12 ブラックドラゴン
翌日。
ちょっと曇りの微妙なお天気。
雨降るかな?
傘忘れたけど、近いから良いか。
気にせず学校へ到着した。ちょうどクロシェも登校した様で、一緒に部室へ向かった。
「おはよーネコラ」
ニャー
ニャア
「あれ?」
「もう1匹いるね」
水色のスライムがネコラと一緒にクッションに乗っている。このスライムも猫耳を擬態して、つぶらな瞳でこちらを見つめている。
「猫耳だけか〜、尻尾は難しかったのかな」
「本当だ。このスライムも逃げないね」
そっと触ると、ビクッとしたけどそのまま逃げずにいる。
撫でても大丈夫…うん、大丈夫そう。
ニャーニャー
「ん?ネコラどうしたの?」
「お腹空いたのかな」
「りんご無くなってるね。全部食べたのか」
水の入ってたお皿も空になっている。
りんごはイエスリーが持ってくると思うけど、水は…
双子が来るのを待つか、ちょびっとだけ私か出すか。
「クロシェ水出せる?」
「ちょっとだけしか」
「私も。じゃあ一緒にちょっとづつ出そっか。あ、補助かけるね」
自分とクロシェに水魔法の増幅をかけてと。
クロシェと一緒にお皿へ手を翳す。
よし、何とか2人でお皿半分ほどの水を入れる事が出来た。
ニャー…
ニャ…
りんごじゃないので不満だったのか、渋々飲んでる様子の2匹。
「りんごはちょっと待ってねー」
「りんご?あるよ」
イエスリーが来た。
ポケットからサッとりんごを取り出すと、ネコラと水色スライムがぴょんぴょん跳ね出した。
「あらら、お腹空いて… お友達増えてるね?はいどうぞ」
イエスリーがりんごをもう一つ取り出して、一つづつネコラと水色スライムの前に置いた。
その途端、2匹は齧り付く様に食べ出した。
その様子を見て、イエスリーが更にりんご出して並べてる。
「りんごどんだけ持ってるの?」
「親戚からたくさん送られてきて、家にまだ二箱あるの。ポケットとりんごの箱を繋ぐ転移魔法道具で、幾つでも出せるよ」
と、更にりんごをポケットから取り出すイエスリー。
「水色の子にも名前付けるの?」
「そうだね。スラ…ライ…ライムとか」
「「ライム」」
双子の様にハモるクロシェとイエスリー。妬くぞ。
「また可愛い名前だね」
「良いよね!今日からお前はライムだよ〜」
ライムをつんつんとつついて言うと、
ニャ!
と返事が来た。了解って事だよね?
りんご目当てで来たみたいだけど、どんどん増えると良いなあ。
教室に戻ると双子は窓に張り付いて校庭を見ていた。
「アニミケおはよー。もう始まってる?」
校庭には既に何人か人が来ている。先生はまだ来てないみたい。
私達も窓に張り付いて様子を見る体勢に。
「「おはよ。まだだぜ」モモはもう外にいる」
「どこどこ… あ、いた。今日もちっちゃくて可愛いね〜」
おっと、つい本音が出ちゃう。
クロシェがこっちを見ている…
目が、やっぱり好きなんじゃないの?って聞いてくるよ…
「えーと…スライムみたいにちっちゃくて可愛いね?」
一瞬クロシェがポカンとしてから、笑い出した。
双子も一緒に笑い出す。
「どこまで小さいと思ってんだよ!」
「モモが聞いたら火山みたいに怒りそ〜」
双子がそう言って笑い続ける。
まさか、3階の教室から校庭までのこの距離で声が聞こえる訳ないよ。
モモフィーちゃんを見ると、…こっちを見てる⁈
うっそ⁈
聞こえた⁈
良く見ると、双子の事を見ている様だ。
大笑いしてるもんなあ。後でめっちゃ聞かれそう。
あ、先生来てる。
うちのクラスの先生も来た。
「何だお前ら、窓に集まって」
気付くと私達以外のクラスメイトも窓やその近くに来ていた。
「ああ、2組のお披露目会か。仕方ない、ちょっと見学するか。ちゃんと、何の魔法をどうやって使っているか考えて見るんだぞー」
やった、先生の許可が出たから堂々と見れる。
先生も窓に寄りかかって見る体勢になった。
モモフィーちゃん達は…
2組の先生が結界を張ったところだ。
へー、丸い結界だ。うちの先生は四角だったよね。
誰から始めるのかな?
