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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある夏の日の、

作者: 七瀬

 じりじりと太陽の光が照りつける中、私は住宅街を歩いていた。目的地は親友の家だ。今日は彼女に話があるから来て欲しいと家に呼ばれたのである。ただ、彼女の家に行くのは小学校を卒業した日以来なので、駅からここまで少し迷いながらも地図を見ながらここまでやってきた。

 そうして着いた彼女の家は、私の記憶よりもとても大きくて、資産家であった母の実家と同じくらい立派だった。屋敷といってもいいような雰囲気である。

 ピンポーン

「はい。どちら様ですか?」

 女の人の声がした。聞き覚えの無いので、お手伝いさんなのであろう。

「藍原です」

「お待ちしていました。今門をお開けしますので少々お待ちください」

 そうして門が開くのを待ちながら、私が思い出したのは彼女との出会いだった。



 小学校六年生の夏休みが明けた初日の事だったと思う。その日はクラスが妙に騒がしかったのを覚えている。その頃私はあまり周りに興味が無く、クラスで少し浮いていたと思う。だが後で聞くと大人っぽくて静かな子と好意的に見られていたらしい。まあそのせいなのか特に誰かが話しかけてくることもなく、その日の朝も校庭を眺めていた。

 そして、朝の会の途中で担任の先生が、「今日は皆さんに紹介したい人がいます。入っていいですよ」と言うと、ガラガラと扉が開く音がした。男子がワーワーと騒ぎ、女子が拍手をするのが聞こえ、黒板に何かを書く音がして、入ってきた人はこういったんだ。

「はじめまして。転入してきた雨野梨沙です。みなさんよろしくおねがいします」

 その声は私が今まで聞いた中で一番綺麗な声で、澄んだ水の様にどこまでも透明で、優しくて、でもどこか冷たい感じがするものだった。そして声のした方を思わず見た。見てしまった。

 そこには絶世のという言葉が付きそうな美少女が立っていて、何故か私に向かって微笑みかけてきた。その笑顔はとても美しかったけれど、私は突如寒気を感じた。もう離れられないと、そう思った。そして昔、母の言っていた事がとてもよく分かってしまったのだ。


 小学校四年生の時に、母と一緒に家の大掃除をした。その時に母がアメリカの大学に居た頃のアルバムを見せてもらった。そこには私が物心のつかないうちに亡くなった父の写真がたくさんあった。父と母は大学で出会ったのだという。そして、父と同じくらいたくさんの写真に完璧と言っても良いほどの笑みを浮かべた美女が写っていた。その写真をしばらく見つめていると、高校の時からの親友なのだと教えてくれた。

 彼女も母と同じ大学に留学していたのだという。そして母はこう続けた。

「初めて出逢ったのは高校のときだったんだけどね、あの時は寒気がしたわ。もう離れられないって、この人とは一生の付き合いになるって、何故かわかったのよね。もちろんお父さんと初めて会ったときも何か感じるものがあったんだけどね」

 私もとても小さな頃にあったことがあるらしい。病院で私を抱いている彼女と父と母の写真があった。

「でも最近は連絡が取れなくて、彼女が今どこにいるのかわからないのよ。元気にしていてくれるといいのだけれどね」

 そして母は心配だわ、と呟いた。その頃の私には母の言うことを全部分かりはしなかったけれど、母がとても懐かしげで、でも悲しそうだった事はよく覚えている。今はきっと彼女と父のことを重ね合わせていたのだろうと思っているのだけれど。

 母はその時、胸元のネックレスを手繰り寄せて私に見せてくれた。そこには青い石が輝いていて、まだ小さかった私にはとてもまぶしかった。

「この写真を見て?」

 その写真には二人の女の人が同じデザインの赤と青のネックレスをして笑っていた。

「大学一年の時のクリスマスの写真なんだけどね。プレゼントを交換したら偶然二人とも同じお店の同じデザインのネックレスだったの。違うのは石だけ。私が選んだのは赤で、彼女が選んだのは青。それがこのネックレスなの」

「とっても綺麗!お母さんいつもそのネックレスと指輪してるよね。それ、私も好きだよ!」

 小さな私は首もとのネックレスと左手の薬指の青い石の埋まった指輪を指差しながら笑った。でもきっと、その時の私はとても物欲しそうにネックレスを見ていたのだと思う。

「ええ。とっても大切なものだからいつもしているの。失くさないように。……そうね、あなたが二十歳になった時、まだあなたがこのネックレスを欲しいと思うのならばあげましょう。お祝いにね」

