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ワールドエンドによろしく!  作者: 嘘月
始まりの三日間
3/15

◆◇◆◇◆◇


二つの影があった。

一人はフードを被った若い男。

そしてもう一人は、白色になびく腰まであるストレートヘアの美少女。

男は少女を大切に扱っていた。

五体満足、拘束もなく、机の上にはたくさんのお菓子と紅茶、部屋はいびつに急いで取り繕ったような、一面のピンク。

呑気に紅茶を飲む少女と若い男を見て、誰がこれを誘拐と思うだろうか。

「ワールドエンドさん、そう気を悪くしないでおくれ」

フードを被った男はひたすら頭を下げる。

「いきなりこんな事をして本当にすまないと思っているよ」

「折角彼に信じてもらえそうだったのに……とんだ邪魔者だよ……」

「僕もこんな場所で"世界の終わり"と出会えるなんて思ってもいなくてね。少し強引でも、こうして話してみたかったんだよ。後悔はしてない」

少女は退屈そうに机の上のお菓子を転がして遊ぶ。

「初対面の人にする挨拶じゃないですね」

「どうも手癖が悪くてね……欲しいと願ったものはなんでも手に入れたいと思ってしまうんだよ」

部屋の隅に飾ってあるのは、どれもこれも高額な品ばかりだった。

「……あなたも能力者なの?」

「まぁね、結構上手に使えるようになったんだよ、ホラ」

そう言って何もない場所から黒い塊を出現させて、更に大量のお菓子を出して見せた。

「空間転移系ね、移動する物体の質量制限は飛び抜けてそうだけど残念ね、貴方に用はないです」

無関心とソッポを向ける少女にも、男は気にしていないようだ。

「それで私に何の用ですか?」

「あ、あぁ!そうだ!そうだとも!」

男は初めて興奮したかのように、初めて感情を手に入れたかのように、目を見開いて話し出した。

「ワールドエンドなんて存在、僕は実際信じちゃいなかった!そんな話を聞いた時から疑っていたさ!だけど違う!実際こうして目の前にしてみると信じてみたくなる。君は一体なんなんだい?」

「私の事を誰から聞いたの?」

少女の顔からは、徐々に余裕が消えていた。

自分を知っている事への恐怖が抑えれないようだった。

「そんな事些細な事さ!僕は君を知りたい、なんで君がワールドエンドなんて呼ばれているのか?何故あの男が君を探していたのかを!知りたい!欲しい!あの男が欲しがる君が欲しい!!」

男はこれまでにもなく喜び喘ぐ。

少女は窓の外を眺めた。

どうやら近くに遊園地があるようだ、ゆっくりと回り続ける観覧車を見ながら。

「…………私は……」

少女は。


◆◇◆◇◆◇


「なんだ今の……?」

頭が痛い。

無理矢理よくわからない映像を見せられたような感覚だった。

時刻は深夜2時、横になってから30分も経っていない。


帰り道での出来事もあり、余計に疲れているのだろうか。

……帰り道?

夢と呼んでいいのかも怪しい夢を思い出す。

白い髪の少女がいた。

ワールドエンド、そう男は言っていた。

急に嫌な予感がした。

でも、何処にいるんだ?

