17 保健室
「一体何があったんですの?」
可愛く、口元に指を当て首を傾げるモモフィーちゃん。
ドラゴンが吠えた時に起きたんだけど、流石に夢かと思って見ているしか出来なかったんだって。
私はイエスリーに浄化魔法をかけながら返事をした。
「ストーカーがドラゴン召喚して倒れて、クロシェがスライムになって巨大化してドラゴンを食べた」
「はあ⁇」
うん。分からないよね…
「私もよく分からない」
それしか言えない私に、イエスリーが説明してくれた。
モモフィーちゃんは首を傾げながらも、何とか納得してくれたみたい。
「シュカちゃんありがとう。元よりキレイになったよ」
イエスリーが浄化し終えた自分の制服を触って言う。
あの後、ストーカーは目を覚さないので、先生が保健室へ連れて行った。双子はドラゴンを沈めた泥沼を、魔法で元通りに戻している最中。クロシェは人間の姿に戻って、今は何故か自分の手を見ている。
「クロシェ、どうかした?どこかおかしいの?」
「ううん。おかしくはないんだけど、いつもと違う様な」
「え⁈ウソ、どこが?どう違うの?大丈夫⁈」
慌ててクロシェの手を触って確かめて見るが、分からない。
その様子を見ていたモモフィーちゃんが、声を上げた。
「あなた、土魔法の属性がついてるわよ?無かった気がするけど」
「え」
「ええ⁈」
それってやっぱりドラゴンを食べたから⁈
体内で異常が起こってる…⁈
「大変!クロシェ今すぐ保健室行って診てもらおう!」
「大丈…」
「すぐ行くよ!」
私は自分に補助魔法をかけて、すぐに保健室へ行こうとしないクロシェを抱き上げ走り出した。
「わ…⁈…シュカ、ちょ…」
「お大事に〜」
イエスリーの声を背に、筋肉強化と俊足の補助のおかげであっという間に保健室へ。
「先生!クロシェを診て下さい!」
一応ノックをしてから保健室のドアを開けた。
「はいはい… って、あらまあ」
保健室に居たのは女の先生だ。男の先生もいるけど、今はいないみたい。
眼鏡をかけた見るからに優しそうな先生で、初めて見た時は安心感を覚えたっけ。
その先生が、目を丸くして私達を見ている。
私はクロシェをそっと保健室のベッドに下ろした。
「お願いします!クロシェはさっきスライムになってドラゴン食べちゃって… クロシェ⁈顔が赤いけど、熱⁈」
「いや…熱は無いよ」
「先生早くっ!」
「はいはい、じゃあとりあえず」
先生は直ぐに魔法で異常が無いか調べてくれた。
その結果、異常無しと言われたけど…
「顔が赤いのは、あなたに姫抱っこで運ばれたからね」
先生が落ち着いて言う。
「え、…ダメだった?ごめん…」
「ううん、シュカが心配してくれたのは分かるから、構わないけど… 出来れば逆が良いかな」
クロシェはそう言って苦笑いを浮かべた。
逆…?姫抱っこの逆?
「王子…おんぶ?」
「え?」
キョトンとするクロシェ。
保健室の先生が笑い出した。
そしてもう1人分の笑い声が。
「あれ、担任の先生居たの」
「おいおい… ずっとここに居たぞ」
クロシェが座っているベッドの隣のベッドの側に、うちのクラス担任の先生もいた様だ。全然目に入ってなかったー。
あ、隣のベッドに誰か寝てた。そっか、ストーカーだ。
先生が保健室に連れてったんだった。
クロシェも気付いて、一緒にストーカーを見ていたら、担任の先生が話しだした。
「ダブランは大丈夫だ。すぐに魔力譲渡出来たのが良かったんだろ。目を覚ましたら寮へ送って行くから、詳しく話しを聞くのは明日になるな」
ん?
