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ワールドエンドによろしく!  作者: 嘘月
始まりの三日間
5/15

日常から

結局昨日は家に着いたのが朝日が昇る頃だったせいか、起きてみれば正午。

今日が土曜日で本当に良かった。

あのまま、ワールドエンドを家に連れて来て、空き部屋を一つ貸した。

大きい家とは言えないが、俺一人で住むにはあまりにも大き過ぎる。

何度も、何度も昨日(正しくは、今日なのだが)起こった出来事を思い出す。

突然やってきた非日常にも冷静でいられた、あの瞬間までは。

ワールドエンドが刺された瞬間に沸き起こる、怒りと悲哀の葛藤。

決して感情移入できる程の間柄ではない、それなのに何かをしてあげようと願い、実行した。

俺を動かしているのはいつも怒りというスイッチだったのだろうか。

憎しみ、恨み、妬み、怒り狂う、酷く醜悪な人間。

世界の不条理を憎み、傍観者でいようとする気持ちとは裏腹に、どうにかしたいと望む矛盾が引き起こした出来事だったのだろう。



「そういや、お前普段何処で寝泊りしてんだよ。まさか野宿か?」

食卓に座る白い少女は、当たり前のように答える。

「私は常に移動し続ける事が出来るからね。無意識の移動で世界の声を聞けるから、人が必要とする欲求は遮断できるの」

と、人知を超えてると言わんばかりの説明っぷりだが、なるほど、さっぱりわからん。

「そのわりには、よく食うな」

簡単に目玉焼き、タコさんウィンナー(本人の希望)、米、だけでは物足りず、冷蔵庫にあった焼きソバすらも平らげていた。

「正直理解できねぇけど……まぁいいか」

どっからどう見ても、ただの若い女の子なのだが彼女も彼女で色々と大変だというのは理解したつもりだ。

ワールドエンド、世界の意思として実体化した人間が言う神……ん?そういえば。

「そういえば、名前はないのか?ワールドエンドなんて正直呼びにくい」

「翔生はホントに"希少メン"だね!」

「人を勝手に珍しい男にするな……几帳面の事だろ?」

「それ!」

本当に大丈夫なのか?この世界。

「なんか呼びやすい名前ないのかよ。その名前で呼ぶにも、他の人に聞かれちゃ不味いだろ?ず呼びにくい。更に可愛さの欠片もない、なんだよワールドエンドって。絶対に呼び難い。もう一つおまけに呼び難いし、最後に言うとかなり呼び難い」

「ああぁぁぁ!もおぉぉ!うるさい!翔生!呼び難い呼び難い言わないでよ!これじゃあ"八面楚歌"だよ!」

そんな楚歌は、歴史に載るのも恥ずかしいただの弱いものいじめですよ。

世界とやらは歴史が苦手のようだ。

もう一度言う。

大丈夫なのか?この世界。

「まぁ、あるにはあるんだけどね」

と、何処か遠くを見るような目で最初の質問について答えた。

「言いたくないならいいぞ」

何となくだが、この少女はその問いには答えたくないんじゃないか?そんな気がしたんだ。

「ずっと昔の事だから、これが本当の名前かも定かじゃないんだけどね。私の中で覚えてる名前は一つだけあるよ。…………アリシア」

少女は噛み締めるようにその名前を呟いた。

大切なものを扱うように。

「でもね、私の名前なんて誰も呼んでくれないの。翔生もきっといつかは忘れてしまう」

「名前なんてそう簡単に忘れないだろ。嫌でもこんな出会い方した奴の名前なんて忘れないと思うね」

少女は何かを思い出すように答え続ける。

「嫌でも忘れちゃうの、私の事なんて、世界の事なんてね……」

駄目だ、俺はコイツのこういうところが苦手らしい。


「アリシア」

「ん?」

「アリシア、アリシア、アリシア、アリシア、アリシア、アリシア、アリシア」

「ど、どうしたの?壊れちゃったの!?」

「覚えたぞ、お前はアリシアだ」

少女は目を見開いて、初めて大声で笑った。

「あははははは、ホントに面白いね。君っていう人間は」

「別に俺は……」

インターホンのチャイムが鳴った。

「ちゃいむ!」

「そう、チャイムだ」

昨日ワールドエンド……アリシアには色々と生活していく上でのルールを説明した。

チャイムが鳴ったらお客さんだから、迎えに行くのが今の世界のルールっていう話を覚えていたのだろうか。

どうやら幾ら世界の意思でも、現代には疎い部分も色々とあるようだ。

まぁ、居留守という究極奥義もあるのだが、それは追々教えよう。

「ちゃいむがきたら迎えに行く!」

「そうだ」

待て、待て待て待て待て

駆け足で扉まで向かうアリシア。

「おい!待て!ストップ!」

「お客さんちょっと待っててくださいねー!」

昨日言った教えを守って偉いけど、お前に言ってるんだよ!

