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序幕1

 不意に大きな音がして目が覚める。

 断続的に続く音と怒鳴り声が騒がしい。

 俺は寝ぼけ眼で辺りを見回す、脱ぎ散らかされた服、そこかしこに散らばった雑誌、少し動くたびにきしむベッド、そこはまごうことなく自分の部屋だった。

 枕元の携帯を取り時間を確認する。午前七時三十二分、俺は今日の遅刻理由を考え始めた。

 薄手のカーテン越しに射す朝日が二度寝の誘惑を静かにほどいていく。俺は身体を起こし足を床に落とす。

「さてと……」

 一言つぶやき気合を入れ、俺は俺のプライバシーを身を挺して守っている兵士を救うために立ち上がった。兵士は強烈な殴打の応酬に悲鳴を上げている。

「起きた、もう起きたよ」

 俺は兵士の陰から敵に声をかける。

「いつまで寝てるの!さっさと支度しなさい!!」

 一際大きな怒声を俺に浴びせ、お袋は部屋の前から去っていった。足音に紛れ何かつぶやいているのが聞こえた。


 俺は大きく伸びをして部屋を出る。

 とはいえ、まだ身体は眠りから完全に覚めてはいないようで、まぶたはくっついて離れようとせず精一杯開いても視界は0に近い。俺はそこかしこにぶつかりながらもなんとか洗面所にたどり着くと、ほとんど無意識に顔を洗い始めた。

 備え付けのタオルで顔を拭き洗面台の上の鏡を見る。いまだまぶたは重く視界は明瞭ではないが、鏡に違和感を覚えた。

 もう一度顔を洗い鏡を見る。まぶたはしっかりと開かれ視界は良好だ。だが、違和感を拭い去ることは出来なかった。

 俺は目を凝らし鏡に顔を近づける。

 かろうじてイケメンだったはずの俺の顔がわずかに歪みイケメン枠から外れてしまっている。自慢じゃないが俺は裸眼視力2,0だ、眼鏡を忘れているなどというオチではない。

「なんだ……?」

 つぶやくと鏡の中の俺はさらに激しく歪む、いや、揺れ動いている。それはまるで水面に映る像に息を吹きかけたかのように波打っている。

 確信した。おかしいのは俺ではない、鏡だ。

 おそるおそる鏡に手を触れる。通常の鏡同様ひんやりと冷たいが、感触は鏡のそれではない。ぴったりと吸い付くようにまとわりつき、まるで水に入れるかのようにほとんど抵抗もなく俺の手は鏡の中に入っていった。

 手首まで鏡の中に入れてふと考える。これ以上入れていいものかと。もちろんこの先がどうなっているのかは気になる。ただ、なにも自分の手を入れなくても先を調べる方法はあるんじゃないのかと。

 何か別の方法を考えよう、そう思って手を引っ込めようとした瞬間、鏡の中から俺とは別の手が飛び出してた。

 『手』はあわてて素っ頓狂な叫びを上げる俺の腕をがっしりとつかみ信じられない力で俺を引っ張る。俺は抵抗する暇すらなく鏡の中に引きずりこまれた。



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