知られざる過去
{神崎side}
目に映るのはここ数日ずっと同じ景色。鈴に取り付けられていた発信機によって俺達はバラバラにエスポワールの仮拠点へと幽閉されていた。
しかし、幽閉と言っても監獄のような場所に入れられているわけではない。一人では大きすぎる部屋には俺は囚われている。
毎日三食定期的に食事が運ばれてくる以外は外と接触する機会はなく、部屋に取り付けられたカメラによって24時間監視されている。
雨宮達がどうなっているのかもわからない。
「――――暇だな」
俺は床に置いてあるスキルブックを手に取る。部屋にはベットしかあらず、やることもないので俺の暇つぶしはスキルブックを読むことに限られていた。
エスポワールではBDエネルギーに関する研究も盛んに行われていたため、様々な機器を発明しており、この部屋もBDエネルギーが使えないように出来ているらしい。
そこで俺はエスポワールの人に頼み、スキルブッだけは許可して貰った。
初めは断られたが、この部屋の中では能力を使用できないため承諾してくれたのだ。
それからひたすらスキルブックに没頭し、ブックダイブの可能性について思考を深めた。
しかし、スキルブッ クの中身の殆どは白紙のため、得られる情報は限りなくゼロに近かったが。
「はぁ……」
――何時までここに居なければいけないんだ? 俺はこんな所で止まっているわけにはいかないなのに
俺は『世界を救う』と言う目的のためにこの人生を捧げようとまで決めていた。
しかし、本当に現実世界は危機に陥っているのか? と言う疑問が頭の奥底から消えない。なぜなら、現実世界ではそのような事が起きていないからだ。
「ギリス政府との戦争はどうなったのだろうか?」
咄嗟にドアの外で人の気配を感じる。まだお昼の時間ではないため不思議に思いながらも視線を飛ばす。
すると、特殊な機械音と共にドアは開かれ、俺に食事を運んでくれていた若い男性が姿を現した。男は俺を見ると口を開く。
「神崎大翔。着いて来い」
俺が疑問に満ちた目で見ていると、男は説明してくれた。
「ある理由があって開放することになった。もうじきお前の仲間もこの第三拠点エレフセリアに集まるだろう」
――ある理由? いったいなんだ?
「とにかく着いて来い。――詳しい話は後だ」
俺が男に連れられ行き着いた場所は、豪華な装飾が施された木製の扉の部屋。男はドアを軽くノックして扉を開けた。
すると、予想外の人間が視界に写った。
「高崎……龍!」
「――久々だね。神崎さん」
「お前っ! 今までいったい何処に……!?」
俺達は何度か高崎に連絡を取ろうとしていたのだが、ある日を堺に彼の消息が途絶えてしまっていたのである。
その彼が目の前でソファに悠々と腰を下ろしている。俺が問いだたそうとするのを制止して一ノ瀬 陣が口を開く。
「落ち着いてください神崎さん。――まずは座ってください。あと君 は通常勤務に戻っていいですよ」
俺を案内した男は一ノ瀬に言われ、素直に頷き部屋の外へと出て行った。
「神崎さん。コーヒーでもいれましょうか?」
「いや、大丈夫だ。そんな事より早く話を始めてくれ」
「そうですね~。それででは何処から話しましょうか……?」
一ノ瀬は高崎に目配せする。
「――大まかな経緯は一ノ瀬さんにお任せしますよ」
「そうですか。それなら何か補足があれば随時付け足してください。それでは、少し長くなりますがよろしいですか?」
俺が頷くと、一ノ瀬は膝の前で手を組むと語り始める。
「神崎さんはこの世界が出来た理由とかって考えたことがありますか?」
突然の質問に俺は戸惑いながらも肯定する。
「――この世界に触れた人は誰であろうと、その事について一度は考えますよね。
同様に私達エスポワールもそうです。しかし――、長年この世界について調べているエスポワールでさえ未だに解明出来なかった」
「出来なかった……?」
「――はい。実は高崎さんのおかげで、ある程度の秘密が解明されたのです!」
「高崎のおかげだと?」
「そうです。今回貴方達を解放したのも高崎さんのおかげです」
「そうなのか……!?」
そう問うと高崎は否定することもなく頷いた。一ノ瀬はさらに続ける。
「ブックダイブは支配者の本。またの名を始まりの本呼ばれる一冊が創造していることは知っていますか?」
「あぁ。知っている」
「なら神崎さん。ブックダイブの世界は何時から始まったと思いますか?」
「――――20年前とか?」
適当に答えてみると一ノ瀬は嘘を見透かしたような微笑みで答えた。
「惜しいですね~。支配者の本が発見されたのは40年前なんですよ。しかも、日本のある場所で」
――そんな昔から!? しかも日本だと……?
