第三章 無意識少女との邂逅
無意識なう
「…そうして、王子様と王女様は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
パチパチパチパチ。辺りから子供達の拍手と歓声が鳴り響いた。
今日、アリスは人里にやって来ていた。 寺子屋で教師をやっている慧音に、人形劇を生徒達に見せてやってほしいと頼まれて、今丁度終わったところである。
「すまないな、無理に頼んだりして」
片付けている最中に慧音が挨拶しに来た。
「別に問題ないわ、こういうの、嫌いじゃないし」
実際、演じている最中は昨日の事も忘れられて楽しかったし、家で独りきりよりもずっとましだった。
「それじゃあ、これで失礼するわ」
「ああ、よかったらまた宜しく頼む。子供たちもとても嬉しそうにしていたのでな」
「ええ、喜んで」
そうしてアリスは慧音と別れた。
アリスは歩いて家に帰ることにした。飛んだ方が早く着くのは明らかであったが、なんとなく、飛ぶ気にならなかったのだ。しかし、歩みを進めていくうちに、再び昨日の出来事が頭を過る。――余計な思考が、考えたくもない可能性が、次々と浮かんでいく。
魔理沙にとって、私はただの友人でしかないのか?
実は私以外の誰かと想い合っているのではないか?
しかしそれは単なる私の妄想でしかないのではないか?
そのような考えが堂々巡りの様に頭の中で繰り返された。くだらない。
「はぁ……あれ?」
長い時間思考を巡らせて、無意識で歩いていたせいか、我に返ると、見知らぬ道に出ていた。仕方ない、さっさと飛んで帰ろう。そう思った刹那。
「あらあら、そこのお姉ちゃん?こんな所で何してるの?」
「!?」
後ろから声をかけられた。反射的に振り返ったが誰もおらず、なんの気配もしなかった。――いや、いた。意識していないと、陽炎の様に揺れて消えてしまいそうな少女が。アリスの記憶の中に、そんな能力を持つ知り合いは一人しかいなかった。
「あんたは…、地霊殿の…」
「ん?私のこと知ってるの?」
地底の奥深くに存在する旧地獄の中心に建っている地霊殿。そこの主人である古明地さとりの妹、それが今アリスの目の前にいる古明地こいしである。無意識で行動しているため、彼女が現れることはめったにない。アリスは魔理沙に貸した人形を通して彼女のことを知ったため、こいしの方はアリスのことを知らない。
「ま、そんな事はどうでもいいや。私が興味あるのはあなたの無意識だもの」
「は…?」
「あなたが無意識に考えている事なんて、私にはお見通しなんだから」
こいしは覚の持つ器官、「第三の目」を閉ざしているため、心を読む事ができない。そのはずなのにまるですべて見透かしているような言い草である。
「私にはわかるよー?あなたが無意識のうちに思っている感情がー?」
「なん…なのよ…」
こいしの怪しげな雰囲気に、アリスは後ずさりした。それに構わず、こいしは続けた。
「あなたの無意識には、ものすごく黒い感情が渦巻いてるわ。嫉妬、憤怒、孤独、愛欲。それを自我に教えてあげたいの!」
「け…、結構よ…。それしか用事がないなら、私もう帰るわ…」
「だ~め」
「な…!?」
彼女を無視して帰ろうと、振り返ると、何故かすでにこいしが回り込んでいた。
「貴女は興味なくても、私はすご~く気になるの、まるで誕生日にもらったプレゼントの箱のように、一体中に何が入っているのか?」
「も、もうやめて!!」
アリスは、こいしの言っている事を聞いていると、おかしくなってしまいそうな気がして耳をふさいだ。しかし彼女の声は直接頭の中に語りかけてくる様に鮮明に聞こえた。
「あ、そうだ!自我に無意識のお話を聞かせてあげるわ!」
「な、何をする気…?」
「こうよ!!」
本能「イドの解放」
「あ――――」
アリスの意識は奥深くまで落ちて行った。
こいしちゃんかわいいよこいしちゃん