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VOICE ~唄声~  作者: 溝川 里澄
1章~始まりの唄~
2/5

不運な朝

「ん……。まっぶしぃ……」



 少しひんやりした空気と共に目の前に昇ってきた太陽が、乱暴に俺を起こした



《またあの夢か……》



 近頃10年前の夢をよく見るようになった。あの悪夢のような日の夢を……。



「目覚め悪ぃ・・・」



 雑念を払うように頭を左右に振り、朝靄あさもやのかかった森を見つめる

東を向いて伸びているこの枝の上が、俺の家となっていた



《腹減ったな……朝飯探しに行くか》



 いつもの空腹感を感じ、いつものように木から降りて、いつものように食事を探しに行こうと地に足をつけたとたん、背後に人の気配を感じた



《誰かいる……。数は……2人》



 生憎、俺は寝起きに戦うような奴ではないので、気配を消してそっとその場から立ち去ろうと、足音を忍ばせて後ずさりした



「何処へ行く」



 と、ふいに後ろから低い声が聞こえた

慌てて振り向くと、そこには背の高い……170はありそうな黒服の男が立っていた



《今日は運がないな……》



 どうやら先ほど殺気を放っていた奴ももう真後ろまで来ているらしい

俺は動きを止めた。構えも崩した。朝から戦うのは面倒だ



「何の用だ。朝から戦う気など、俺にはないが」



 殺気だけは絶えず放つようにして、目の前にいる男に話しかける



「自分女の子なんやから、私とか言いや。可愛いないなぁ」



 俺の後ろにいる、先ほど茂みから殺気を放っていたと思しき奴が話しかけてくるが、完全無視を決めた



「そんなことよりジン。君の言っていた子はこの子??」



 今度はおれの右隣にいる奴が、ジンと呼ばれた黒服の男に問うた



「さぁな。名前を聞かないことには、判断はできん」



 どうやら俺のことを指しているらしいが、こいつらに名前を教える気などさらさらない

面倒な奴等に囲まれた……と思い、自然とため息が出る



「何の用だと聞いたのだが、答える気はないのか??」



 俺の周りを取り囲む3人の男たちに声をかけてみる

すると、先ほどジンと呼ばれた奴が口を開いた



「俺たちは人を探してる。だがちょいと厄介でな。女であるということと、歳と名前しかわからない」



 だからなんだというような目つきで睨んでやると、俺の後ろに居た奴がジンと呼ばれる男と並んだ

俺の後ろに居たやつは、ジンと呼ばれた男よりも多少目つきはよかった。綺麗な茶色の瞳にオレンジの髪、赤い服にチェーンのついた黒いズボン、そしてネックレス……。俗に言う「チャラい」格好をしていた

それに対してジンと呼ばれた男は、黒い瞳に黒い髪、黒い服に黒いズボン、三連のピアスといった、明らかに怪しい黒ずくめの格好だった



「おぉ怖い顔しとるなぁ。ほんま可愛いないわ」



 しかしオレンジの髪の男は「そんなことはどうでもいい」と、軽くあしらわれた



「それでだ。お前の歳と名前を教えてもらおうか」



《……前でも述べているように、俺はこいつらに名前を教える気などさらさらない》

 


 が、面白そうなので遊んでやることにした。それに何より、俺がこいつらの探している奴ではないという、どこから沸いてくるか分からない、当てにならないような自信があったからだ