「ダイバーが全て日本人と言う事には気づきましたかね? それは、何故か? ――40年前、支配者の本を発見したのは日本政府。
政府はその時ある事を考えた。このとんでもない力を世界の覇権を握るために使用すると……。それもあって現在まで他国に隠蔽して来たのです」
「それが本当だとして、何を根拠にそんな事を言っている?」
俺は猜疑心を露にして一ノ瀬を見る。
「根拠はちゃんとありますよ。――今この世界の勢力を分けるとしたらいくつになります?」
「エスポワール、ギリス政府、そして何処にも属さない無所属の三つじゃないのか?」
「そう。今はその三つですね。しかし――、実はもう一つ秘密の組織が存在したんです。その名も――『プロトポロス』。ギリシャ語で先駆者と言う意味ですね」
「プロトポロス……?」
「そのプロトポロスこそ、国が秘密裏にこの世界の管理・調査のために作り出した組織なんです。そして高崎さんは今のプロトポロスのリーダーを務める方なんです」
「国が作り出した組織? しかも高崎がそのリーダーだと……? こいつの言っている事は真実なのか?」
「事実だ。――ここからは俺が話をしよう」
高崎は普段の丁寧な口ぶりを崩し、存在感ある話し方で口を開く。
「俺は40年前、日本政府が調査・管理のために作り出した組織のリーダーを務めている。本当は俺はリーダーのような器ではないのだがな……」
「どう言う意味だ?」
「そのままの意味さ……。考えてみろ。普通、国がこんなガキにリーダーを任せると思うか?」
「だが、現に お前がリーダーなんだろ?」
「今はな……。以前は俺ではないちゃんとしたリーダーが存在した」
高崎は間を置き吐露する。
「ここからは個人的な話になる。――支配者の本が発見された時、この世界を調査するために国に選抜された多くの人間が派遣された。
その中に俺の祖父と父も参加していた。祖父達は人望も厚く、プロトポロスのリーダーとなってこの世界の管理に務める事になった」
高崎はさらに続ける。
「祖父達の管理から数年が経過すると、この世界には初めに比べて多くの人間がダイブしていた。初めは争いもなく、皆協力していたんだ。だが、ある事件は起きた。
――15年前。プロトポロスのメンバーは俺とゼウスを除いてある一人の男によって惨殺されたんだ」
「いったい誰がそんなことを……?」
「その男の名は――――ギリス。現在のギリス政府のトップだ」
室内に重い空気が漂う。高崎は憎悪に満ちた表情で話を続ける。
「奴は当時今の俺達と同じ年頃だっただろうか? 奴は運よくスキルブックを手に入れ、ダイバーの力を有していたらしい。
その時の奴は人一倍協力的で、この世界の神秘に興味を抱いていた。そのため、父達もギリスには多大な信頼を置いていたそうだ。
しかし――――全て奴の策略だった。奴はこの世界に来た時から仲間を集め、機会を窺っていた。そして奴は何処からか集めた仲間と共に本部を襲撃したんだ」
――まさかこんなところでギリス政府の名が出るとは……
「その襲撃によってプロトポロスのメンバーは全滅。俺ともう一人のゼウスは運よく生き延びることが出来た。そして奴は支配者の本を盗み出し姿を消した。
日本政府は多大な人員を出して奴を捜索したが奴の情報を掴む事はできなかった。そして、それから数年後ギリスは凶悪な犯罪者を集めた組織――ギリス政府を設立したってわけだ」
「それでお前がリーダーになったということか?」
「――――そうだ」
この話の根拠について問おうとしたが、高崎の辛辣な表情を見て真実だという事が見て取れた。
「なるほど。それで何故俺達 が開放されることになるんだ?」
「俺達プロトポロスはエスポワールと協定を組み、ギリス政府を倒すことを決めた。解放した理由は、お前達にも協力してもらうためだ」
