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押し寄せるハチャメチャと、ゆらぐ世界(1)

 ネットゲームの最中のことだった。

「はぁ……」

 仁々ににぎさとるは思わずため息をついた。

「おいおい、こっちは真剣に悩んでるのにため息かよ、悟」

 ボイスチャット越しに野太い男の声が悟を非難する。

「あ、ごめん。奈弥兄さん。ちょっと眠くなってきて」

「いいじゃん、明日日曜なんだから。今度なんかおごるからもうちょっと付き合えよ。

でもいいよなぁ高校生は。悩みなんて、せいぜい勉強か、彼女を作るとかそういうのだろ」

 無神経なことを言い出す男の名は仁々ににぎ奈弥文なやふみ

 悟と十歳以上歳の離れた従兄だった。

(奈弥兄さんってこんなキャラだったかね……)

 二人のプレイしているゲームは一種のサバイバルシュミレーションゲームだった。

 荒廃した世界を舞台にプレイヤーは協力も出来れば殺し合いも出来る、自由度の高いゲームだ。

 現在、悟は奈弥文とペアで協力プレイをしている――

 否、していた。

 今はもう、ゲームはおざなりで、従兄の愚痴漏らしタイムになっていた。

 悟にとって、奈弥文は憧れと尊敬の対象だ。

 同じ町に住んでおり、小さい頃から仲良くしてもらっていた。

 割と勉強が出来る……という以外はスポーツもルックスもコミュ力も、何もかもが中途半端な悟と比べ、全てのパラメータが高水準の奈弥文は、大層な学歴を持ち、その学歴に恥じない職に就いている。

 決してガリ勉タイプではなく、社交的で趣味は多彩。

 悟は昔から色々な遊びや音楽などを教えてもらった。

 悟の性格や趣向もよく分かっていて、おすすめのSF映画、SFドラマのDVDを度々貸してもらっていた。

 勉強も教えてもらった。

 悟の成績が学年上位なのは、明らかに奈弥文の影響が強い。

 同じ価値観を共有してくれる人。

 面白いこと、楽しいこと、そんなものを与えてくれる人、話してくれる人。

 悟にとって奈弥文はそんな『頼れる親戚の兄ちゃん』だった。

 ところが、悟が中学校を卒業したころ――。

 奈弥文が三十間近になって付き合っていた女性と別れたころからである。

(ネットゲームやろうって誘われたのも、たしかその頃だよなぁ……)

 悟は心の中でもう一度ため息をついた。

 ネットゲーム中の奈弥文はまるで別人だった。

 「どうせ~だから」と言い訳ばかりする男。

 そのくせ、相手が悪いとか、他者の欠点や個人的に気に入らない部分を目ざとく見つけてはツッコんでばかりいる男……。

 それが『ネトゲをしている時の奈弥兄さん』に対する悟の持つ印象である。

 現在、奈弥文が、絶賛愚痴り中の話の内容は――。

 「彼女がいない」

 「結婚したいんだけど」

 とか、そういうことだった。

 そもそも、奈弥文が高校生の自分にこんな悩みを愚痴り、打ち明けててくること自体が、悟にとっては正直受け入れがたいことだった。

「んじゃあれだ。今度合コンでもいってみたら?」

 と、悟がいうと――。

「合コンに来るような女は云々……」

 と、文句が返ってくる。

「合コンなんてただの飲み会だよ。パーティーだよ。気軽に行ってみればいいじゃん。奈弥兄さんならそんなの余裕でしょ」

 と、悟は言ってみる。

 悟は友人とカラオケパーティーぐらいしか行ったことがない。

 それも年に数回あるかないかである。

 というより、高校生の悟にとって当然の事ながら合コンや飲み会など未知の領域だ。

 ドラマや小説などで得た知識を元に何とか言っているのだ。

「どうせケツの軽い女しか来ないんだから……」

「……職場に良い人いないの?」

「職場内恋愛は別れた後がなぁ……」

「じゃあこういうネットゲームじゃなくて、もっと人との出会いを目的にしたソーシャルゲームやるとか、社会人向けのサークルにでもいったら? アウトドアとか、これネットで見たんだけどバーベキューとかで交流してるとこもあるよ。奈弥兄さんN県に別荘持ってるじゃん。そこで集まりを主催してみるとかさ」

「そういう出会い目的のサークルとかはなぁ……」

 奈弥文のために、色々調べたなけなしの提案も軽く一蹴される。

(ダアアアアッ いい加減にしろ! いい大人がガキ相手に泣き言ばっか言うなよ!)

 心の中でそう叫びながら、悟はゲーム内で奈弥文のキャラと別れ、別のサーバーで対人戦を始めだした。

 ストレス発散とばかりに、見知らぬ他のプレイヤーキャラクターに対して猛烈な攻撃をしかける。

 二人のプレイしているゲームは自由度が高い『なんでもアリ』が許される世界だ。

 現実では『優しい聞き手役』に徹しながら、仮想空間では鬼畜プレイというなんともアレな状況である。

(……俺、なにやってんだろ)

 ちなみに奈弥文はというと、悟の知っている限り、絶対にPK等は行わない。

 いつでも、どんなときでも、いわゆる善人プレイに徹するのであった。


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