13 生まれた
翌日。
朝登校したらまず部室へ。
すっかり日課になっちゃってるなー。
今日も正門前でクロシェと会って、と言うかクロシェが私を待っていてくれてて、部室まで一緒に来た。
短い距離でもしっかり手を繋いでいます。
うふ。
「ネコラとライムはいるかな〜?」
クロシェがドアを開けてくれて中に入ると、そこにはネコラとライムと… 2匹よりも小さく黒っぽい丸い物体が。
「え?」
「あれってスライム…?」
慌ててクロシェと一緒に駆け寄ると、黒い丸は驚いたのかネコラの後ろへ隠れた。
「まさか、子供を産んだ⁈」
「え?スライムが?」
「…違うか」
でもどう見ても、ネコラがライムとの子供を産んだ様に見える。違うとは思うけど。
「本には、自然発生か分裂をして増えるって書いてあったよね」
クロシェが言う。
そうだよねー、確かにどの本にも増殖方法はそう書いてあった。
「おはよう」
「おはよ!イエスリー見て見て」
イエスリーが来たので、早速新しいスライムを見てもらうと、ちょっと考えてからこう言った。
「昨日のモモちゃんの魔力を吸収した分で、分裂したのかも」
「ああ… ブラックドラゴンを吸収したから赤ちゃんスライムは黒くなったの?この2匹の子供って訳じゃないよね」
「2匹の子供?そうだったら面白いけど」
イエスリーは笑って言った。
そしてまた魔道具を取り出して撮影を始める。
…イエスリー、撮影の魔道具もポケットにしまってるな?
まあそれが安全で便利か。
あれ?でもポケットはりんごの箱と繋がってるから、撮影魔道具もりんごの箱に入ってる事になる?
でも壊れるわけじゃないから良いか。
良い香りになりそう〜。
「でもこのスライム、まん丸で面白いね」
クロシェが黒いスライムを観察して言った。
確かに大体のスライムは楕円形なのに、このスライムはキレーなまん丸だ。
手のひらサイズのボールみたい。
それから数分程撮影したけど、黒いスライムはネコラの後ろから出て来なかった。
放課後。
双子とモモフィーちゃんにも黒いスライムの事を話して、みんなで部室へ来た。
「うっわ、ホントに増えてる」
「小さい丸。黒いしクロと同じだな」
双子がそんな事を言った。
クロシェと同じ?
黒髪だから⁇
「クロシェと同じと言うよりは、昔に仲良くなったスライムと同じだよね?双子も覚えてるでしょ」
「シュカよりも覚えてる」
「名前何にすんのー?」
「黒っぽいからクロ?」
「クロじゃあんた達クロシェと同じ呼び方するでしょ?ややこしいじゃない!何か違う名前に…名前どうしよっか」
何となくクロシェを見た。
「え、名前… そうだね黒くて丸いから… でもクロは使わずにまる… まる… マルコ?」
「「マルコ!」」
クロシェの考えた名前に双子がやたら気に入ったのか、マルコ〜マルコ〜、とスライムに呼びかけてる。
これは決定だな。
そのマルコは、相変わらずネコラの後ろへ隠れてる。
双子が近付いたら、ライムまでマルコを守る様に前へ出た。
イエスリーはちょっと離れてその様子を撮影していて、
モモフィーちゃんはイエスリーの隣でマルコを見ていた。
そこへいきなりマルコが双子を飛び越えてジャンプして来た。
「え⁈」
そのままモモフィーちゃんまでぴょんぴょん素早く移動をして、モモフィーちゃんの足元にピタッとくっついた。
「何⁈何ですの!このスライム…」
「びっくりしたね… モモちゃんの魔力が分かるのかな?」
慌てるモモフィーちゃんに対して、言う程驚いた様子のないイエスリー。ちゃんとまだマルコを撮影している。
「お姉様〜」
「大丈夫だよ。モモちゃんの魔力で生まれたんだったら、モモちゃんの子供だね」
「えええ…」
え!スライムが子供?
羨ましい…!
「良いなあ〜」
思わず声に出して言うと、モモフィーちゃんが変質者でも見る様な目でこちらを見た。
「魔力あげてみたら?」
「え…」
イエスリーに言われて、モモフィーちゃんが恐る恐るスライムに人差し指を近づけた。
ちょっと光って黒い霧の様なモノが指先から出ると、その霧がマルコへと吸収されていく。
「なんかちょっと大きくなった?」
「うん。大きくなったね。お母さんの魔力で大きくなったね」
「お母さんじゃないですわ…」
イエスリーに言われて困った様子のモモフィーちゃんだ。
いいなあ。私もスライムの子供育てたい!
「魔力あげれば、また分裂して子供出来るかなあ」
ネコラとライムは今りんごを食べている。
モモフィーちゃんみたいに直接魔力を出すのは難しいから、りんごに補助魔法を掛ければ…
「じゃあ、僕も一緒に魔力をあげれば、僕とシュカの子供になるかな?」
クロシェが可愛い事を言う…!
