1 プロローグ
ぴょん、ぴょん。
今日も野良スライムが元気そうに遊んでいる。
いつもののどかな光景を横目に、赤茶の髪のポニーテールを揺らし制服の黒いロングスカートを翻しながらこれから通う道を歩く。
海辺の片田舎のこの町には、数少ない魔法学校があり、私は今日からその魔法学校の一年生だ。
この町に生まれ育った私は、魔法が使える。それは私の唯一の自慢なんだ。
この国は人口の10%程度が魔力を持ち、さらにその半分が魔法が使える。魔法と言っても、ささやかな生活魔法から強力な攻撃魔法に治癒魔法まで幅広くあり、魔法が使える人の中でも魔法学校に通えるレベルの人間はほんのわずか。
そのわずかの中に、私が、入ってます!
それ以外は外見も頭も普通で秀でたところが全くないけど、魔法が使えれば問題なし。それだけ魔法は凄いものなんだ。
今日は魔法学校の入学式。
魔法の勉強はもちろん目標のひとつだけど、もう一つ…
大事な目標がある。
それは、
「恋人を作る事ー!」
ビシッ
音と共に襲われた頭の衝撃に振り向くと
「朝から何叫んでんの、シュカ」
「うっさい。黙れ」
「出たな、ナルシスト双子!」
眉目秀麗、文武両道を我が物とした憎たらしいこの双子は、私の幼馴染である…
色素が薄くてなんかいつもキラキラしてる。
双子のイケメン幼馴染なんて、美味しすぎるシチュなのに、性格と性癖に問題があり過ぎて生まれてからずっとギャクにしかなっていない。
ちなみに今、私にチョップしてきたのが兄のアニール。
外見が同じ弟がミケール。私はシュカ。
2人ともナルシストで、お互いにしか興味が無い。ので見分けをつけなくても良い。
ビシッ!
「なんでまたチョップすんの⁈」
「ムカついた」
「え、私声に出てた⁈」
「出てないけどムカつく顔してた」
ぐぬぬ…
この双子、物心つく前からずっと一緒に遊んでたせいか、私が考える事が読めるのである。
「シュカは顔に出てるんだよ」
「ウソ!そんなの言われた事ないもん」
何故か双子は生温かい目で私を見下ろしている…
かと思えばすぐにお互いを見つめ始めた。
「そんなんどうでもいいから学校行こうぜ」
「そーだな」
手を繋いで歩き出す2人。
そう。この双子も今日から魔法学校に通うのだ。
なんかこの町出身の魔法使いって多いんだよね。遺伝かな?
魔法学校に行っても、今まで通ってた小中学校の顔馴染みもそこそこいる。その中に、私の恋人となりそうな男子はいないから、新顔狙いの予定。
今までは恋愛に興味を持てなかったけど、私ももうすぐ16になるんだし、学生のうちに恋のひとつはしてみたい。
魔法使いは相手も魔法使いの方が上手く行くって良く聞くし、魔法学校に通う3年のうちに誰か良い人出来ると良いなぁ…
期待と緊張で胸が高鳴る。
「シュカー、遅刻すんなよー」
「遅刻したら目立って覚えてもらえるんじゃね?彼氏候補たちに」
「そんな覚えられ方はイヤ!」
とりあえずは入学式へ急がなきゃ!