期待しながら見ていると、何とモモフィーちゃんが指名された様子。
あらら、カチコチに緊張しているご様子…
「ちょっと双子、モモフィーちゃん見てないフリしなよ」
「えー?良いけど」
「しょうがねーな」
双子はお互いの顔に手を添えて自分に向かせた。
モモフィーちゃんはチラチラとこっちを見ていたけど、ちょっと笑ったみたい。大丈夫かな?
イエスリーはにこにこして双子を見ている… モモフィーちゃんを見ないのかなー。まあ良いか。
私はモモフィーちゃんを見よ。ちゃんと集中出来てる。
モモフィーちゃんが両手を前に突き出すと、全身がキラキラと光り始め、その光が両手に集まる。
そして両手からブワッと黒い霧の様なモノが広がった。
すっごい不穏な感じ!良いね〜。
黒い霧がぎゅっと集まって、ドラゴンの姿を取る。
よし、成功だ!
モモフィーちゃんは満足げに笑顔を浮かべると、ぺこりとお辞儀をして、クラスの人たちの中に戻っていった。
…ブラックドラゴンを連れたままだけど…大きさは…大型犬くらい?
ブラックドラゴンを触ってる人も居るけど、触れるの?
触れるなら触りたいなあ。いいなあ〜。
「今の分かったかー?あれも結構珍しいけど…」
先生が解説し始めた。知ってるからスルーでいいか。
次の人も魔法を使い始めて、水魔法を頭上から噴水みたいに出している。
頭から出せるモンなんだねえ…
曲芸にしか見えないけど。
次は火魔法でお手玉。
次は土魔法で小屋を作成。
次は…もしかして召喚魔法かな?
地面に杖で何かを描いている。その地面が光ると、地面から何かが…出て…
………
…来ないな。失敗かな?
ありゃ、膝ついて悔しがってる。
急に雨も降ってきた。
あの生徒の心を空に写した様だ…
ドンマイ!知らない人!
「さーそろそろ授業するぞ!全員席に着けー」
みんな次々に着席していく。
校庭にいた2組の生徒達も、雨足が強くなり、校舎へ駆け込んで行った。
2組も面白かったな。
放課後の部室。
やっぱりモモフィーちゃんが双子の事を聞きに来ました。
「何をあんなに楽しそうにしてたんですの⁈」
「いや〜何だったっけ… 何でもなかった気がするなあ〜あはは〜?」
「はあ?」
「それよりモモフィーちゃん、ブラックドラゴンはずっと出しっぱなしだったの?」
そう、モモフィーちゃんは朝出していた黒いドラゴンを連れて来ていた。
今は双子がつついて遊んでいる。
ちょっと、私も触りたい!
「ええ、クラスの皆に好評で、なんとなくそのまま…」
「私も触ってみていい⁈」
「良いですけど、物質じゃないですわよ」
物質じゃないって、どゆこと?
「触れないの⁇」
「触ってみれば?」
それもそうだ。
早速ブラックドラゴンの元へ行ってそーっと触ってみた。
ん?
なんか、ふわっと、もわっと…触ってる様な触ってない様な… あったかい…いやちょっと冷たい?
「変な手触りだよなー」
「掴めねーな」
双子も不思議そうに、ブラックドラゴンの周りで手を動かしてる。
思い切り掴むと通り抜けるみたい。
「不思議ー!真っ黒に見えるのに、掴めないし」
「もっと魔力を込めれば掴めますわよ」
ん?
イエスリーからモモフィーちゃんの声がする…
ああ、双子に近いからイエスリーの背後に隠れてたのか。
「放っておけば薄まって消えますし」
「へえ…」
ニャー
「ん?ネコラどしたの?」
ニャー
ぴょんぴょんとネコラがジャンプをし始めた。そのまま様子を見ていたら、ブラックドラゴンの高さ、私の顔の辺りまでジャンプして、
「…食べちゃった⁈」
「「うわあー」」
なんとブラックドラゴンを食べた?吸収した?
慌てる私達だったけど、モモフィーちゃんはケロリとしていた。
「魔物ですもの。魔力の塊はご馳走なんでしょう」
「あ、そっか。召喚魔法じゃないもんね。でもモモフィーちゃん大丈夫?って言うか、ネコラ黒っぽくなってる!」
イエスリーが慌てて魔道具で撮影を始めた。
するとネコラはすぐに元の薄茶色に戻った。
「戻った。…消化したのかな?」
みんな良くわからず、首を傾げていた。
スライムは魔力がご馳走… 今度からりんごに魔法かけて食べさせてあげようかな。