11 俺らの出番
「面白かったね〜」
放課後、私達はいつも通り部室であるネコラのいる空き教室へ来ている。
ちなみにモモフィーちゃんも来ている。
今日のとても面白かった得意魔法お披露目の様子を聞きつけて、双子の魔法について詳しく聞きたいんだって。
「どう面白かったんですの⁈」
「う、うん…近いね、モモフィーちゃん…」
興奮して眼前まで近寄るモモフィーちゃん…
おっと⁈
ぐいっと腕を引かれたかと思ったら、クロシェが私とモモフィーちゃんの間に入ってくれた。
「何よあなた!ええと、クロシェ?教えてくれるなら貴方でも構わないですけど」
「君は小さくて可愛いから」
「小さいは余計ですわ!」
「シュカにあまり近付かないで」
「はあ?どう言う事ですの⁈」
おおっと、クロシェがまたおかしな思考になってる…?
「クロシェ、あのさ、モモフィーちゃんがいくら可愛くてもね?妹や弟とかアイドルとかペットに対して可愛いなーって思うのと同じだから」
ペット⁈
と叫ぶモモフィーちゃんの声が聞こえるけどとりあえずスルーする。
あ、ネコラと遊ぶ双子を見ていたイエスリーがこっちに気付いてモモフィーちゃんをあやしてくれた。
良かった良かった。
「シュカ、本当にモモフィーちゃんの事は…」
クロシェの憂いを帯びた表情が、また良い…
映像に収めたい〜
「無い無い。お人形を可愛いって言ってるのと同じだって」
ちゃんと、言わないとね…恥ずかしいけど…
こっちを見てる人が居ないか確認して、クロシェの耳へ口元を寄せる。
みんなに聞こえない様に小声で…
「クロシェ、大好き」
それだけ何とか言うと、急いで顔を背けて離れた。
ぎゃーーー!
恥っずーーーーーー!!
でも言えた!言えたよね⁈
クロシェは何も言わないけど…恥ずかしく顔が見れない。
あれ?
手首を掴まれてる… クロシェに。
何も言わないクロシェの様子をそーっと見てみたら、
顔を真っ赤にして耳を押さえていた。
たぶん私も同じ位真っ赤だろうけど、クロシェの真っ赤な顔は見逃せない。
そのまま真っ赤同士しばらく見つめ合っていた。
「ね?シュカちゃんが可愛い子が好きだから、モモちゃんにシュカちゃんを取られるんじゃ無いかって誤解して…」
「何でそこ誤解するんですの… お姉様も苦労しますわね」
「面白いよね。シュカちゃんが大好きだから必死なのかな?」
「まあ、まだ付き合いたてですものね」
エスとモモにそんな会話をされてるとは気付かずに、真っ赤なまま固まっているシュカとクロ。
思考も停止中みたいだな。
よし俺らの出番だ。
俺とミケは目を合わせて頷く。
シュカは結構マヌケな所があって、小さい頃にクロと出会った事に全く気付いてない。
俺らはすぐ分かったのになー。
もちろん、魔法で変身したクロに会ったんだけどな。
最初はスライムで、次は猫で次は犬…だっけ?…兎やリスだった事もあった。
年に一度この町に来ていた様で、その度に黒い動物になってシュカに会いに来ていた。
クロは魔力も黒っぽくて珍しいから、同じヤツだって俺らはすぐに気付いたのに、シュカは全然気付いてなくて…
あ、でも魔力が色で見えるのって俺らだけだっけ?
シュカは魔法を使った時だけ光って見えるって言ってた気がする。
まあいーや。
ちなみに、俺たち双子は話さずに会話できる。生まれつきそうだったから、魔法なのかは良く分からない。
なあ、ミケ?
うん。シュカ達まだフリーズ中。
よし、続行だ。
俺らについての説明も足りないよな。
全然足りない。俺らの美しさが一つも伝わってない。
だよなー。
エスとモモの方がまだ分かってる。
まあそうだな。
俺らはほぼ同じ存在だ。外見は特に同じ。
毎日お互いにチェックして、差異が無いか確認してる。
同じものを食べて同じ動きをする。動きはもちろん大まかでだけど。
ミケの美しさは唯一無二だ。ミケを見た時に本当に美しいと思って、自分も同じ姿だと気付いた時には本当に嬉しかった。
俺にとってはアニが何よりも美しい。
だから同じでいたい。同じ俺ももちろん美しい。
昔は良く俺らを離れさせようとするヤツが居たけど、そんなの絶対に嫌だ。
そんな時はシュカが何とかしてくれた。
シュカは俺らが一心同体だって分かっている。
離れたらおかしいって思っている。
それは何故だかは考えてないみたいだけど。
まー生まれた時から俺ら2人ずっと一緒だからな。
シュカとは生まれた次の日に会ったらしい。
そこから気づいたら毎日一緒に遊んでた。
だから家族だと思ってた。隣の家に住む家族。
シュカは俺らの邪魔はしないから、一緒にいても大丈夫。
シュカって、魔力多いよな?
だな。常に魔力が作られてるのか、ちょっと漏れてる。
魔力の色が赤いから、たまに燃えてるみたいに見えて面白い。
シュカの髪色が赤く見えるヤツって、魔力のせいで赤く見えてんだよなー。
だよなー。魔力が漏れてるからだろうな。
本人は気付いてないけど。
魔法使う時に髪を見れば気付くんじゃね?
魔法使う時に髪… 普通見ないよな。
鏡の前で魔法使わせるか。
鏡見ないと分からないなんて、不便だなー。
だなー。俺らお互いで見れるもんな。
俺らは銀に光る。髪や目が銀色だからかな?
