交差していた互いの気持ち1
{神崎side}
「――神崎。出かけるのか? もう少しで夕飯できるんだが……?」
エプロンを着けた雨宮がキッチンからひょこっと顔を出した。俺は靴を履きながら口を開く。
「少し出かけてくるわ……。夕飯までには帰ってくる」
「ぉっ。そうなのか! それじゃ、いってらっしゃい! ダーリン!」
「誰がダーリンだ! ――まぁ、行ってくるわ」
俺は暖かい夕日の暖かさを肌で感じながら一つ欠伸を漏らす。
デスワールドから帰還して一日が経過していた。今日は久々の学校に雨宮と共に登校した。
登校中周りの視線が痛かったのが何故だろうか?
デスワールドから帰還する直前、葛西に今日近くの公園に来てくれと呼び出されたため、俺は困惑しながら歩を進めていた。
目的の場所は家から歩いて10分程の距離にある公園。都会の住宅街には珍しい広々とした公園で、ウォーキングルートとしても人気が高い場所だ。
――今朝来たメールには午後5時に公園の端にあるベンチで待っていると、書いてあったな。少し早かったか?
俺はポケットに手を突っ込み、公園の中に足を踏み入れる。
時間も夕飯時からなのか公園には人の姿はなく、静けさが支 配していた。
ふと前方に視線を向けると、ベンチに腰掛け空を見上げている葛西が写る。彼は俺の視線に気がついたのか此方を見た。
「――神崎先輩。早かったっすね」
軽く手を上げベンチへと近づく。葛西は端に座り直し、隣に座るように俺に視線を向けた。俺は少し躊躇いながらも横に腰掛ける。彼はさりげなく言葉を漏らした。
「突然呼んですまなかったっす……」
「いや、俺は別に暇だったから大丈夫だが」
「そうっすか! ――ふぅ。なんか今日は寒いっすね~」
「あぁ。そうだな……」
その後も葛西は本題には入ろうとはせずに、他愛のない話を続ける。
「いや~。今日の学校はなんだかめっちゃ懐かしい感じがしたっす! 神崎先輩はどうでした?」
「俺も同じような感じかな? まぁ、あんな現実離れした世界にいたんだからしょうがないだろう」
「そうっすよね。――――神崎先輩。モンスターキングダムでは、俺達を助けてくれて本当にありがとうっす!」
「――突然どうしたんだ? その事については気にするなと言っただろ?」
「そうっすけど――。今こ、んな生活が出来るのも神崎先輩達のおかげだなと思ったらお礼が言いたくなったんすよ」
葛西はおもむろに立ち上がり頭を下げた。俺は焦りながら口を開く。
「頭を上げてくれ葛西。お前達は俺達の仲間だ。助けるのはあたりまえ事だ」
「――――神崎先輩はやっぱり何処か変わったっすね。失礼なことを言いますけど、以前の先輩には感情がないように思えました。突然変なこと言ってすいません……」
「いや、いいさ。本当の事だからな。――俺も今ならわかる。前の俺は普通ではなかった……。正直今でも何が正確に変わったのかわからないんだがな」
「俺は今の神崎先輩の方がいい と思うっすよ! 鈴だってそう思っているだろうし……」
「そ、そうか……」
葛西は急に黙り込む。俺はどうしていいかわからず口ごもる。
暫しの静寂が流れた後、普段は見せないような真剣な表情で葛西は言葉を漏らした。
「――――神崎先輩は鈴のこと正直どう思ってるすか?」
「鈴をどう思っているかだって……? いきなり何を言っているんだ?」
「そのままの意味っすよ。これから言う事は俺の予想に過ぎないっす。だけど聞いてください。鈴は――――神崎先輩の事が好きだと思うんす……。勿論、異性としてです」
「――はぁ? そんな事あるわけないだろう?」
「絶対そうっす! ――幼馴染の俺にはわかるんすよっ!」
俺は葛西の言葉を否定することは出来ず、自身の考えをポツポツと述べる。
「それが本当だとしよう。だけど、俺はわからないんだ……。なんていうか、相手を好きになるとか、相手が自分の事を好きっていう感情がどんなのか理解出来ていなんだ――。
例えその話が本当だったとして、も今の俺には答えを出すことが出来ない……」
俺が恐る恐る葛西にそう言うと、彼は曇りのない綺麗な瞳で言い切った。
「――俺は小さい頃から鈴が好きです。本当に大好きです。――鈴は、俺には見せたことのないような表情を先輩には見せます……。
その姿を見ると俺は苦しくて、苦しくてしょうがなかった……。でも、だからと言って鈴が先輩を好きになるのは止める事はできない――」
葛西は間を置き、さらに弱弱しく言葉を漏らす。
「――――俺は鈴が大好きです。もし鈴の隣に俺がいなくても、鈴が本当に幸せになるなら俺はそれで満足です! だからもし……神崎先輩も鈴の事をちゃんと考えて下さい! お願いしますっ。神崎先輩!」
「さっきも言った通り、俺にはどうすればいいかわからない。だが――――葛西。お前はそれで本当にいいのか?」
「何がっすか……?」
「お前は俺が鈴と付き合う事になってもいいのか?」
葛西は表情を強張らせ、強めの口調でこう言った。
「………………そんなの嫌に決まってるじゃないっすか! 嫌っすよ……。嫌です。嫌だ――。いやっすよ!! 俺はずっと隣で鈴を見てきたっ!
