第二章 回想
フランドールは、灯り一つ無い真っ暗な自分の部屋にいた。脚を抱える様にした姿勢で、独り項垂れている。彼女の瞳は涙で濡れ、溢れた滴は頬に筋を作った。
――嘘つき。かすれた声でそう呟く。
パチュリーには何も見えなかったと言ったが、実際には見えていた。嫌というくらい鮮明に。自分との約束を忘れて、とても楽しそうに談笑する想い人と人形遣いの姿が。
「どうして……? 何で……?」
疑問を唱えても、答えてくれる人なんてそばにはいない。行き先を失った言葉達が暗闇へと消えていくだけ。それを何度繰り返しても、勿論意味などなく、余計に気分を落ち込ませるだけだった。
どうして彼女は私の約束を忘れてしまったのだろう。――ああ、なんだ。答えは単純じゃないか。あの人形遣いが悪いのだ。あいつがマリサを奪ったのだ。そうとわかれば話は早い。あの人形遣いがいなくなってしまえばいいのだ。ああ、そうすればマリサは私のものになる。マリサは私だけを見てくれる。それはどれほど幸せな事だろう。
傍から見れば妄想としか言えないその結論も、フランドールを突き動かすには十分すぎた。
レミリアと咲夜は神社に出掛けており、パチュリーは寝てしまった。館を抜け出すのはその気になれば簡単にできる。
「ふっ…、ふふ…。あはははははははははははははははははははははははははははははぁ!!」
フランドールは笑いながら部屋の窓を思いっきり突き破って、館を飛び出していった……。