18 資料室
「クロシェ!」
翌朝。
いつもより早い時間に魔法学校の隣にある学生寮の前でクロシェを出待ちした。
ストーカーじゃないよ、彼女だよ!
「シュカ」
出て来たクロシェに駆け寄ると、クロシェが両手を広げたものだから、思い切ってどーんと… は恥ずかしくて無理なので、恐る恐る腕の中へ入ってみる。
クロシェは優しくハグしてくれた。
ほわーーーーん… 朝から幸せ…
「おはよう。大丈夫だった?」
「それはこっちのセリフだよ!おはよう、大丈夫だった⁈」
「あはは、セリフ取られた」
朝から爽やかな笑顔、ありがとうございます…!
でも、顔色良いし、魔力もおかしな感じはしないか。
と、そこへ可愛い視線を感じる。
「朝から熱苦しいですわね…」
「モモフィーちゃんおはよう!」
「おはよう」
「おはようございます。皆さん見てますわよ」
確かに、ちらほらと居る登校生徒達はこちらを見てる…。
でも、ちょっとくっついただけだし、良いよね?
クロシェを見ると頷いてくれた。
「全然オッケー!」
「はああ、そうですの。じゃあまた」
モモフィーちゃんはちょこちょこと歩いて行ってしまうので、急いで追いかけようとすると、ストーカー…
ええと、ダ…
ダグ… ダグラス?そんなカッコいい名前じゃなかったな。
いいや、ストーカーも寮から出て来た様だ。
私達とモモフィーちゃんを確認すると、気まずそうに走って行ってしまった。
「逃げた」
「そうだね」
モモフィーちゃんも、走って追い抜いて行ったストーカーに気付いて立ち止まった。
「もう諦めたかな?」
「シュカ… そうですわね」
そして3人一緒に学校へ、
「一緒にはいきませんわよ!有名なバカップルの仲間だと思われたくありませんの」
「え?有名なバカップルって、私達の事?」
クロシェと顔を見合わせる。
クロシェもちょっと驚いてたけど、嬉しそうに笑った。
…そうだよね。それって、学校公認の恋人同士って事だよね⁈
「え〜そんな…恥ずかしいなあっ」
思わずモモフィーちゃんのツインテを指に巻き付けてモジモジしてしまう。
「自分の髪でやれば良いでしょう⁈」
あ、モモフィーちゃんの髪取られた。
思ったより柔らかくていい手触りだったなあ。
「僕の髪はどう?」
クロシェに黒髪の毛先を差し出される。
「サラサラ〜」
クロシェの髪は指に巻いてもすぐにさらりと元のストレートに戻ってしまう。
クロシェは私の髪で遊んでいる。
「今の内ですわ」
いつの間にかモモフィーちゃんは居なくなり、私達も仲良く学校へ向かった。
放課後。
スラ研メンバーは資料室へ来る様にと、先生に呼び出された。
みんなで資料室へ行くと、そこにはうちのクラス1組の担任の先生と、モモフィーちゃんのクラス2組の先生、保健室の先生、モモフィーちゃん、ストーカーが居た。
資料室は教室の半分程の大きさだ。
「来たわね。先に健康チェックするから椅子に座って」
ストーカーとモモフィーちゃんの座っている横に並んでいる椅子を示され、みんなおとなしく座った。
モモフィーちゃんの隣は私だ。ストーカーとモモフィーちゃんは健康チェックは終わっていて、問題無かったそう。
私からチェックされて、次に隣のクロシェ、イエスリー、ミケール、アニールの順にチェックが終わった。
全員問題無し!
「イエスリー、あなたは治癒魔法が使えるのよね?それならこの状態異常の有無を調べる魔法は簡単だと思うから、覚えると良いわ」
「はい」
おお、イエスリーが覚えたら、私にも教えてもらおうかな。治癒魔法が出来ない私には、難しそうだ。でもモモフィーちゃんが言ってたのが本当なら、治癒魔法も頑張って練習すれば出来る様になる、かな?
「じゃ、本題に入るぞ」
担任の先生が言う。先生の名前は何だったっけ…?
