ?」
「そうですか……。無事な人が居てよかった――」
「ポセイドン達と合流しよう。まずはそれからだ……。行くぞ! アポローン。案内しろ!」
「はいっ!!」
俺達はポセイドン達との合流ポイントへと足を速めた。目的の拠点に着くと既に多くの見慣れた人間達がいた。
皆、やつれた表情で俺達を出迎えてくれる。俺達は人ごみのポツンと出た巨体に近づく、
「ポセイドンさん!」
アポローンが声を上げると、真剣な面持ちで話し合っていた、ポセイドン、アフロデーテ、中年の男性が振り返る。
中年の男性はエスポワールの者らしく、一ノ瀬を見つけると慌てて駆け寄って来た。俺はポセイドンとアフロデーテに声をかける。
「二人とも怪我はないようだな?」
「アフロデーテ様のおかげで怪我は感知ずみです」
「――そうか。ありがとうアフロデーテ」
「いえいえ。当然のことですわ」
「それで……いったい何があった??」
俺が視線を向けると、アフロデーテがおもむろに口を開く。
「当初は作戦通り皆さんに指示を与えつつ、負傷者の回復などに当たっていました。そのせいもあってか、戦争は此方の優勢で進行していましたわ。――ゼウスさんも最高幹部カイに勝利しましたし」
「ゼウスさん勝利したんですね! 流石ゼウスさん!! ……って、そう言えばゼウスさんは?」
「実は――――。ゼウスさん はカイに勝利した後、ギリスを含めたギリス政府の幹部達19人と戦闘し、死亡しました………………」
俺とアポローンはアフロデーテの言葉に絶句する。
「――な、なんて? 今なんて言いましたアフロデーテさん? 僕の聞き間違いだと思うんですが、ゼウスさんが殺されたって? まさか嘘ですよね……?」
「アポローンよ。ゼウスは死んだ。ギリス政府の幹部達によって殺されたのだ……」
「………………うそだ。うそだっ。うそだあぁぁぁ!! そんな事ありえるわけがない! あの最強のゼウスさんが殺されるわけがないっ
! ――嘘だって言ってくださいよ!?」
ポセイドン達の顔つきを見れば、この事が嘘ではないと言う事は明白だ。
俺は溢れ出る怒りを抑え付ける。そんな姿にアポローンは激昂した。
「なんで黙っているんですか!! くそっ! くそっ!! ――殺してやる! ギリス政府の奴ら! 今すぐ皆殺しにしてやるっ!!」
「待つんだアポローン! 一人で行くのは無謀だ!」
「うるさい! よくあんた達はそんな平然としているな!? 仲間が死んだっていうのに……!」
アポローンの身勝手な行動に俺は怒りを抑えつけられなくなり、殺気を全開にした。俺の声は自ずと硬くなる。
「黙れアポローン――。お前だけが悲しんでいると思うなよ? 落ち着かなければ殺すぞ?」
「なっ………………。すいません――。怒りのせいで前が見えなくなっていました」
「――その怒りは戦闘の時に取っておけ。今は最善の策を考えるのが先決だ。――わかったな?」
「――――はい」
俺達はその後、一ノ瀬の出した作戦を採用した。どうやらこんな状況になった時のために、プロテクトを回避して潜入するポイントが一つだけ作られていたそうだ。
そんなものがあるなら最初から言ってほしかったが、十数年も昔に 作られていたポイントらしく、忘れていたらしい。
そんなわけで俺達は気力、体力を回復させ、エスポワール本部への侵入を試みたのであった。