ナイスアイデアに感動していたら、クロシェが困った様に続けて言った。
「でも、魔力をどうやってあげたらいいか分からないけどね」
「あー、そうだよね。私もそう思ってた。りんごに美味しくなーれって補助魔法かけるしかないかと思ってた所」
「そうか。じゃあ僕はりんごに変身魔法を」
「りんごにかけられるの?」
「自分にしかやった事は無いけど、試してみても良いかも」
「うん!」
早速イエスリーにりんごをもらって魔法をかけ始めた。
「美味しくなあれ〜」
「モエモエキュンだろ」
「手でハートを作ってな」
双子が言う事は無視無視。
そーゆーのが似合うのはモモフィーちゃんだよ。
…クロシェから期待の視線を感じるけど、
私には出来ないよ…!
キラキラ光ったので、出来たはず。
次はクロシェ。
「りんごを梨に…」
「梨にしちゃうの⁈」
それはすごいよね。わくわく。
りんごがキラキラ光ったかと思うと、色が変わって来た。
梨になった⁈
「たぶん出来たよ」
「すごい!味とか気になるけど、まずはあげてみよう!ネコラは分裂したばっかだろうし、ライムに…」
ライムの口元…だろうと思うとこに梨になったりんごを寄せると、パクリと食べた。食べたと言うより取り込んだ…?
吸収した感じかな。
ちょっと様子を見ていたけど、ライムに変化はない。
「まだ魔力足りないか〜」
「そうだね。昨日のドラゴンくらいの大きさ分の魔力が必要なのかな」
「よし、がんばろ」
もう2個、りんごに魔法をかけて食べてもらったが、やっぱりライムに変化はなし。
ライムはお腹いっぱいになったのか、寝てしまった。
「また明日続けるしかないかな」
「そうだね」
私とクロシェがりんごをあげてるうちに、モモフィーちゃんのマルコは、両手サイズにまで成長していた。
直接魔力をあげれるの良いなあ…!
「ふう…」
「モモちゃん、疲れちゃった?魔力分けるよ」
「いえいえっ!このくらい大丈夫ですわ。ちょっと、クラスの人の事思い出してしまって…」
なんだろ、モモフィーちゃんとイエスリーが気になる会話してる。
もちろん聞き耳を立てるしかないよね。
「クラスの?」
「ええ。ちょっと変わった人で、入学当初からたまに話しかけられてたんですけど…」
「男子?」
「はい。昨日のお披露目で、召喚魔法を失敗してた人ですわ」
「ああ…」
あー、あの残念な人か。
「昨日告白されたんですの」
「えっ」
「ええっ⁈」
「「ロリコン⁈」」
モモフィーちゃんの発言に、思わずクロシェ以外は声を上げてしまった。
ロリコンって言ったのは双子ね。
モモフィーちゃんは驚いて双子を見たけど、双子はサっとモモフィーちゃんと逆方向を向いた。
「えっと、それで?何て返事したの?」
イエスリーが誤魔化すように聞いた。
「ええ… もちろん全然好みじゃないので、はっきりとお断りしましたわ。でも…」
「でも?」
「諦めないって言われて…」
ヤッバ。ヤバいやつじゃないの?そいつ。
モモフィーちゃんの可愛らしさに狂ってしまったのか…
でもそのモモフィーちゃんは双子に狂ってると言っても過言では無いような…
そして双子はお互いしか眼中に無い。いや双子はどうでも良いか。
一方通行の愛は辛いよね〜。
って、余裕ぶってる場合じゃ無いわ。
「モモフィーちゃん帰りとか大丈夫?後つけられたりしてない?」
聞き耳を中断して話しかけた。
ストーカー化すると厄介だからね。
過去に何度、双子のストーカーと戦った事か…
「そこまでは無いわ。寮住まいだし」
「寮…って、男女わかれてるんだよね?」
「そうだよ。基本的に相部屋で、2、3人一部屋で入ってる」
クロシェが教えてくれた。
相部屋…え、まさか、
「クロシェは誰と一緒の部屋なの⁈大丈夫?襲われない?」
クロシェのカッコ良さに血迷った男子が…!!
私の心配を他所に、クロシェは笑って言った。
「無い無い。2組と3組の人と一緒だけど、おとなしくて真面目で小柄なタイプだから」
「小柄だからって油断しちゃダメだよ!双子なんて女の子みたいな男子に何度も襲われかけたんだから」
「え…、いやでも今はそれよりもモモフィーちゃんの方を心配しないと」
あ、そうだった。
「大丈夫ですわ。学校でしか会った事ないですわ」
「なら良かった。でも今後は分からないから、なるべく誰かと一緒にいた方が良いよ。クロシェ、女子寮までモモフィーちゃんを送って…」
送ってあげてと言いたかったんだけど、モモフィーちゃんと並んで帰るクロシェを思い浮かべてちょっと嫌だなと思ってしまった。
私って、何て心が狭いんだろう…!
「うん、じゃあ一緒にモモフィーちゃんを送って行こう。その後シュカを送りたいから」
「クロシェ…」
「あの2人、見せつけてる訳じゃないですわよね?」
「うふふ、私は嬉しいけどね」
「お姉さま…何てお優しいの…!私なんて、アニール様とミケール様以外のイチャイチャなんて見たくないのに」
「アニくんとミケくんは別格だけどね」
「ええ!当然ですわ!」
気付いたらみんな帰っていた。
モモフィーちゃんを女子寮に入るまで見送ろうと思ってたのに。
でもきっとイエスリーと双子が送ってくれたんだろう。
そう信じて、私はクロシェと仲良く手を繋いで帰宅しました。