「俺達が承諾するとでも?」
「あぁ――。なぜなら、現実世界に危機をもたらそうとしているダイバーこそギリスなのだからな」
――やはりか……。普通に考えればギリス政府のボスの確率が一番高いだろうとは思っていた
「俺の意見だけでは答えを決めるわけにはいかない。この話は他の連中にも話す。問題ないな?」
「――好きにしろ」
高崎はイスに深く座りなおし、一ノ瀬に視線を向ける。
彼も物思いにふけっているようだったが、背後で扉をノックする音が響き、振り向くと葛西と鈴の姿が視界に写った。
「神崎先輩!!」
二人は俺を見ると嬉しそうに駆け寄ってくる。
「おぉ! お前らもやっと着いたか!」
「大翔さん。いったい何があったんですか……?」
数日の期間が空いたおかげなのか、鈴はの表情は落ち着いていた。俺は二人に今までの話を掻い摘んで話して聞かせる。
「そんなことがあったんすか―――。ってことは世界を救うなら戦争に参加しないといけないってことっすよね?」
「この話が真実ならばそうなるな。まずは雨宮が到着するのを待とう。一ノ瀬! 雨宮もここに向かっているんだよな?」
「そろそろ着くと思いますよ? 雨宮さんは少し遠くの拠点に幽閉されていましたから、時間がかかっているのでしょう」
俺は思い出したように口を開く。
「そう言えば、誰が鈴に発信機なんて取り付けたんだろうな?」
俺がそう問うと、鈴が肩を落とす。そして弱弱しく言葉を漏らした。
「多分おにいちゃんです……」
「鈴の兄さんが? 何故……?」
「詳しい理由はわからないですけど、私は昔から兄の作った研究品で遊んでいましたから。おそらくその時――。すいません。私のせいで……」
鈴が謝るのを慌てて慰めていると、ドアが勢い良く開かれた。
そして、男が額に汗を流して焦った顔で部屋へと駆け込んで来る。男が一ノ瀬に耳打ちすると――
「なんだって!? ――第六拠点が襲われた! ?」
「どうしたんだ・・・?」
「――――皆さん、落ち着いて聞いてください。第六拠点パラディソスがギリス政府によって壊滅させられました。実はその拠点には……雨宮さんを幽閉していたんです。生き残ったダイバーによれば、ギリス政府は雨宮さんを連れ去ったそうです」
一ノ瀬の言葉に俺の頭の中は真っ白になり、思考が停止した。
そして胸は今まで感じたことないくらいざわめき、吐き気が全身を襲う。
「な、なっ……んだとっ!! 雨宮は此方に向かっていたんじゃなかったのか!? おい!!」
俺達は一ノ瀬の言葉を受け入れることが出来ず、立ち上がり詰め寄る。彼はは頭を抱えて言葉を漏らした。
「これは私の責任です……。申し訳ございません――――」
「――――――――」
崩れ落ちた俺に鈴は寄り添うように背中をさすってくれた。
葛西も同様に悔しい表情を溢れさせて、拳を握り締める。
「――くそっ。くそっ、くそおぉ……! 雨宮………………」
「大翔さん――」
俺が地面に膝を着き落胆していると、葛西が口を開く。
「落ち着いてください神崎先輩……」
「――落ちつけだとっ!? 仲間がさらわれたんだぞっ!! お前はよくそんな冷静でいられるなっ!」
「落ち着けって言っているじゃないすかっ! 心配しているのはあんただけじゃない!! 俺と鈴だって同じくらい心配してるんだ! でも・・・今ここで落胆していたって意味がないって先輩ならわかっているはずだろっ!?」
「ならどうしろって言うんだよ……!?」
「――俺達も戦争に参加しましょう。雨宮さんを奪還するにはエスポワールの人達と協力するのが一番だと思うっす」
「――――――くそっ。……鈴もそう思うのか?」
鈴に視線を向けると、鈴はとても柔らかな笑みを浮かべ、こう言った。