たぶんな。
エスは髪は薄い黄色で、魔力は黄色く光る。
じゃあモモはピンクに光る?
かもなー。
ピンクに光るって、ヤだな。
うん。かわいそー。
まあピンクに見えるのは俺らだけだろ。
そっか。黙っといてやろうぜ。
うん。俺ら優しー。
お?シュカとクロが動き出しそうだ。
えー、もう?
もうちょっと語らせろや〜…いや別に良いか。
俺らは俺らで自由にするだけ。
そーだなー。エスとモモがまたこっち見てるからサービスしないと。
おお、どうする?
姫抱っことか?
肩車とか?
肩車は天井に頭ぶつかんじゃね?
試してみる?
よっしゃ。
ーーーーーはっ!!
気付くとクロシェの顔の赤みが引いてきていた。
やだ、私どんだけ見惚れてた?
「おい、ぶつかるって」
「あはは、ギリギリ?」
「ギリギリ!交替だー」
何か双子が肩車して遊んでる。
イエスリーとモモフィーちゃんは双子を見てるし、こっちは見てなかったみたいだ。
クロシェは… うん。見てる。私を見てる。
いやいやいや、そんな熱視線に耐えられる顔じゃないのに…!
「あの、クロシェ…?」
クロシェはにこーっと笑うと、掴んでいた私の手首を離し、手を繋ぎ直した。
か、可愛い…!
「とりあえず…座ろっか」
「うん」
2人で横並びに椅子に座った。
もちろん手は繋いだまま。
「肩車、楽しそうだね」
「そうだね、頭ぶつけそうだけど」
「アレは真似できないね」
「えー?まさか、真似したいの?」
「肩車は危ないしいいかな。おんぶとか…」
「おんぶ」
「…抱っことか?」
「だっこ」
クロシェの提案はとても心惹かれるけれども、その前に私の重さと言う強敵が立ちはだかります。
「重いからムリ!」
「そんな事ないよ」
「あるある。そんな事ある!」
「じゃあ… 膝に座るとか」
そう言って自分の膝をぽんぽんと叩くクロシェ。
「…重いから!逆にクロシェが座って!」
「いや僕の方が絶対に重いでしょ」
「そうだと信じてはいるけど、体重は聞きたくない…」
「あはは!シュカ細いのに、そんなに気にするなんて」
「えー⁈細くないよ… 細く見えてる?」
「うん、腰とか細いよね?」
「何かの錯覚が起こってるのかも」
「ええ?」
「イエスリーやモモフィーちゃんの方がずっと細いし…」
「え…」
クロシェがイエスリーとモモフィーちゃんを見た。
そして私を見る。
…今の話題じゃ仕方がないかもしれないけど、体を見られるのはちょっと…いや、良いんだよ?
他の女子を見るくらいなら、彼女である私を見た方がもちろん良いんだし。ただ、恥ずかしいよね…見られてる〜。
「ああ、そうか。あの2人は全体的に細いから…」
クロシェはそこまで言って口を閉じた。
うん。それは言ってはいけないね!
モモフィーちゃんは子供体型だし、イエスリーはスレンダーだ。
声に出しては言えないけど、胸も腰も細いって事。
私は巨乳じゃないけど、そこそこある。
クロシェも年頃の男子だから、そゆとこ見ちゃうのは仕方が無いよね!
「何か言いました?!」
いきなりモモフィーちゃんが振り返って言った。
思わずビクッとする私とクロシェ。
慌てて首をブンブンと横に振った。
モモフィーちゃんは訝しむ様にこちらを見ている…
小さい事に関して敏感過ぎない⁈
「そうですわ、明日うちのクラスも得意魔法のお披露目をやるんですけど」
モモフィーちゃんが思い出した様に言う。
良かった、話題が変わった。
「シュカ… 闇魔法がカッコいいって言ってましたわね?」
「うん」
「その中でも… どんな魔法がカッコいいと思いますの?」
「えー、難しい質問!闇に潜む系はカッコいいけどお披露目には向かないよね」
「ええ、そうですの」
「闇を出す事は出来るの?」
「ええ、まあ、霧状に出せば視界を奪える程度には」
「じゃあそれでドラゴン作れば?」
「それって…アニール様とミケール様みたいにですの?」
双子と同じだと言う事で、モモフィーちゃんは乗り気になった。
昨日借りたカッコいいドラゴンの載った本をモモフィーちゃんに見せて、イメージ固めが重要だと伝える。
「クラス違うから補助掛けられないけど、出来そう?」
「ええ…、練習してみますわ」
「ブラックドラゴン… めっちゃカッコいいよね!」
「「ブラックドラゴン?」」
双子が食い付いてきた。
ブラックドラゴンだもんね、食い付くよね。
「何それ」
「モモが出すの?」
「っひゃい!」
双子がこっちに来たせいで、モモフィーちゃんがテンパった。
仕方ないので背中にモモフィーちゃんを隠す。
「モモフィーちゃんが明日お披露目で闇魔法使うから、どんな魔法が良いかって聞かれて」
「へ〜、明日の何時間目?」
モモフィーちゃんが私の背中に隠れたまま、人差し指を立てた。
「朝イチからか。オッケー覗こうぜ」
「おー!」
「ええええ… そそそんにゃ、お二人が私の魔法をご覧になるって事…⁈今すぐ帰って特訓しますわ!!」
モモフィーちゃんはブツブツ言いながら、ぴゅーっと風の様に去って… いや帰って行った。
明日私も覗いちゃお〜。
明日も楽しみだねっ♪