第四章 嵐の前の静けさ
そして現在、パチュリーが魔法を使う少し前。
「よぉアリス。人形は出来たか?」
玄関が大きな音を立てながら開き、魔理沙がリビングで遅めの朝食を食べている私のところへとやって来た。あまりに突然だったので、驚いてパンが喉に詰まりかけた。危ない危ない……。
「……っと。いくらなんでも気が早過ぎない?」
「あれ? 三日って言わなかったか?」
「言ってないわよ」
自分で言ったかどうかくらい覚えていられないのか。そもそも三日で人形を、それもオーダーメイドのものを二つ作れというのは、少々酷な依頼だと思う。まぁ、そんなこと気にしないのが彼女なのだが。
「う~ん、今日渡そうと思ったんだがなぁ~」
「今日じゃないといけないの?」
「今日が誕生日だからな。言わなかったっけ?」
だから言ってないってば。これでも魔理沙よりは記憶力がいいとは思ってる。いや、記憶力というよりは、発言に対する責任感だろうか。……まあいい。
「仕方ないわね、あと二時間くらいで完成するから待ってなさい」
「おお! 本当か⁉ 結構出来上がってたのか?」
「まぁ暇だったしね」
私、友達少ないし――と言いかけた。危ない危ない。
「それじゃ、紅茶でも飲んでくつろぎながら待ってるぜ」
と言って魔理沙はスキップしながらキッチンに向かった。
「…家主の許可をとるつもりはないのかしらね?」
――2時間後。
「はい、出来たわよ」
「おお!いい出来じゃないか!」
魔理沙に人形を手渡す。金髪で白黒の服の魔女と紅い服の吸血鬼。我ながらいい出来だ。
もう少し早く完成すると思っていたが魔理沙と話しながら作っていたせいで余計に時間がかかってしまった。それでも、三日でこれほどのクオリティのものを作れるのは、さすが私。
それにしても…、人の家の紅茶を何杯も勝手に飲むのはどうかと思うのだが。しかもよりによって高いやつ。おまけに、大事にとっておいたマカロンまで食べてしまった。
「ありがとうなアリス、それじゃあな!」
「待ちなさい」
「うわっ」
人形を帽子の中に仕舞って、そそくさと出て行こうとする魔理沙の服を掴んで引き止めた。ただで帰すわけにはいかない。
「感謝する気があるなら片付けぐらいしていきなさい」
「いや、その、フランとの約束の時間、過ぎちゃっててさぁ」
「どのくらいよ?」
「そ……、その……、さ、3時間程……」
「……は?」
呆れた。私の家に着いた時点で、1時間遅れている。どうしてここまでルーズなのだろうか。
「ああもう、いいわよ。早く行きなさいな。」
「す……、すまない! 礼はいつかちゃんとするぜ!」
と言って、紅魔館に向かって大急ぎで飛んでいった。3時間も遅れたのだから、きっと図書館の魔女が相手でもしているのだろう。さずかに同情する。私なら身体がもたないだろう。いろんな意味で。
さてと、人形作りも終わったし、天気もいいことだから、外でゆっくりとお茶でもしようかしらね……。