 でも指輪はだめよ、そう言って母も楽しそうに笑った。

「ほんとに? ほんとにくれるの?」

「ええ。約束よ? 忘れないでね」

「うん。楽しみにしてる!」



 そんな小さな頃にした母との約束。

 その約束の日よりも前に母は亡くなった。私の十五歳の誕生日の前日の事だった。母は居眠り運転をしていた車に撥ねられ、搬送先の病院で息を引き取った。病院についてから周りの人に止められながらも母の下に駆け寄り、血まみれの母を見た私はそこで気絶したらしい。

 母はその時とっさに鞄を庇ったらしい。そのため荷物は無事だった。その中入っていたのは私への誕生日プレゼント。私が昔から欲しいと言っていた私のためのノートパソコンだった。

 私は今でも「血」という物がトラウマになっていて、血を見ると倒れそうになる。それに高二になった今でもそのプレゼントは使えないままだ。


 その後は中学卒業までは伯母の所にいた。引越しの関係で彼女とは違う中学に転校したが、それでも彼女はよく私に会いに来て、そして色々な話をしてくれた。彼女がいなければ私は周りとの関わりを絶ってしまっていたかもしれない。

 だから高校は彼女と同じところにした。それからは母の遺してくれた家で一人暮らしをしている。昔から家事は私の担当だったので、一人でも特に苦労はなかった。彼女は今も、よく学校帰りに遊びに来る。

 母が死んだ悲しみを、乗り越えられた訳ではない。でも、彼女がそばに居てくれれば、隣で「アイちゃん」って呼んでいてくれたら、そのうち乗り越えられるのではないかな、と思う。そして、母と母の親友のように、一生の付き合い、というものをしたい。彼女から離れたくない。

 これは親友に向ける感情としては少し間違っているのかもしれないけれど、


 母のネックレスと指輪は形見として私の物となった。伯母によると、この青い宝石はサファイアらしい。九月の誕生石で、石言葉は慈愛。母にピッタリな宝石だと思った。



 考え込んでいる間に2・3分ほどたっただろうか。門が勢いよくガシャンと開き、そこからふんわりとしたワンピースを着て、サンダルをはいた女の子が飛び出してきた。胸には緑のネックレスが輝いている。

「いらっしゃい。待ってたよ。入って」

 梨沙はそう言うと私の手を掴み、屋敷の方へと引っ張っていく。勢いが強すぎて転びかけながら、私は彼女についていった。


 屋敷の中に入ると彼女は玄関を入って直の所にある扉を開いて、

「紅茶の用意をお願いします」

 とお手伝いさんに言い、さあ入ってと私を中に促した。

 ソファに座ると直にお手伝いさんがティーセットの乗ったワゴンを持って帰って来た。十秒くらいしかたっていないような気がする。すでに用意してあったのだろうか?この部屋は応接室の様なものらしい。

「紅茶で大丈夫だった?コーヒーとか緑茶も用意できるけど」

彼女はティーカップを片手に持ちながら聞いてきた。

「紅茶をおねがいするよ。ありがとね」

 彼女は紅茶の淹れ方にはこだわりがあるようで、いつも自分で淹れている。そのおかげで私の家にも本格的な紅茶を淹れるための道具がそろっている。コーヒーはインスタントでも飲むので少し不思議に思っている。

「はいっどうぞ!」

 しばらくしてから彼女はレモンティーを差し出してきた。

 私はレモンを一枚入れるか、ストレートでいつも飲む。彼女は茶葉によって変えるらしい。私の家にあるものとは比べ物にならないくらいたくさんの茶葉がそろっているようだ。彼女は今回はストレートにしたようだ。

「あれ、なんか違ったっけ? ごめん。すぐ淹れなおすよ」

 ああ、考え事をしていて飲んでいなかったから、彼女は何かを勘違いしてしまったらしい。

「ん? 大丈夫だよ。ただボーっとしていただけ」

 一口飲んでみる。うん、おいしい。さすがだ。

「よかったー。ちょっと不安になっちゃった」

 思わず頬が緩んでいたようである。やはり彼女の前だと自然体でいられる。とても安心できる。親友というのはやはり大切だな、と思う。

 そうして静かに二人で紅茶を飲む。そういえば私は何をしに来たんだっけ? すっかり本来の目的を忘れてしまっていた。

「それで、わざわざ家に呼んで、したい話があったんでしょう? 何?」

 そう言うと、彼女はびくりと震えた。そしてキョロキョロしだす。挙動不審だ。

「もしかしてなにもないとか?」

「ってわけじゃないんだよ。ただちょっと忘れちゃっただけで。ちゃんと話はあるんだからね!」

 もしかしなくても特に大切な話があるわけではないようだ。無駄足だったかもしれない。二人で居るには私の家でも構わないのだから。まあ、おいしい紅茶が飲めたからそれでいいとしようか。