「私もりくちゃんの考えに賛成です。――大翔さん。いつもの大翔さんに戻ってください! いつものかっこ良くて私の大好きな大翔さんにっ!」
鈴は 恥ずかしがる素振りをいっさい見せずに俺を抱きしめた。
俺はその言葉、表情、雰囲気のおかげなのか、全身を襲っていた吐き気が止まる。
俺は自分の情けなさに言葉が出なかった。
「先輩、立ってください……。立って一緒に雨宮さんを救いましょう!!」
そう言って葛西は手を差し出した。俺は一度深呼吸をするとその手を力強く握り締めた。
「……二人ともすまない。絶対助けようっ……!」
「あたりまえっすよ!! ――なぁ? 鈴!」
「うんっ!!!!」
俺は先程の姿を見られていた事に恥ずかしさを覚える。そしてこう言った。
「一ノ瀬、いや一ノ瀬さん……。俺達も戦争に参加させてくださいっ! おねがいします!!」
俺達が頭を下げると、一ノ瀬は慌てて声を上げる。
「頭を上げてください! 私にも責任があります……。エスポワールも全力で雨宮さん奪還に手を貸させて頂きます!!」
「――――どうやら協力してくれるようだな? 姉さんが捕まったのは予想外の事だったが、目的を遂げる気持ちが強くなって良かった。それじゃ、一ノ瀬さん。後は頼みます。俺は一度戻ります……」
「わかりました! それでは、私達も各地に散らばる主要メンバーを此方に集めますね。集合次第落ち合いましょう!」
高崎は頷くと部屋を出て行く。一ノ瀬は慌しい様子で口を開いた。
「あと数日もすればエスポワールの幹部達が新しい第一拠点オーニラに集結するでしょう」
「なら俺達もこれからそこに向かうのか?」
俺が質問を口にすると、一ノ瀬は考える仕草をした。
「――いえ。神崎さん達にはもう少しこの世界の情勢や、我々が持っている情報を知ってもらいたいと思います。それと、能力の使い方についても学んでもらいたいと思っています」
「一刻も早くギリス政府に攻撃をしかけるんじゃないのかよ!?」
俺が強めの口調で言うと、一ノ瀬は言葉を放つ。
「落ち着いてく ださい。雨宮さんが心配なのはわかります。――ですが、焦って攻撃を仕掛けても戦争に負けるだけです。
神崎さん達に仲間がいるように、私にもたくさん仲間がいます。そんな仲間達を個人的理由だけで命の危険のリスクを上げるわけにはいかないのです。
――わかってくれますね?
それに、私の予想ですが雨宮さんは簡単には殺されることはないでしょう」
「なんの理由でそんなことを……?」
「簡単な事です。もし殺すのならば、わざわざ連れ去りはしないでしょう? しかも、ギリス政府にとって一番脅威になるであろう私達の拠点なんて一番避けるべき場所でしょう?」
「たしかにそうだが――――」
「私達も可能な限り、迅速に戦争の準備は行いますので」
「――――――――わかった」
一ノ瀬は微笑を浮べた後、口を開く。
「それでは、私は本拠点に戻ります。神崎さん達はこの拠点に留まっていてください!」
そう言って部屋を出て行こうとする一ノ瀬に葛西が慌てて声をかける。
「俺達にギリス政府の事と能力の使用方法について教えてくれる人はどうするんすか?」
「――おっと。言い忘れていましてね。その件については既に連絡は取ってありますので、もうすぐここに来るでしょう。それでは私は……」
俺達三人だけとなった部屋には静けさが漂った。そして何故か葛西の鋭い視線が俺を刺激する。
「――鈴に先輩! いつまでくっついているんすか!?」
「……わっ! すみません大翔さんっ。うぅ~――。私、なんて大胆なことをっ……」
鈴は顔をリンゴのように顔を真っ赤にして俺から離れる。
そして、隠れるようにしてソファに顔の陰に隠れた。俺達は顔を見合わせ笑い
合った。
――鈴のお陰で場が明るくなったな。雨宮……。俺達は本当に良い仲間を持ったな。必ずお前も助けてやるからな……!