「他人の名前を聞く前に自分から名乗れ。それが礼儀というやつだろう??ついでに歳もだ」



 俺には時間がある。こいつらと遊んでやるのも悪くはないという思いが頭の中でうごめ



「ああ、そうだな。俺はジェス。ジェス・シェイディ、18だ」



 この男がジンと呼ばれていたのは、ジェスという名からきているセカンドネームだった



「俺も名乗ったほうがええんか??」



 ジェスと並んでいた男もどうやら名乗ってくれるらしい



「そうだな……、できることなら全員名乗ってほしい」



 と言いながら、俺の右隣に居た男にも視線を投げる



「俺も??……しかたないなぁ」



《俺も一応名乗るか……。礼儀だなんだ言っておいて、自分はなのらないというのはどうかと思う》



「俺はレイン。レイン・サンセットや。17、よろしゅう」



《レイン・サンセット??晴れなのか雨なのかどちらかにしろ……》



「俺はウォレス。姓はない。19歳、よろしく」



《今の時代、名をいじることくらい簡単か》



「じゃぁ、お前も名乗ってくれ。歳もな」



 結局はこうなる。

言う気はさらさらないとか言っておきながら、自分で名乗る方向へと仕向けてしまった……。



「俺はキユウ・クラウディ。14……だな」



《あぁ………結局名乗ってしまった》



「キユウ?!……14で、女だよな??自分」



 失礼な奴だ……。と俺は思った



《確かに一人称は俺だが見た目は女に見えないのか??髪……長いぞ、俺》



 腰まで伸びた白殺しろころし色の髪をいじって考える



「ジン、確か君言ってたよね??女の子で14歳、名前はキユウ」



《俺のこと……??》



 あの頼りない自信はやっぱりダメだったんだな……。名乗ってしまった以上は話を聞かないわけにはいかない……と思う



「あぁ……。でも、もうひとつ判断できるところがある。キユウ……と言ったな。こんなことを聞くのはよくないとは思うが、「殺し屋」とか「化け物」と呼ばれたことはないか??」



「っ……」



 一番聞かれたくないことを聞かれて、先ほどしまった殺気をもう一度放つ



「殺気しまってくれないかな??キユウ・クラウディ。俺たちは、君がそう呼ばれていたからと言ってどうこうはしないよ。俺たちが探している子なのかどうかを突き止めたいだけだから」



 半分確信に満ちたような声音で、ウォレスは呟いた



《だからなんだ。俺の一生の中で、最大の汚点とも言えるその呼び名を簡単に呼ぶな》



 しかし俺は、こいつらは本当のことを知らないだけだ。と自分に言い聞かせ、沸いてくる怒りと憎しみを静めようとした

こいつらは俺のことなど何も知らない。そう言い聞かせ、そっと口を開いた



「すまない、ウォレス。俺は短気でな。で、ジェスと言ったな。俺は確かにそう呼ばれているが、それがどうしたと言う」



「こいつや……」



 レインがそっと放ったその言葉を俺は聞き逃さなかった。信じたくなかったからなのだろうか



「レイン……だったか。「こいつだ」というのは、どういうことだ……?」



《もしこいつらの探している奴とやらが俺だったら……?》



 そんな疑問が頭に浮かぶ



《ありえない。絶対にありえない。俺は誰かに必要とされるような人材じゃない》



 自分を落ち着かせるかのように暗示をかける。雑念とともに振り払ってしまいたいほどの感情が表にでないように



「それについては俺から説明する。まず結論から言おう。俺たちが探している奴というのはキユウ、お前だ」



 ジェスの一言に、先ほどあった「お目当ての人間は自分じゃない」というどこから沸いてくるか分からない自信は呆気なく崩れた



「そして、君は俺たちと一緒に来てほしい。まだ探している子がいるんだけど、その子達は君にしか探せないんだ。俺たちじゃ居場所が分かんないから」



 ウォレスの一言から俺は悟った。どうやらくだらない人探しに付き合わされるらしい……と



「悪いが断る。ほかを当たってくれ」



 告げて俺はその場を去ろうとした



 すると、まるで振り出しに戻ったかのようにジェスが立ちふさがった。いや、ジェスだけじゃない。レインもウォレスもだった

通せんぼでもするかのように殺気を放って立ちふさがる3人を見て、俺はひとつ、大きなため息をついた



「分かったよ。話くらいなら聞いてやる。だが、あまり面倒なことになるようだったら断るからな」



 そして俺はその場に胡座あぐらをかいて座り、この3人の面倒臭そうな人探しの内容を聞いてやることにした

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