近所の人に女の子と一緒にいる事がバレたら厄介過ぎる。

あ、でもアリシアは普通の人たちには見えないんだったな……だったら勝手にドアが開いた様に見えてしまうのか!?

急いで玄関へ向かう、待ってくれ頼む、きっと明日にはこの家は幽霊屋敷として有名に――――

しょうちゃん……この子…………誰?」

良かった……見えてるようなら幽霊屋敷としての汚名は逃れられ……ん?

「この……子?」

訪問者であり、幼馴染の天野 月海つぐみはアリシアを指差し蒼白している。

「私はワールッ」

俺はこの世界の口を閉ざし、奥へ連れて行く。

「ちょっと待っててくれ月海」

「え?」

こいつには聞きたいことがある。

「ぷはぁ!苦しかったんだけど!」

アリシアの口から手を放し、俺は小声で問いただす。

「おい、ワールドエンドってのは世界破滅の介入者にしか見えないんじゃなかったのかよ」

「そうだよ?」

「だったらなんで俺の幼馴染の月海が見えてるんだよ!!」

「翔生と契約したら受肉したようなものだよ?全世界の人たちは世界とリンクするの。私と契約した時点で、この世界の情報の器が満たされた状態になって」

「もういい、サッパリわからんけど、お前はみんなから認識されるようになったんだな?」

「うん」

「それを早く言ってくれ……」

「わかった」

何の悪びれた様子もない。

「ここで大人しくしてろ」

「うん」

玄関に戻ると、月海からの質問攻めだった。

「どうして?どうして女の子と一緒なの?それに凄く綺麗な人だったし、外人さん?彼女!?」

「落ち着こう……アイツは親戚だ」

「親戚に外人さんがいるの!?」

「親戚の養子で、俺もたまにしか逢ったことが無くてな……つい最近その親戚が他界してしまったんだ。だからとりあえずウチで預かることになった」

すまん、親戚の秀樹おじさん(34)

「そ、そうだったんだ……大変だね」

「それで、今日はどうしたんだ?」

「えっとね、作りすぎちゃったカレー持ってきたんだ」

そう言って小さい鍋を出した。

たまに月海は、作りすぎちゃったと言って料理をお裾分けしてくれるんだか、結構な頻度で作りすぎちゃうドジ娘だ。

「また作りすぎたのかよ、もっと少なめに作った方がいいんじゃないか?」

「あ、あはは……そ、そうだね」

「まぁ、ありがとな」

「いいのいいの!じゃ、じゃ、じゃあ私はこ、こ、こ、これでえええぇぇぇぇ!」

酷く動揺した様子でいなくなってしまったけど、大丈夫だろうか。

まぁ、徒歩5分くらいの距離だし心配もいらないな。

(ちな)みに、翔ちゃんとは、名前あら取ったあだ名らしい、その呼び方だと全く別の人物になってしまうのだが。


夕食までアリシアから色々な事を聞くことが出来た。

サムライという人たちが存在した時代の話、とてつもなく名前の長い現代では有名過ぎる画家の話、何度も破滅と再生を繰り返すアジアの国の話、蒸気機関車を初めて乗ったのは私と自慢もしていた。

どれもが授業で習ったように似ていて、どれもが今まで教わってきた真実とは似て非なるものだった。

これを世界の真理と呼ぶのだろうか、自分だけに知らされた真実であって、とても知り合いに話せる内容ではないが。


契約の為に信じてもらおうと啓治をして、最後には火炙りになったフランスの聖処女。

どの話を聞いても、歴史の背景にはこの少女は存在していた。


すっかり暗くなった夕方、カレーを食べながらも少女との会話は止む事はなかった。

「そういえば、今まで契約してた奴らってどんな能力を持ってたんだ?」

「ん~、なんか大きな龍を出したりー、なんか滅茶苦茶にする人とかー、あ、あの時は街が一つ消えて大騒ぎだったね!あはは」

「…………」

先人の英雄は重度の武闘派だったようだ。

「俺の能力……か」

あの時感じた強い渇望、理想を手にしたあの感覚が忘れられない、家に帰ってからも何回かイメージしてみたが、あんなに早くは動けなかった。

「制御と発動は慣れだからね。仕方ないよ」

「俺の能力ってのはどうなんだ?今までの中で」

アリシアは悪びれた様子も無く素直な意見で答えた。

「ふつー」

そう言ってカレーを口へと運ぶ。

世界は俺の事よりも、カレーの方が大事なようだ。

「なんだよ普通って……」

カランッ

――とアリシアが握っていたスプーンが床に落ちた。

「おいおい、床が汚れるだ……」

ろ?

アリシアは光の無い目で立ち上がり、機械的に空虚を見た。

「アリシア?」

「近くにいる」

光を瞳に戻し、口の周りにカレーを付けて短く言った。

「近くでChainが能力を使ったみたい」


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