第一章 憂鬱な日
「退屈だ」
朝食の後、図書館で優雅に本を読んでいた私のそばで、絵本を見ていたフランが唐突に呟いた。しかし、私は面倒な事に巻き込まれるのは勘弁してほしかったので、無視して本を読み続けた。
「退屈だ退屈だ退屈だぁ~~!」
呟くどころか思い切り騒ぎ始めた。いい加減五月蝿い。これじゃあ読書に集中できないじゃないか。
「ちょっとフラン、静かにしてくれない?」
「たいくつだぁー! 暇だぁー! つまんないー!」
私の注意も彼女は聞くつもりが無いらしい。やれやれ。これだから妹様は……。 いつもの事ながら呆れてしまう。
このまま騒がれるのも嫌なので仕方なく話を聞いてみることにした。
「どうしたっていうのよフラン。さっきから何で騒いでいるのよ?」
「………」
いきなり黙ってしまった。何時もなら「お姉様がいないー!」だとか「うちにいるの飽きたー!」とか喚くのだが、珍しく口をつぐんでしまった。はて、どうしたのだろうか?
「どうしたのか言ってくれないと解決しようにも何も出来ないのだけど?」
わからない事は知りたくなってしまうのが私の性分だ。なのでもう一度尋ねてみた。
「……マリサが来ないの」
「……はぁ」
消え入りそうな声で返ってきた答えに、私は呆れた。やれやれ、あの白黒の事か。私は思わず溜息が出てしまった。いつもいきなりやって来ては、館を荒らしたり、私の大切な図書館の本を「借りてくぜ!」とか言って勝手に盗っていくような奴である。一体どのくらいの被害を受けただろうか。思い出すだけで憂鬱になる。
しかしこの娘はあの迷惑な魔女――正確には人間だが――に恋愛感情を抱いているらしい。(私には理解できないが)
会う約束をして待っているのに、魔理沙はなかなかやって来ない。その寂しさを誤魔化そうとしたのが騒いだ原因だろう。傍迷惑な事だ。
「今日も来るって言ってたのに……」
フランは泣きそうになってしまった。また癇癪を起されるのも面倒ね。
「……彼女が何をしているか見る事ならできるけど?」
「本当!?」
これくらいしか良い方法が思いつかない。でも暴れまわるフランを宥めるのと比べたらどれだけマシだろうか。私はこぁ――小悪魔の事よ――に水晶玉を取ってくるように言った。
準備はものの数分で終わった。水晶玉さえあればできる魔法なので、式を書いたりする必要はない。
「彼女の事を思い浮かべながら水晶玉を見つめるのよ」
「うん!」
「それじゃあ……」
集中力を高める。意外と疲れる魔法なのだが図書館で騒がれるよりは遥かにマシだ。
「………?」
フランの事だから多少騒ぐと思っていたのだが、無言である。…それどころか無表情だ。一体どうしたのだろうか?
私には彼女には何が見えているのかわからない。
「どうしたのよ?何が見えたって言うのよ?」
魔法の発動を終えた後、フランに尋ねてみた。しかし、「何も見えなかった」の一点張りで、そそくさと自分の部屋に戻ってしまった。
魔法の式に間違いでもあったのだろうか? 正直納得いかないが静かになったので良しとする。
さて、久しぶりに魔力を結構使ったので疲れてしまったし、暇なので始めてみた書き物も思ったよりも面白くなかった。(もうやらない)
そんなわけでもう寝ることにする。おやすみなさい。といっても今は真昼なんだけど。
パチュリー・ノーレッジ
※追記
勝手にこれを読んでいる奴。とっとと元の場所に戻して、メイドに見つかる前に帰ることをお勧めするわよ?