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ワールドエンドによろしく!  作者: 嘘月
狩猟者と優等生
14/15

ハンター

「ねぇねぇ、翔生ー聞いてる?」

今日の晩御飯は、ピザだった。

「あぁ、聞いてるよ」

目を輝かせて、アリシアはピザについて語りだす。

「ピザってのはね、大きな額なんて呼ばれてたりもするんだよ? 縁の部分は切り取って食べないのがナポリ流なの。歩きながら食べる時なんかは、二つに折ってソースがこぼれないように食べたり、イタリアなんかではナイフとフォークで食べたりするんだよ」

「ピザをナイフとフォークで食べてられないだろ」

「この国の人は変なの。ピザは一人一枚なのに違うし、かと言ってカレーは素手で食べないし、お寿司は手で食べちゃうし」

「まぁ、他国の文化を取り入れまくって出来た国みたいなもんだろ、俺が知った事じゃないけどな」

「あはは、間違いないね。 翔生に文句を言っても、こればっかりはどうしようもないね」

と一人で笑っているアリシアは今日も無駄足かも知れないのにお気楽な事だ。

「さっき食べたプルコギピッツァなんて斬新だよね、韓国料理とイタリアの伊韓折衷、今後数百年先まであの国がヨーロッパ諸国と仲良く皆に愛される事なんてないと思うね」

と、褒めているんだか、貶しているのだかわからない事を言う。

「今日は何処までお散歩?」

「あのなぁ……そんな悠長な事なんて言ってられないぞ、20人近くが殺されてるんだ。深夜徘徊してる俺たちはいつ殺されるかわからない状況なんだし」

「それで今日も港?」

ここの所毎日港まで出歩いてきてるからか、アリシアは少し退屈そうに聞いてきた。

「うーん……人気の無い所で事件が起こってない場所ってここが一番だと思うんだけどなぁ」

「そう言ってもう1週間経つけど……手掛かりらしい事もないし、場所を変えたほうがいいかもね」

「そうかもしれないな」

港に着いたが、いつも通り人一人見えない。

「今日も収穫なしだな」

諦めて、来た道を戻ろうと引き返す。

否、引き返そうとした時。

ソイツはいた。


「…………」


黒いコートに身を包み、不気味な仮面をつけて、自分の身長よりも長い棒を持って此方を見ていた。

「アリシア……下がってろ」

「う、うん」

此方を凝視しているようで、動こうともしない。

狩るに値するか見定めているのか、それとも何か事情があるのか、禾音の言った通り女なのかは判断出来ないが、薙刀を持つという点は一致している。

きっと、こいつは。

「お前が最近この街を騒がしてる通り魔か?」

「……」

狩猟者は答えない。

「あぁ、"ハンター"と言った方がいいか」

「フ」

その言葉に反応したのを見逃さなかった。

世間じゃ通り魔、能力者からは"ハンター"と呼ばれていると禾音は言っていた。

今、俺がその名を呼んだ意味を理解したのだろう。

ハンターが、薙刀の先端部分を低く前に突き出し腰を落とした。

距離は10m、禾音の言ってた通りに瞬間移動が出来るのならば、こんな距離は何の意味もない。

集中する。

今想像できうる、最速の姿。

実現不能な鋼の肉体。

体感重量は変わらないが、変化はハッキリと見えた。

翔生の足元のコンクリートはその重さに耐え切れないのか、ひび割れていた。

「そっちから来ないなら、こっちから行くぞ殺人鬼」

辺りは何の足場も障害物も無い平地、港と言っても海はまだ少し遠くこの場所で決め手となるのは純粋な戦闘能力なのだろう。

駆け出す、この1週間で能力の扱いにも随分と慣れたと思う、予想外の速度にか、焦って振るわれた薙刀は宙を斬る。

ハンターの足を目掛けて、右足で全力の足払いをする。


パンッ


「!?」

風を切るような轟音と共に、体重をかけていた左足の地面が多少崩れる。

その一瞬の隙から逃れたらしく、更に10m程後ろへハンターは下がっていた。

「やっぱりまだまだな」

いくら練習して、慣れていたとしても、やはり実戦経験というのは全くの別物だと自虐した。

ハンターも未知の相手に戸惑っているのか、安易に詰めてきたりはしない。

「次は失敗しないぞ、その仮面を剥がしてやる」

翔生は更に速度を上げて、ハンターへと向かった。


-視得みえ 遊撃手しょうと-


傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲。

この街は様々な感情が渦巻いている。

それらは人を殺し、人を生かし、人を騙して、人を簡単に溺れさせ、陥れる。

自身が絶対だとする傲慢。

他者から受ける嫉妬。

感情の制御を壊す憤怒。

諦めの怠惰。

全てに目が眩む強欲。

常軌を逸脱した味覚を楽しむ知識の暴食。

理性と相手の人権を壊す色欲。


そんな人間の姿を歌い続けていたい。

視得 遊撃手の夢は歌手であり、決して野球選手なんかではない。


父親の強い願い、否。

願いなんかではない、強い意志が働いている。

自分の成し得なかったプロ野球選手という夢を、強制的に息子に押し付けていた。

それしかお前にはないと、物心が付いた頃から言われていた。


結果的には、野球のセンスは圧倒的だった。

小学校、中学校は新聞にも乗る程の才能を存分に発揮して、世間の注目を集めていた。

きっと、野球は好きだった。

誰よりも愛していた、理想を。

何処までもやっていける気がしていたんだ。


母が死ぬまでは。


父親は野球しか見ていなかった。

野球しか愛していなかった。

家族の事なんて構わずに、息子の為だと野球を教え、妻の為だと息子を育て、息子の為だと野球を愛した。

経済的にも疎かになり、母は借金を作って俺を一流の選手へと育て上げようとする父親に見切りをつけて、一人でこの世を去ってしまった。


それでも父親は気にもしなかった。

そんな事はどうでもいいと言った。


いつからだろう、野球を嫌いになったのは。

いつからだろう、父親を殺したいと憎んだのは。

いつからだろう、母さんに会いたいと願いだしたのは。


最近の出来事のハズなのに、なんだか随分と曖昧になっちまったなぁ。

反抗するつもりで、髪を伸ばしてバンドなんか組んで、俺は何をするつもりだったんだろう。

あんな親父、早く殺しちまえば全部解決なのに。


「解決なんて……しねぇか……」


アイツを殺しても、母さんには会えない。


血だらけの自分の体を見て自虐的に呟く。

目の前にはどこかで見た気がする男がいた。

化け物みたいな速度で何処までも追ってくる知り合いなんていねぇけど。


「もう全部……メンドくせぇ……早く殺せよ」

「もっと、歌いたくはないのかい?」


あぁ、そうだ。

こいつは同じ学校の奴だ。

「あぁ……歌いたかった。何もかも忘れて、ただ歌いたかった」

まだ殺さないなら、最期にお前も一曲聞いてけよ、俺は地元じゃ有名なバンドのヴォーカルなんだよ。


「なぁ、石動ルイ」

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