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青葉若葉  作者: 咲月
2/3

春・麗らかな日々 二

前回同様

 「だったらそんな思わせぶりな行動ばかり取ってるなよ、勘違いするなってほうが難しい」

 二人の考えとして普通に喧嘩しているように思っているのだが先述の通り第三者から見れば痴話喧嘩状態なので普通に付き合っているとばかり思っていた担任の教員は、酷く冷たい二人の視線に少しだけ怯む。

 誰でもそうなるだろう、それほどわかりやすく二人の間には絶対零度の空気が漂っていた。

 「まぁ……二人で決めてくれ」

 このあとの進行役も頼むから、という言葉を発して教壇から離れる。言われた二人は少しだけ見つめ合い……失礼、睨み合いアイコンタクトを交わす。

 「よし、俺が委員長を勤めよう」

 少し沈んだ言葉で宣言した少年は面倒臭そうに教壇に乗る、その後ろを少女がピッタリとくっついていつ暴れないか監視している状況だ。

 「それでは他の委員会、もしくは係を決めたいと思います」

 ここでは一応敬語を使っておくあたり引き際を弁えている、こういう所が少年の底無しさを感じさせるのだろう。

 「進藤、書いていってくれ」

 「分かってるわよいちいち言うな」

 極力面倒臭い仕事は立候補で、簡単な仕事は推薦という形を取ってスムーズに進ませた。終わるまで二人の喧嘩は三回ほど起こりそうになったけど。

 「はぁ〜面倒臭いな全く、どうしてクラス委員長なんて受けたんだろう」

 「過ぎたことをダラダラとうるさいわね、それでも男なの?」

 「そんな恰好で俺に悪態をついて良いのか? その気になれば落とすことだって出来るんだがな」

 「ふーんそう、咲月は人の弱みを狙っていたぶるような趣味が合ったんですね、そうですね!!」

 少女の怒号が少年の耳の中に響く、現在おぶられている少女は少年の背におぶられて保健室まで行こうとしている。

 それもこれも今から十分前に階段で喧嘩になりそうな所どうしてか足を滑らした少女を護ろうと少年が動いたのだが、グキリと右足首を捻挫してしまったわけだ。

 勿論少年が下敷きにならなければもっと酷かったのかもしれないけど。

 「っていうか冬河がいつもいつもちょっかい出して来るからいけないんだろう? 俺は静かに生活したいってのに」

 にしては行動が派手な気もするけれどそこはどう弁解するのだろうか、ちょっぴり気になるけれど追求する術が無いので傍観するだけ。

 「だったらあたしの喧嘩を買わずに流していけば良いでしょ? それを律儀に受けるんだからあたしだって毎回喧嘩したくなるよ」

 まぁここまでの話を総合して考えると少年はとても寂しがりだということが伺える、本人は必ず否定するだろうけど傍観している私やいつも隣に居る少女は必ず気付くだろう。

 「もういいから口閉じてろ、舌噛むぞ」

 普通の女子高生を一人背中におぶった状態でも少年は息一つ乱さずに階段を降りていく。人並み以上に体力はあるのだが使うつもりが無いのでその身体能力を引き出せるのは体育の授業くらい、宝の持ち腐れとなっているけれど本人は動きたくないので良いのだろう。

 まぁこんな状況を見たらまた誤解されるのだがそのあたりどう考えて居るんだろうか、しかも彼氏に見られたら少女はほとほと困るはずなのに。

 「……痛むか? 右足」

 「濡れたハンカチが心地好い」

 「そっか」

 二人は少しだけ言葉を交わしてまた黙り込む、少女の右足には少年が普段使っている青色のハンカチが半分濡れた状態で巻かれている。

 「保健室に届けたら俺帰るからな、帰るときになったら彼氏にでも頼め」

 少年は極々普通のイントネーションで、普段と変わらぬ空気でその言葉を発する。

 そう言われた少女はため息をこっそりと吐いてそうだねと返答した。

 少し怪訝な顔つきをしたけれど少年は深く考えないでそのまま保健室の扉を開ける。

 「まいどー、誰か居ますかー?」

 と一応声をかけたけど少年の声に応じる声は一つも無い。

 「誰も居ないみたいだね、取り合えずベッドか椅子にでも下ろして」

 少年は深いため息を吐いてベッドへ歩いていく、ほんの数歩進めばつく距離だから特になにも考えずにベッドへ進む。

 取り合えず少女を降ろしてから薬品棚等を物色して湿布と固定用の包帯を見つけた。

 「足出せ、応急処置の続きだ」

 内心ではなんでこんなことやってるんだろうと散々疑問を浮かべてはスルーしてきた少年だけど、今は真面目に考えている。この処置が終われば即座にその思考も途絶えること間違いないが。