「どうしたお前ら、揃って変な顔して。夫婦は似てくるって奴か〜?」
「えー、夫婦って、まだ違いますよ〜!」
「そうだね。学生結婚は早過ぎるよね。僕は構わないけど」
「…お前ら、俺が独身だって知ってるか?」
私達の態度が気に障ったのか、急に不機嫌になったな。
まあ、そんな事より。
「さっきの、この人の事もう一回言ってもらえますか?」
ストーカーを指差して言った。
「ダブランの事を?問題無さそうだから、今日は目を覚ましたら寮に…」
ストーカーの名前を初めて知った。でもすぐに忘れそう。
「もう良いです。それよりもクロシェの魔法が変わったみたいで」
担任の言葉を止めると、保健室の先生へ向き直って言った。担任はちょっと不服そうだけど、構わず保健室の先生に説明をした。
「ええ…?ちょっと、聞いたことの無いケースだけども…
魔力譲渡で、持ってなかった属性魔法を使える様になった例もあるから、そういう事も有り得そうね。クロシェくんは寮住まい?」
「はい」
「じゃあ何かあったら直ぐ診れるわね。体調や魔力におかしさを感じたら早目に連絡して」
「分かりました。ありがとうございます」
まだ心配だったけど、保健室の先生が何とも無いって言うなら仕方ない。
私達は部室へ戻った。鞄を部室に置きっぱなしだからね。
「「おかえりー」」
「クロくん何とも無かった?」
双子とイエスリーとモモフィーちゃん、みんな部室に揃ってた。
「僕は大丈夫。ダブランはまだ寝てたけど、先生は大丈夫だって言ってたよ」
「「誰?」」
ストーカーの名前を知らない双子がキョトンとする。
「ドラゴン召喚したストーカー」
「「ああー」」
「流石に名前が付いたんだね」
イエスリーが苦笑して言う。けど、名前は生まれた時に付いたんだと思うよ?
「詳しい事は明日聞くって。私達も明日改めて聞かれるみたい」
「「えーめんどい」」
確かに。深く頷いた。
とりあえずみんな疲れたので、今日は帰る事にした。
モモフィーちゃんを送ってから、クロシェもそのまま帰って休んでもらいたかったんだけど、送ってくれるって言うから、今日は5人でゾロゾロと帰る事にした。
「でもさ」
「やっぱり」
双子が呟く。
「スライム伝説、本当だったんだ」
スライム伝説って。本のタイトルじゃん。
「すごかったね。スライムがみんな集まって、大きくなって、透明になって…?」
イエスリーが言いながら首を傾げた。
「何でスライムがたくさん集まって透明になったんだろうね?濃い色になるなら納得するけど」
「あー。それもそうだね。魔力の問題かなあ?」
スライムは魔物だから、魔力の属性や質によって色が違う… のかもしれない、って書いてある本があった。
「モモちゃんが見れば分かるかな?スライムの属性」
「ああ、そうだね。明日聞いてみよう」
イエスリーは途中で別方向へ別れて帰って行った。
「クロシェ、変身魔法を使ったら、変身した動物とかの言葉しか話せなくなるの?」
クロシェに、ちょっと気になってた事を聞いてみた。
「うん。上手くコントロール出来れば、部分的な変身も出来るようになるんだけど、難しくて」
「シュカに補助かけてもらえば?」
「最初は補助付きで練習で」
「「だんだん補助無しでも出来る様になる」」
そう言って、双子は小さい火の龍と水の龍を作り出した。
手のひらサイズの大きさだけど、自分で出来る様になったのか。
「美味しそうだね」
クロシェが言う…
え?
「「…クロ?龍食べんの?」」
「あ、いや違う。ちょっとスライムの思考が残ってて」
「スライムの思考って?」
スライムの思考って何やねん、と思いそのまま聞いてみる。
「うん、基本的な思考パターンが変身した動物に合ったものになるんだ。変身している時間が長い程、思考もその動物に近くなる時間が長くなるみたい」
「凄いのか、大変なのか…」
「自分のイメージにも左右されるんだけどね」
ふむふむ、つまり、凶暴だと思っている動物に変身すると自分も凶暴になり、優しいと思ってる動物に変身すれば自分も優しくなるって事か。
「上手くコントロールして、脳は自分のままでいられれば、そんな風にならないのだけど」
「やっぱりコントロールは重要だね」
みんなでコントロールの練習がんばろー!
と約束して、今日は解散になった。
今日は疲れたなあ。