木枯らし小柄なハルとの舞踏会
僕が彼女を窓外から見るとき、彼女もまた僕を視ている。
そんなの僕の勘違いかも知れない。彼女から視える僕は幻にすぎないのだから。それでも期待してしまう。もしかすると彼女には僕が見えているのではないのかと……。
彼女は一日の大半を同じ部屋で過ごしていた。窓からの景色を恨めしそうに見ては嘆息する、そんな生活を送っていた。
「早く来てくれないかしら」
それが彼女の口癖。
望むなら僕が喜んで行ってあげるよ。僕は彼女の目の前の落ち葉に魔法をかけた。これは僕ができる唯一の特技だ。
「えーい!」
その刹那、落ち葉は舞い上がった。彼女は舞い上がった落ち葉を見て「死に際の舞踏会のようで素敵」と、目を輝かせて叫ぶぐらいには、はしゃいでいた。僕はそんな彼女を見るのが好きだった。だから、僕は舞踏会を続けた。きっと、彼女も喜ぶはず。だが、僕の頑張りとは裏腹に彼女の笑顔は徐々に曇って行き、次第に舞踏会から目を逸らすことが増えてきた。
「どうしてなの?僕のこと嫌いになったの……そんなー、僕は君のために……」
それでも僕は彼女の笑顔を諦めることができなかった。カーテンで遮られた部屋の外で今日もいつもの舞踏会。僕はより頑張った。
暫くすると僕は体調を崩した。今の僕では落ち葉どころか、ありんこ一匹でさえ飛ばすことは敵わない。こんな僕を見れば彼女はきっと幻滅するはず。だから、決してこの姿を見られることだけは避けねば。イヤだ、イヤだ。
秋の終わり彼女は突然現れた。会いたかったけど、会いたくない。そんな彼女に僕は謝罪した。
「ごめんね。僕はもう君に舞踏会を見せられないんだ」
彼女は無言で僕の頬を撫でてくれた。「やっぱり、君は……」僕が喋ろうとしたとき、彼女は人差し指の先を僕の唇に当てて言葉を遮った。そして一言「最期は私が運んであげる」と。
すべてを理解した僕は喜んで彼女に運ばれた。
「死に際の舞踏会を見せてくれてありがとう。いつも見ていたよ」
どうやら、彼女の目には最初から僕が映っていたようだ。
「見えていたのならどうして舞踏会を見なくなったの?」
「ごめんね。死に際の舞踏会をするほどにあなたは消えてしまう。それが辛くて……」
「そうだったのか……。でも、君は良いの?僕を運んで?」
「良いのよ。今度は私があなたに授ける番。あなたは消えるけど、春には私が素敵な花吹雪を巻き上げてみせるからね」
「木枯らしさんだけに贈るとびっきりの春一番。生命の舞踏会を」




