週末
とりあえず、プロローグ的な部分がここで終わりです。
◆◇◆◇◆◇
金髪の少女は高層ビルを出る。
如月カンパニー。
強引な財力でものを言わせる社会の裏。
能力者すらも飼い殺す金と権力の巣窟。
私はそんな家の娘でありたくない。
私よりもずっと前から能力者だった兄はどう思っているのだろう?
如月の犬として飼われているお兄様ならわかってくれると思っていた。
冗談半分で聞いたあの言葉。
『お兄様はこの家を出たいと思いませんの?』
『思わないナ』
なんの迷いもなく、そう答えた。
お兄様があの時『出たい』とでも言えば、私はすぐにでもお兄様を連れ出してこの家から出ようと思ったのに。
あの男、如月禾音は現状に満足しているのか、諦めているのか。
如月の名前を守る為だけに、人を殺す事でしか価値を見出されていない事に気付いてないわけがないのに。
それでも、この家に居続けるというのはどういう事なのだろう。
私にはわからない。
だから私は私のする事を成し遂げなければならない。
携帯電話が鳴った。
ディスプレイには神代の文字。
「ワールドエンド回収は失敗しましたわ。お兄……如月禾音の他にもう一人Chainがいましてよ?話が違わなくて?」
「やはり……見つけたかワールドエンド」
男は想定内だと言わんばかりに納得し。
「出来れば、契約前に捕獲しておきたかったんだが仕方ない、戻れ」
「神代」
「なんだ?」
「能力者を消すという事を貴方は本当に出来ますの?」
疑うつもりはない、これは自分にも言い聞かせる為の確認だ。
この男は。
「それを君が一番知っているだろう?」
――――特殊なのだから。
◆◇◆◇◆◇
この週末は、随分と場面が一転二転した気がする。
次に見た光景は、いつも見慣れた自室の天井だった。
足元では、すやすやと眠るアリシア。
心配してずっと看ていてくれたのだろうか。
身体の調子は特に問題はない。
掠り傷は幾つかあるが、すぐに治るだろう。
「アリシアを守るだなんて大言壮語を吐いた癖に如月妹に返り討ちだなんて笑えるよな……」
髪を掴んでからの記憶がないが、途中で何かされて禾音にでも助けられたのだろう。
女の子の髪を掴む主人公の物語があったらきっと不評に違いない。
窓を見ると、太陽が昇っていた。
今日は日曜日、明日にはまた学校が始まる。
とんでもない週末を過ごしてしまったな……。
アリシアを起こさないように1階へ戻り、少し遅めの朝食を作る事にした。
『世界を削る』あの言葉が引っかかっていた。
能力者を消すなんてのは別に悪い事ではないように思える。
だけど、能力者の存在には何か理由があるハズだ。
アリシアがその存在について詳しく知っているなら聞いてみよう。
あの時、アリシアは俯いたまま何を思っていたのだろうか。
『私でもどうにもできないよ』
ワールドエンドでも出来ない事を神代という男はやろうとしている。
……とんだ狂言者だな。
世界、世界と名乗る少女も、直接的な世界の操作は出来ずに、完全に傍観者側だと昨日の夕食時に言っていた。
その立場のワールドエンドが"何かを出来る"ハズはないんだ。
「どちらにしても、早く起きてもらわないと困るんだけどな……」