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phase5

 病院での食事の時間をとうに過ぎていたので、夫に買い出しに行って来て貰い、二人で弁当を食べた。

 ろくろく手を動かせないわたしにあーんをしてくれる夫。眠る赤子を見つめる一瞬。

 それらもまた幸せなひとときだった。


 そんなふうに分娩室でゆったり二時間ほど過ごしたのちに、夫は帰宅をし、わたしは病室に向かった。――母子同室を方針とする病院だが、流石に出産当日は別室にて過ごす。


 別室で過ごすことがいかにありがたいかを後日わたしは、理解する。


 その夜の過ごし方をトメさんから教わった。予備のタオルや飲み水の位置など。――なにしろ、歩くのに一苦労。一歩一歩を踏み出すのがやっと。

 トメさんは、まるで介護されてる老人みたいなわたしに、ひとつひとつ丁寧に教えてくれた。


「トイレ、大丈夫? 心配だったらいま、行っておこうか」

「あはいお願いします」


 介護オムツみたいなでっかいナプキンに、平常の夜用みたいなナプキンを重ねる。

 それまで当てていたナプキンを変えるとき、血を見て、頭がくらっくらした。

 足もろくにあがらないからぜんぶトメさんに介助して貰った。……ちょっと、情けない気持ちになった。


 出産ってこんなにも消耗するんだと、実感した。


 暗い病室で一人横になる。――四十時間以上起き続けている。眠らないと。


 けど変にアドレナリンが出た状態で、ものすごいハイテンション。

 いますぐ夫と喋りたい。


 ……ものの。


 それをすべきじゃないと分かっているので、日記だけ書いた。


 センセーショナルな一日を記しておこうとだけ思った。


 それがこれだ。



 ――出産とは、思っていた以上に痛い。


 しかし、思っていた以上に幸せだ。



 するかしないか選択を迫られるとしたら、するほうを選ぶ。


 それはなにも、わたしが、『迷うならして後悔するほうを選ぶ』考えの持ち主だからではなく、出産自体が幸せだったからだ。


 いまこれを打ち込むのも子どもに邪魔をされながらで作業もままならない。趣味のパソコンをいじる時間も格段に減った。


 それでも、育児に勝る幸せは無いのでは無いのかと、馬鹿みたいに当たり前のことを実感するのだ。


 しかし、産後の三ヶ月間は想像以上に壮絶だった。それはまた別の機会に纏めたい。



 <完>

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