興味のない事って覚えられないよね〜。
「まずはダブラン。何であんな事…ドラゴンを召喚したんだ?」
みんなの視線がダブランに集中する。ダブランね、ダブラン。留年しそうもない名前だ。
そのダブランは顔色が悪い。
俯いてポツポツと話し出す。
「俺は… 魔法が… 召喚魔法しか出来なくて。モモフィーさんも、黒魔法しか出来ないって聞いて… 同じだと思って、それで… 仲良くなりたくて… 魔力の相性も良いし、仲良くなれると思って…」
魔力の相性?魔力譲渡の練習でそう思ったのかな。
「でも、モモフィーさんは、1組の人と仲良くなってて… イケメンが好きだって聞いて… あとドラゴンが好きみたいだから… 俺の方が相性が良いし、俺が本物のドラゴンを召喚すれば、俺の事を好きになってくれると」
「んな訳あるか!」
思わず声が出てしまった。
コホン。
「その通り、そんな訳がないでしょう」
2組の先生が喋った、
眼鏡で痩せてて生真面目そうな先生だ。
「自分の力量を知り、もう一度基礎から学び直しなさい。召喚魔法が使える者は少ないのです。誇りに思いなさい。そして、人の心は魔力の相性とは関係ありません」
「………はい」
小さな声でダブランは答えた。
ダブランの杖もしばらく没収となった。杖が無ければ魔物の召喚も出来ないでしょう。
「じゃ、次はお前らだな」
担任がこちらへ向き直った。
とりあえずイエスリーが、裏で魔法の練習をしているダブランを見た所から説明してくれた。
「成程。それで昔の話しを思い出して、スライムになりスライムの言葉で同じスライム達に呼びかけて合体して巨大化したと。あの昔話って、本当だったんだな」
担任は、2組の先生と保健室の先生とアイコンタクトを取ると、
「スライム研究会を正式な部活動と認める。部費も出る様になるので、無理はせずにこれからも研究を進めてくれ」
「!!」
なんと!
部費が出る…?
「ありがとうございます!」
「とりあえず顧問は俺になるけど、掛け持ちだから何かあれば教えてくれ。あと、研究内容は定期的にまとめて提出する事」
「はい」
これはイエスリーに任せよう。
でも担任が顧問か… 司書のエルフくんとかやってくれれば良いのになあ。
あのエルフくんって、見た目がモモフィーちゃんと同い年くらいじゃ無いかな。2人並べたい。きっとお似合いだ。
その後、使った魔法についてまた聞かれて詳しく話した。
あとネコラ達について、これまで分かった事や変化などすぐにまとめて報告する様にと。こっちは映像付きで報告出来るね。
とりあえず必要な物も聞かれたので、筆記用具や報告用の用紙、ネコラ達の餌、映像保存用の魔水晶などなど、好きなだけ言ってみた。あと部室の鍵。
鍵は、やっぱりロック魔法を教えてくれるって。
「じゃあこれで解散。無闇に魔法を使わない様に」
やっと終わって、私達とモモフィーちゃんは部室に向かおうとした所で、ダブランが話しかけて来た。
「モモフィーさん、ごめんなさい」
90度に腰を曲げて頭を下げて来る。
「俺にはモモフィーさんに相応しく無いと分かりました。今は、諦めます…」
今は?
その言い方に引っ掛かったが、口を出すべきじゃ無いので我慢する。
「そうして下さい。私は、アニール様とミケール様の様な方が理想なの。あなたじゃ一生無理ですわ」
わあ。モモフィーちゃんはっきり言うね…
双子レベルの人なんていないんじゃ無いの…?
ダブランは頭を下げたままだ。
「でも、お友達にならなれますわ」
「…モモフィーさん」
ダブランはやっと頭を上げてモモフィーちゃんを見た。
「きちんと反省して、今後の行動に気をつけて下さいませ。それまで、私たちはクラスメイトですわ」
「うん… ありがとう」
ダブランは泣きそうな顔をして去って行った。
私達は部室へ。