これからも俺は鈴と一緒に笑っていきたいっ! ――神崎先輩には渡したくな いっすよ!! だけど……、だけどっ!! 鈴は神崎先輩が……」
「――ふざけんな」
「ぇっ……?」
「ふざけんなって言ったんだよ? 俺にはよくわかんねぇけど、そう簡単に逃げる理由作って諦めるんじゃねぇよ! 鈴の事をずっと見て来たんだろ?
それなら簡単に諦めんじゃねぇよ!! 俺がこんな事言ったって説得力もないだろうけど、お前はそんな弱くなかっただろう? 本当の自分を偽るんじゃねぇよ!!」
俺は息を荒げながら言い放った。葛西は暫くの間肩を震わせた後言い放った。
「――――――――俺は馬鹿だっ……。本当にばかだっ……。自分を押し殺してまで、鈴のためにって思ってたけど、鈴がそんな事喜ぶはずがないってわかっていたじゃないかっ! ――俺は大馬鹿だっ。……神崎先輩。いいんすね? もう後悔しても知りませんよ?
俺は諦めません。必ず鈴を振り向かせて見ませてやるっす!!」
「――ふんっ。当たり前だ」
「――――ありがとうっす」
葛西の瞳からは一筋の涙が流れ、すっきりとした表情で笑った。俺も自然と笑みが零れ、お互いなんだか恥ずかしさを覚え、言葉が無いまま帰路についた。
しかし、そこに気まずさはあらず、初めて葛西とわかり合えた気がしてさらに自然と笑みが零ぼれたのであった。
その後、特に変わった事はなく日にちが経過していた。
作戦決行日を明日に控え、俺達は近所のカフェで集まることに。
運よく明日から学校も休み期間に入るということで、葛西達も今日は俺の家に泊まり明日は共に行く事になった。
「――ふぅ。ここのコーヒーは上手いな」
「なんだ神崎? きみは以前から来ていたのか?」
「まぁな。ここは何も考えなくてよかったからな」
「ふふっ……。神崎先輩にカフェって似合わないっすね」
「りく君! そういうこと言っちゃだめだよっ! ――大翔さんがいくら変態だからって」
鈴が変な勘違いしているので、俺は慌てて否定する。
「変態がカフェに来ちゃいけないっていうにかよ! ――まず、俺は変態なんかじゃない!」
「――ぇ!! そうなんですか!?」
「当たり前だ。まったく鈴に変な事教えないでくれよ……」
そんな下らない 会話をしながらも、脳内には明日の事が浮かんでいた。
俺はコーヒーを一口含んだ後、会話を切り出す。
「明日からまたあの世界にダイブすることになるのか……」
「なんだ? 嫌なのか?」
「別にそういうわけではないが、また仲間が危険に晒されることになるかもしれないだろう?」
「大丈夫っすよ先輩! 今回から俺も戦えますからねっ!」
「わ、私もです!!」
「ほら。みんなそう言っているだろう? そんな心配することじゃないよ」
雨宮は先程注文したデザートを食べながら喋る。
「それに、エスポワールのおっさん達と一緒にいれば安全だろう」
「それもそうだね。――ところで結局葛西はどうやって能力を手に入れたんだ?」
俺が質問をした瞬間、葛西の笑顔が凍りついた。
「そういえば私達も詳しく聞いてないなぁ? 鈴もそうだろ?」
「はい。変な事ばっかり言って誤魔化されるんですよっ!」
「ほ~。それでどうなんだい? りく君」
葛西はあからさまにオロオロしながら言葉を漏らす。
「――そ、それはっ。みんなに言った通りっすよ! 別にやましい事なんて……」
「やましい……?」
すすが首を傾げ聞き返す。
「いやいやいや、やましいなんて言ってないぞ! まったく鈴は直ぐに聞きまちがいをするからなっ! あはは……。ってそんな事よ
り、あれから何か情報は得られたりしたんすか?」
葛西は急に質問を変える。雨宮達は彼の言動に疑いの目を向けていたが、俺が雨宮に見ると、鞄の中からスキルブックを取り出した。
「実は少し前に高崎からのメールの通知があったんだが……。うーんと――。………………なんだって!?」
「どうした?」
「それが……高崎の情報によると、私達がいたエスポワールの拠点がギリス政府の攻撃により崩壊。そしてついにギリス政府とエスポワールの戦争が本格的に開戦したらしい――」
「戦争ですか………………」
鈴は両手を口に当て、悲しみを帯びた表情をした。そんな彼女を励ますように葛西が明るい声を出す。
「大丈夫だよ鈴! 戦争だってもしかしたらそんな悲惨なものじゃないかもしれないし! それに俺達は別行動なんすよね?」
「あぁ。しかし、別行動で動くとは言っていたが戦争が本格した今、エスポワールの連中といる方が危険かもな……」
「だからと言って協力を断るわけにはいかないだろう?」
「まぁ、どっちにしろギリス政府の連中とは関わらなければいけないしな……」
「雨宮の言う通りだ。なんとかなるさ!」
雨宮に撫でられ気持ち良さそうにする鈴を見ながら、俺はコーヒーを飲み終えて立ち上がる。
そして、家に着く頃には完全に暗闇が街を染めていた。
俺達は鈴と葛西が作った料理を食べ終え、午後9時を回った辺りで寝床についた。