少女の視界、映ったのは観覧車、街のシンボルになっている24時間回り続ける観覧車だった。

あの続きを、少女は何と言うのだろうか。

言いようのない確信を胸に、翔生は家を飛び出す。


目的の場所、樽宮遊園地へ着く。

夢で見た角度を頭の中でトレースする。

近場で、高くない建物、カーテンがなく、部屋の明かりは点いていて、とんでもなくメルヘン一色の……部屋。


「……本当にあった」

3階建ての建物の窓は一つだけ、薄いピンク光が灯る部屋だった。

階段を駆け上がり、インターホンを押す。

すぐに男の声がした。

「はい?」

こんな夜遅くにインターホンを押されて警戒している声。

「す、すみません!ちょっといいですか?」

咄嗟に上手い言い訳も出来るはずもなく、曖昧な訪ね方をしてしまった。

ここで扉を開けてもらえなかったらそれまでというのに。

「ちょっと待っててください。今開けます」

「は、はい!」

すぐに扉が開く。

フードを被った男が現れた。

男は翔生の顔を確認した瞬間、何かを思い出すように。

「!?お前!」

勢いよく扉を閉めようとした。

だが、その反応は想定してる範囲だ。

素早く足を扉に挟めて、閉めれないようにする。

「ちょっと中に入らせてもらいますよ!」

無理矢理に扉をじ開ける、腕力では勝っているようで思っていたより簡単に中に入ることが出来た。

男を押しのけ、リビングへと向かうと、そこには。

「あ、あなたは!やっぱり来てくれたんだね」

そこには、優雅に紅茶を飲む数時間前に出会った少女がいた。

「よくわからないけど、あれ見せたの君なんだろ?」

「うん、私が見せました。信じて来てくれるかは半信半疑だったんだけどね」

と悪戯に舌を出してウィンクされる。

………………可愛いじゃねぇか。

「どうして?」

「助けて欲しいと思ったから」

「知り合いじゃないのか?」

「全然、全く、これっぽっちも赤の他人」

赤の他人に、どうしたらこんな所に連れて来られるんだよ。

「とりあえず、此処から出るぞ」

「あ、うん」

少女は名残惜しそうに、ティーカップを机に置き、机の上のお菓子をワンピースのポケットの中へと仕舞った。

「えへへ」

微笑んでる場合か。

「おいおい、勝手に人の家上がりこんできて大切な客を横取りなんて勘弁してくれよ……」

夢で見たフードの男は、どうやら冷静さを取り戻しているようだった。

「詳しい事情は知らねぇけど、こいつは俺の客だったハズだろ」

「うるさいな……これだからガキは嫌いだ」

男の前に50cm程の黒い塊が出現した。

あまりにも現実離れした異質のものだった。

「なんだそれ……?」

「ん?あぁ、知ってる。知ってるぞ。その顔」

愉快なものを見つけたように、男は笑う。

「Chainと出逢うのは初めてかな?少年」

「Chain?」

「世界を繋ぐ者、異能を持つ者はそう呼ばれているそうだ。……たしかに怖い。僕だって他のChainと出会えば怖くなるさ。恥ずかしがることはない、あまりにも現実離れしていて初めて見る奴は皆、例外なくそういう顔をする」

黒い球体が何かを吐き出す。

男はその黒い塊が吐き出した鈍色に輝くものを取り出し近づいてくる。

「んーここら辺じゃこんなのしかないか」

出刃包丁を取り出して。

「まじかよ……」

馬鹿げている、なんでこんな事に巻き込まれているんだ?

昨日まで普通に過ごしていた、ただの高校生でしかない俺が何故こんな目にあってるんだ?

男は目の前で止まり、大きく振りかぶる。

汚れ一つのない包丁が目の前に迫って――――

「翔生!」

その声と同時に男の腰にタックルをして突き飛ばす。

「ぐっ!?」

「こっち!」

少女の声のする方へ態勢を立て直して走る。

無意識に手を取って

手を――――

手が触れた。

『■●※□#▲※□■●※□#▲■●※□』

思考が記号化する。

急に目頭が熱くなり、涙が止まらない。

頭痛は一瞬で、頭の中へ制御できない程の情報量が流れ込んでくる。

見たことのない風景、知らない人、学校で習った歴史。

その中に、白い髪の女の子がいた。

少女は一人。

いつも少女は一人で世界を見ていた。

誰かと居ても、誰かと見ても、結局彼女はこの風景を一人で眺めていた。


その姿を見て、救われないと思ってしまった。

不条理な世界を憎んでいた俺が。

救いたいと願ってしまった。



身体が熱い。

意識が戻り後ろを振り返ると、男は倒れたまま。

さっき男を突き飛ばしてから、全く時間が経っていないような気がした。

繋いだ手を離さないようにしっかり握り、翔生はピンク一色に染まる部屋を飛び出した。


「お前……」

「よろしくね、翔生。私はワールドエンド、貴方は世界を繋ぐ者」

何をそんなに満足なのか、謎の美少女は満面の笑みで俺の手を握った。

「それはもう聞いたよ……」

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