「むー。信じてないね、アイちゃん。ちゃんと思い出してやるんだからぁ」

 彼女は頬を膨らませて怒り出した。これが絵になる人って少ないと思う。

「あっ。思い出した」

 そして彼女は急に真剣な顔になって。

「ねえ、アイちゃんは何処にも行かないよね?」

 どういう意味で聞いているのだろうか?

「ちょっと前にね、お父さんがね、遠い所にいっちゃったんだ。そしたらね、お母さんもこれをおいてお父さん達を追いかけていっちゃったの。やっと会えるって、そう言っていなくなっちゃったんだ。二人とも私を連れていってくれなかった。だからとっても寂しかった。私もう寂しいのは嫌だから、考えてみたんだ。どうしてこうなっちゃったのかなぁって。それでね、見つけたの。二人の共通点」

 微笑を浮かべながら彼女は言う。それを見て私は少し嫌な予感がした。

「二人ともね、わたしにとって、とってもとっても大切な、大好きな人なの。だからね、寂しかったんだ。それでね、残ってる大好きな人はアイちゃんだけなんだ。ねえ、アイちゃんもどこかにいっちゃうの?私、寂しい」

 どういうこと、だろうか。分からない。頭がくらくらする。どうすればいいのか分からない。

「どうして黙ってるの? やっぱり。アイちゃんもいっちゃうんだ。やだよ。一人なんていや。」

 そう言って泣く彼女に聞き返そうとする。でも、思考がまとまらない。どうしてだろう。ティーカップが落ちた。

「それなら、アイちゃんまでいっちゃうっていうなら、そうだっていうなら」

 彼女は満面の笑みで「逃がさないよ?」と言う。もしかして、ただ彼女は私とはなれたくないと、そう言っているだけなのだろうか。

 それなら、少しうれしいかもしれない。私もはなれたくないと彼女にかえそうとして、でも力が入らずソファに倒れそうになる。なぜだかとてもねむい。

「これでアイちゃんは私のもの。ずっとずっと一緒だよ?」

 そんな私を抱きとめながら、彼女はうれしそうにいう。その声をききながら、私は眠気にあらがえずにめを閉じる。

 そして、わたしの目にさいごにうつったものは、彼女のむねでへやの明かりによって輝くあかい石のついたネックレスだった。



『二年の藍原が行方不明って聞いたか?』

『もう1月以上見つかってないらしいね』

『なにか事件に巻き込まれたんじゃないかって話らしいな』

『藍原さんといえば、親友の雨野さんが転校したんだって』

『藍原さんが行方不明になる少し前にご両親が亡くなったって聞いたよ』

『大丈夫かな? お別れもいえなかったし心配だな』

『たぶん大丈夫じゃなかったから転校したんだと思うけど』

『だね。親を一気になくしちゃって、一番の親友も居なくなっちゃたんだから、挨拶する余裕なんてなかったんじゃない?』

『それにここに居るといろいろ思い出しちゃうだろうしさ。なるべく早く、って思ってもしょうがないよね……』



 とある私立の高校に時期外れの一人の転入生がやって来た。その転入生は絶世のという言葉が付きそうな美少女だ。思わず息をのんでいる全校生徒の前で微笑みながら言う。

「はじめまして。転入してきた雨野梨沙です。よろしくお願いします」

 そう言った彼女の胸には緑と青、2つのネックレスが輝いていた。



 アレクサンドライト:当てる光によって色が変わる宝石

           6月の誕生石

           石言葉は「秘めた思い」



 少女の秘めていた思いはどこまでも透明で、優しくて。

 けれどもとても冷たいものだった。



「ただいま、アイちゃん!」「大丈夫、これからはずっと一緒だよ」

 そして彼女の左手の薬指にはいつまでも青い指輪が輝き続ける。



文芸部で書いたヤンデレもどきの話。


主人公の生死はご想像にお任せします。(最初の話では死んでいました)

いつか彼女たちの親の話も書いてみたいですね。

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