 手際よく湿布を適度な形に切り、貼り付けて器用に包帯で固定していく。男なのにどうしてここまで手際が良いのだろうかと少女は考えるけどただ自分が不器用なのかもしれないと思うと少し沈んだ。

 「これで数日は問題無い、だけど今日の帰り道でも良いから病院には行けよ」

 そう言って今度は完全に帰っていく、決して振り返らずにまっすぐ歩いて保健室を後にした。

 「彼氏か……あんな関係を恋人って呼ぶのかどうか甚だ疑問だけどね」

 少女の独白はたった独りの保健室に響き渡る。




 「鍵何処にやったっけ?」

 自分の制服にある全てのポケットをバタバタと忙しなく裏返していく。いつ頃落としたのか、目星なんて一つしかないだろう。そう思って校舎の中へ進んでいく。

 携帯を弄りながら落下した階段へ向かって歩いている少年は、自分もあそこで湿布を貼り付けておくべきだったと少々後悔していた。

 なぜならあの時背中を打ち付けたせいで非常に痛いからだ。

 ジリジリとした異様な痛みと熱を抱えながらそれでも普通に歩いていく少年の額には少しだけ汗が浮かんでいる、少女が居なくなったことで無理をする必要が無くなったのだろう。その表情には少しだけ辛さが滲み出ている。

 肩を回しどこかに異常は無いかと探ってみるが何処にもないことを確認するとようやく一心地着いたかのようにため息を吐き出す。

 「取り合えず、あいつに背負わせるようなことはなさそうだな」

 平然とした表情でつぶやく少年の声を聞き届ける者は、誰も居ないはずだった。だからこそ少年も完全に柔らかい空気を出したのだと思う。

 しかしその言葉を聞いているものは一人だけ居る、そこには居ないはずの人物が少年の方を向いて『面白い』という表情を浮かべた。

 少年より背は高く、学年も違う人物だ。




 「……帰ろ」

 保健室で取り合えず痛みが引くまで時間を潰していた少女だが、次第に少しくらいなら歩けるだろうと判断した所まで休み、一人で帰ろうとしていた。

 この状況を見たらおそらく少年は怒るだろう、それほど仲が良くないのにそこまで心配するのはおかしいかもしれないけど。そんな関係を保っているのがこの二人には一番良いのかもしれない。

 勿論少女は言われた通り彼氏にメールした、しかし返信はただ一言『甘えるな』だけだ、この状況で次に誰を頼れば良いのだろうと誰もが思うけど少女は当然のように一人で帰ることを即座に決めた。

 「よいしょっ!! −−−年寄りかあたしは」

 自分でツッコむほど悲しいことはない、それを自覚したのか少しだけ自嘲するように笑いながら保健室を出ていく。



 少女は誰かに助けを求められないタイプだ、それは少年もまた同じ。しかしどうしてかお互いには平然と助けを求められる、それはただの喧嘩友達にしては信頼しすぎているようにも思えてしまうけど二人はその事実に気付いているのだろうか。

 出ていってほんの少しだけ歩いた時、向かいから少年が歩いてきた。というより走っている、その形相はなんとも言い表しにくいっていか既に無表情。

 「さっ咲月、どうしたの戻ってきて?」

 声は届いているはずなのに少年はなにも言わない、ただ無表情のまま少女の元へと歩いていくだけ。

 そうしてすれ違う間際に、少女の手首を掴み瞬時に背中におぶる。

 「ちょっと来い」

 冷たくて温かみを全く持たないように思わせながらその内心の更に奥では少女のことしか考えていない。

 「いや待って咲月、あたしもう帰りたいんだけ「うるさい」……ど……」

 有無を言わさぬ物言いで保健室へ(言い方はいかがわしいけど)連れ込み再びベッドへ座らせる。いや、今回は強引にやった所があるからベッドに押し込むという表現が正しい。

 少年は上着の学ランと下に着ていたワイシャツを脱いで湿布を何枚か背中に直接貼り付けた。

 少年は見えていないけどその背中には痛々しい青痣がいくつか出来ていた。

 「えっと……咲月? あたしをどうするつもり?」

 「この状況になってまで分からないならお前はただの馬鹿だぞ」

 「分かってるけどあんたじゃ絶対しそうに無いから酷く困惑してるんじゃないの!! どうしたの咲月!? 頭打った?」

 「−−−−何を言ってるんだ? こんなこと俺は良くするけど」

 「良くするって!!」

 顔を真っ赤に染めながら文句を言おうとしているが適切な言葉が浮かんで来ないのか口をパクパク動かしているだけで何も発言しない。

 「俺は説教なら何度もしてるんだけど?」

 「ちょっと待って心の準備が出来てないっていかあたしたち付き合っているわけじゃないし……何だと?」

 「お前は何を想像しているんだ淫乱」

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