第五章 告白
今回はちょっと書き方を変えてみました。
ご意見ご感想お待ちしてます。
「ん……」
アリスの意識は現実へと戻って来たが、身体は重く、頭痛もした。空はまだ明るく、さほど時間は経っていないようだったが、すでにこいしの姿はない。
「結局、何がしたかったのかしら、あいつは……」
アリスを無意識の世界に落とし、それで満足して帰ったのだろうか。そもそも何故こんな事をする必要があったのだろうか。彼女の考えは誰にもわからない。
「……帰ろう」
早く人形作りを再開しないと。そして渡す時に――。
「よし、完成……」
こいしと会ってから二日後、アリスは人形を完成させた。魔理沙とフラン、二人の姿をした人形――正確にはぬいぐるみだが――を改めて見つめてみると、仲睦まじい二人の姿が浮かんできてしまった。
「私の思い違いよ、きっと……」
そう思い込み、願うことしか彼女にはできない。彼女の表情は、再び暗くなった。
「あっ」
人形作りにかまけて、肝心な事を忘れていた。告白する時になんと言うか考えていない。
「え、えっと、どうしよ。どういうふうに告白すればいいんだろう……」
アリスは少しパニックになった。先程までは魔理沙が待ち遠しくてしょうがなかったのに、今度はできるだけ遅くなってほしいと思っている。
「やっぱり、まずは『好き』って事を……」
「よ、アリス」
「ひゃうん!?」
思いがけない出来事にアリスは大いに驚き、つい変な声が出てしまった。いつの間にか魔理沙が自室に入りこんでいのだ。アリスはまさに開いた口が塞がらないという状態だった。
「いいいいいいつからいたの魔理沙!? というかどうやって入った!?」
「んにゃ、今ちょうど来たところだよ。鍵が掛かってなかったから部屋にいると思ってな」
「そ、そう……」
ただでさえ告白の言葉を考えていなくて動揺していたのに、想定外のタイミングで魔理沙がやって来た事で、頭が真っ白になっていく。もう何が何だか分からない。
「ところで今日までに頼んでた人形はできたのか?」
「……ええ」
アリスとしては、真っ先に人形の事を話題に出されるのは、あまり気分がいいものではない。まるでフランの事が、魔理沙にとっての最優先事項のように感じるからだ。――やっぱり私の事よりも……。そんな疑念の真偽も、もうすぐわかる。
「へー、かなりいい出来じゃないか」
魔理沙は二つの人形を眺めながら言った。どうやらかなり気に入ったようで、目を子供の様に輝かせている。一方アリスはそんな彼女の様子を、浮かない顔で見ていた。
「いやー、まさか今日までに頼むってのを言い忘れてたとはな。でも完成してて安心したぜ。ありがとな、アリス」
「……どういたしまして」
彼女はアリスに向かって快活な笑みで礼を言ったが、当の本人は、平静を装いつつも、複雑な感情の狭間で揺れ動いているのであった。そのせいか、さっきから動悸が早い。
「それじゃ、そろそろ行くぜ」
「え、もう!?」
「ああ」
魔理沙は帽子の中に人形を仕舞い、紅魔館へ向かう準備を始めた。アリスの焦りは絶頂に至ろうとしている。このままじゃ――。
「ま、待って!!」
「ひゃっ」
出て行こうとする魔理沙の腕を掴み、無理矢理引き止めた。辺りの空気に、一気に緊張がはしったのがわかった。心臓の音が、先程よりもうるさい。そのうち破裂してしまうのではないかと錯覚するほど、暴れ狂う様に頭の中で響いている。
「どうしたってんだ、アリス?」
「えっと……、その……」
「用がないなら離してくれ。痛いぜ……」
勢いでやってしまったため、ただでさえまとまっていない言の葉が、全て散ってしまった。
しかし、アリスには今を逃したらもう二度と想いを伝えられない気がしていた。それならいっそ、勢いに任せてしまえ。
「ま、魔理沙!!」
「うお、どうしたんだ、改まって」
「あ、貴女にい、い、言いたい事があるの」
興奮と不安が入り交じり、息が詰まる。ちょっと話すのにも突っ掛かり、歯切れも悪い。
「本の事か? それなら今度……」
「そんなんじゃない!!」
つい声を荒げてしまった。魔理沙は随分驚いたようで、目を丸くしている。
慌てて取り繕うとしたが、言ってしまった事はもうどうしようもない。なので、気にせず言葉を続けるしかないのだ。
「えっと……、私が言いたいのは……、その……、私自身の気持ちの事で……」
「気持ち?」
ここまで言ったら普通気付きそうなものなのに……。アリスは彼女の鈍感さが恨めしかった。だが、自分の思いを伝える覚悟はできた。
「わ、私は!! ま、ま、魔理沙の事が!!」
「す、す、す、好き……、です……」
途切れ途切れになりつつ、しかも俯きながらだが、アリスは自分の想いを、シンプルな言葉で魔理沙に伝えた。言い終えた途端、体温が一気に上がったように感じた。きっと鏡で自分の顔を見てみたら、りんごのように紅くなっているだろう。
魔理沙の反応を見ようと、彼女の顔に視線の戻すと、全く状況が読みこめていないようで、まさに目が点、といった状態だった。
「ア、アリス……? 何言ってるんだお前……?」
「だ、だからっ!! 私はあんたの事が好きだって言ってんの!! 会うたびに可愛くてしょうがなかったし、いつも見せる笑顔は愛おしかったし、よく家に来てくれるのもすっごく嬉しかった!! そんなあなたが大好きです付き合って下さいっ!!」
勇気を振り絞って言うことができた告白をうまく理解してもらえなかった事に躍起になり、今まで感じていたことをすべて洗い浚いぶちまけた。すべて言い終えると息も絶え絶えになっていた。
「それで、その……、答え、欲しいんだけど……」
改めて見ると、魔理沙の顔も少し赤かった。
「え、あ、その……」
「……ごめん」
その言葉を聞いた瞬間、胸が張り裂けそうになった。
「えっと、す、好いてくれるのは凄く嬉しいんだけど、その……、恋愛は……」
「どうして……、ねえ!! どうして!?」
「い、痛い……、離してくれ……」
彼女を掴む手にも、つい力が入ってしまう。いつの間にか、涙が溢れ出ていた。
「なんで……?」
アリスはただただ訳を訊き続けた。
「なんでなの……?」
「だ、だって、私たち女だぜ!? 女の子同士で付き合うなんておかしいじゃないか!!」
理由を聞いてショックを受けた。時々、アリス自身も思うことがあった。自分と同じく女である魔理沙に恋するなんて変だと。しかしその常識よりも、彼女への想いの方が強かった。彼女もそんなこと気にせずに自分の事を愛してくれると思い込んでいた。だが、現実はそうも甘くない。アリスは糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。
「……悪いけど、私はもう行くぜ。フランが待ってるんでな」
魔理沙は力の抜けたアリスの腕を振り切り、急ぎ足で部屋を出ていく。
「ごめんな……」
ドアが閉まる直前に、もう一度だけそう言った。
厨二と厨三の時に振られた私が通りますよ。