phase1
トイレから出られない状態が続いていた。
痛みが断続的にやってくる。
下痢の酷いようなもので。出したくてもなにか肛門の辺りで突っかかっている感じが続いていた。
脂汗が出てくる。
病院には今朝、行ってきた。正確に言うと昨日の夜中に行き、入院までしていた。――ここ四日ほど陣痛が続いていて、一時間に六回痛みの波が来るときもあれば三回程度のときもあった。電話をしたのは一時間に七回間隔になったときだったが、電話を受けた助産師も「念のため来てみては」という言い回しをしていた。
早く、産みたい。
赤ちゃんに、会いたい。
その一心だった。
穴からすいかを出すようなものだから痛いに決まっている。
でも。みんな乗り越えた痛みだ。
といっても、自分に耐えられるかものすごく不安だ。
痛いのは苦手だ。(得意な人間のほうが稀有だが)
――とっとと痛みとオサラバしたい。
「こんなんじゃあまだまだですよ。もーっと痛みが強くなってから来てくださいね」
「……というと」
「ご主人の顔ももう見たくない! あっち行って! ってくらい痛くなったらですね」
「はあ……」
一晩入院してみた結果、医師に言われたのがそれだった。
入院した途端気が緩んだのか、痛みの強さと頻度が如実に弱まっていくのが分かった。早いとこ産みたいのに逃げていくもどかしさ。痛みが逃げていくこと自体は楽なのだが精神的には酷だ。なお、この陣痛を、前駆陣痛と呼ぶらしい。――出産直前の本陣痛に比べれば『微弱』だが下痢よりか断然痛い。ぎゅーっと絞られる痛みの渦がお腹に渦巻いている感じ。
入院中は一時間おきに看護師が血圧などを測りに来た。来るたび、「おうちに戻ることになるでしょうね」「陣痛ますます弱まってますね」とペシミスティックな言葉ばかり残していった。
嫌味な性格が人相に表れているひとだった。
退院の際、廊下で助産婦さんに会うたび声をかけられた。
「しっかり休んで下さいね」
「運動してくださいね」
……どっちにすりゃいいんだと思った。
同時に、みんなに、空振りで来たのが知れ渡っているのが恥ずかしく思った。
誰に言われたわけでもないが人騒がせな妊婦だと。
――病院を去ったのち、自宅にて半日ほどベッドのうえで横になって過ごした。
まずは、睡眠だと思った。恐ろしいことに、いざ出産になると何十時間と眠れないと聞く。――できるだけ寝て体力を温存するがベスト。
だが眠れない。
眠気など吹っ飛ぶ痛みがやってきて、寒くもないのに震え、鳥肌が立つ。痛すぎて海老みたいに背中が反り返る。夏でもないのにベッドがじっとり蒸れる。――どの程度に至れば病院に連絡すればいいのか分からないし、だいたい夫は会社なので「あっち行って!」と甘えることなどもできやしない。
そのうちに、大をしたいのにできない感覚がやってきた。
何時間とトイレから出れない。いやこれ出たら赤ちゃん出るんじゃないか、というような。
夕刻、再び病院に電話をした。




