第三章 頼み事
3日前、アリスの家。
「……で? あんたの用件は結局なんなのよ?」
この家の主である私、アリスは、目の前で呑気に紅茶を飲んでいる白黒の魔女、魔理沙にそう尋ねた。
「ん? ……ああ! 忘れてたぜ」
やれやれ。いきなり押しかけて来たくせに用件を忘れるとは。まぁ、いつもの事だが。私は呆れつつ紅茶を口元に運んだ。うん、今日の紅茶は上手くいったわね。少し気分が良くなった。
「お前に頼み事があったんだ」
「……なによ?」
これまた厄介な。こいつが言う「頼み事」はろくなものがない。前に人形を貸してくれと言われたので、渋々渡したら粉々の残骸が返ってきた。さすがの私も、あれには本気で怒った。自分が丹精込めて作り上げた、言うならば娘なのだ。自分の子が壊されて気分が良くなる者なんていないだろう。
では何故、未だに私は彼女との交際――当たり前だが恋愛関係ではない――を続けているのか? 答えは単純、私は友人関係が狭いのだ。魔理沙との関係が途切れたら、他の友人達との縁も消える。……断じて私は友達が少ない、というわけではない。
「人形を作ってほしいんだ」
「人形を……?」
また爆破するつもりなんじゃないのかしら。前科があるだけにとてつもなく怪しく感じ、鋭い目つきで睨みつけてやった。しかし彼女は全く動じず、相変わらずの表情だった。……なんだか阿呆らしい。
「どんなやつ?」
「私とフランの見た目をしたので頼む」
「べつにかまわないけれど……。なんで?」
自分の姿をした人形を爆破? 自殺願望でもあるのだろうか。だとしたら大問題だ。
「いや……、あいつあんまり紅魔館から出られないだろ? それで少しでも暇つぶしにでもなるように、誕生日プレゼントにでもしようと思ってさ」
「へぇ、一応他人に気を使うこともできるみたいね。ぜひ私の苦労も労ってほしいものだわ」
「そ、そのうちな!!」
「期待しないで待ってるわ」
ちょっとだけ皮肉を言ってみたくなることもある。おかげで魔理沙は苦笑い。いい気味だ。
それにしても、誕生日プレゼントか……、そういうことならやってあげてもいいかもしれない。一人ぼっちは寂しいだろうしね。私にはよくわかる。
「ま、そういった内容ならやってあげるわよ」
「本当か!? それじゃ、よろしく頼むぜ! じゃあな!」
「あ、ちょっと!?」
私が了承したとたん、さっさと箒にまたがって飛んで行ってしまった。その様子を、私は茫然見ているしかなかった。
「まったく…、片付けぐらいしていきなさいよ…」
彼女が飛び去った方向を見ながら、大きくため息をついた。