{高崎side}
暖かな日差し浴びながら林を抜けると、巨大な岩壁が続く場所へと行き着いた。
岩壁には大きな洞窟が空いており、その洞窟を守るように武装をした男が立っている。彼は俺を見るなり頭を下げ、声を出す。
「お疲れ様です! 高崎様!!」
「異常はないか?」
「はい! 現在は何も異常はありません!!」
「そうか。なら引き続き頼む。それ……と、様付けはやめてくれといつも言っているだろう?」
「それは出来ません! 高崎様は俺達のボスなんですから!!」
「――――はぁ」
俺はため息を一つ付くと洞窟の中へ足を踏み入れた。ここは俺達の組織プロトポロスの拠点。
俺はエスポワールとの協定を知らせるためにこの場所に戻ってきた。
スキルブックを使用して皆に伝えても良かったのだが、大事な事なので直接出向いたのだ。
迷路のようになった洞窟を迷うことなく進む事10分程。機械の扉が岩壁に埋め込まれるように設置されている場所に行き着く。
扉には四角い穴が空いており、俺がスキルブックを取り出しその穴に入れと、扉が赤く発光しはじめ。そして、ガチャン。と扉の開く音が洞窟内
に鳴り響く。
俺はスキルブックを 取り出し、中へと入って行く。
この扉は俺達プロトポロスが作り出した扉。登録を許可されたスキルブックを窪みに入れることで扉は開かれる仕組みになっている。
室内は洞窟の中とは思えない程快適で広く、人工的な明かりに溢れていた。
既に顔見知りの四人のメンバーが揃っており、俺を視界に捉えると皆明るい表情で出迎えてくれる。
「高崎さん。帰ってきたんですね!!」
四人の中でも一番若い青年が真っ先に声をかけてくる。
「あぁ。アポローン……。お前また勝手に小説世界にダイブしたようだな?」
「そ、それは――――。すみません……」
アポローンは落ち込んだ様子を見せる。アポローンとはギリシャ神話の守護神にして光明の神の名前。
何故この名前を使用しているか。それはプロトポロスはギリスによって壊滅される前、12人の幹部が存在した。
さらに、俺の祖父がギリシャ神話に心酔していたため、12人の幹部にはオリンポスの神にちなんで名が与えられたのだ。
ギリス政府もギリシャ神話に影響され、作られた組織。
奴もまた当時雷と火山の神――ヘーパイストスの
名を与えられた幹部の一人だったのだ。
今は、自身のコードネームを創造主――カオスと変え、この世界に混沌を撒き散らしているが。
「だから言ったじゃろうて? お主はちと自由すぎるのじゃ。もっと幹部としての自覚をもつことじゃぜ?」
アポローンに向けられてしわがれた声が突き刺さる。
「まぁ、よろしいじゃないですか。ゼウスさん。アポローンもまだ幼い子供なんですからね?」
「――まったく。アフロデーテ殿は甘いのぉ」
「うふふふ」
「みんな! 高崎様が困っているだろう? もう少し緊張感を持ちたまえ」
最初のしわがれた声の男性は、全知全能の神――ゼウスの名が与えられた老人。
そし
て、透き通るような声でアポローンを庇ったの
は、愛と美と性を司る神――アフロデーテの名を与えられた美しい女性。
最後に喋ったのが、海と地震を司る神――ポセイドンの名が与えられた中年の男性。
「――さぁ、高崎殿座ってくだされ」
俺が腰を下ろすと、立ち上がっていたアポローンも隣に座り、ポセイドンが口を開く。
「エスポワールとの協定はどうなったのですか?」
「協定は取り付けましたよ。しかし、一つ厄介な事が起きてしまいました……」
「――厄介の事とは?」
「あねさん……。いや、雨宮真理奈がさらわれたのです」
幹部の皆は目を丸くして声を漏らした。
「なんですとっ!? それは本当か? 高崎殿!!」
「雨宮さんが捕まった――。それってやっぱりあいつが絡んでいるっていうことっすよね?」
「――高崎さんはどう考えているのですか?」
そう言って幹部達はいっせいに視線を此方に向けてくる。
「おそらく……彼女は奴の元へ連れて行かれたのだろう。――なんとしてもギリス政府を壊滅させなければらない。皆、直ぐに仲間を呼び戻してくれ!」
俺が強めの口調でこう言うと、皆は力強く頷いた。




