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初恋カメラ  作者: ひなの
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偏執少年の恋文。


≪偏執少年の恋文。






今日僕は、写真部の入部届を提出した。


入部にはその部に所属する同じ学年の生徒に認可を貰わないとならないらしいから少し迷ったけど、

君の机に置いておいた。

そういえば、今朝の手紙は見てくれたのだろうか。 どちらにせよ、恐らく僕には近いうちに写真部員、

という肩書きが付くのだ。

嬉しいが少し照れくさい。

顧問は誰だろう。

祝日や土日は活動しているんだろうか。

カメラは各自購入するのだろうか。


一つ一つ、君と繋がりのある質問達を、一つずつ

君に訊く事が出来る。そんなささやかな幸せが、

体内では狂喜乱舞していた。



5時間目、言うなれば午後一番の授業は教師も

生徒も、どこか締まりがなく緩んだ和やかな

空間だった。

一番後列、窓際の席は幸運にも教室全体を

見渡せる。授業なんか聞く必要ない。

僕が学校に来る意味は、君を

眺める事だけなのだから。

国語の教科書とノートは形だけ開いておく。

教師には悪いが、僕の前の席で豪快に睡眠を

とる奴よりはまだマシだろう。


右から3列目、前から4番目に座る君。

今日もさらさらの綺麗な髪を赤いゴムで纏めて、

一生懸命黒板と自分のノートを交互に見ている。

国語科教師の低音かつハスキー気味な声すら、

窓から微かに入る風に揺らぐ君の髪のBGMの様で

妙に心地いい。


白くて柔らかそうな肌に、一度でいいから

触れてみたい。

長い睫毛が縁取られた綺麗な瞳を、いつまでも

自分のものに出来たなら、どんなに幸せだろう。

何気ない瞬間でさえ切り取って

保存しておきたいと本気で考えてしまう。



君は純真だ。



こんな僕にだって平等に優しい。

こんな僕にだって微笑んでくれる。

出逢えた時と何の変わりも無く、汚れを知らない。

清廉で潔白な天使の慈しみに似た微笑みは、

何処の世界の何であろうと適う訳がない。

君には嘘も偽りも無い。

見栄や虚勢が混沌するこの世界で、ただ独り、

素直に哀しみ、素直に笑う事が出来る。


また、純粋だからこそ壊れ物の様に危うい。


僕は君を護りたかった。


君の美しさを壊したくない。

このままにしておきたい。 そう思うのは、

思うだけなら、僕の勝手だった。


__…だけど僕はどうやら、自分で思っていたより

欲張りだったらしい。


眺めているだけで幸せだったのだけど。

どうしても想像してしまっていたんだ。

君と僕が、肩を並べて笑いながら歩く日常を。


君への気持ちを改めて言葉、文章として

認めてみると、何やら純文学の恋愛詩の様で、

気恥ずかしいものがある。

だから…だから、というか、言い訳じみて

しまうけれど…夜中まで書き続けた何枚もの

便箋達を、僕はくしゃくしゃに丸めて、部屋の床に

散らばった数多の失敗作と同じく、

ゴミ箱に捨てた。


そして家を出る直前に、残り1枚の便箋に

一言だけ書き綴り、

1枚の『写真』と共に封筒に突っ込んだ。


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