2 嫉妬と聖域の強さ
エクセシア嬢の話を聞くため、俺たちは一度家の中に入った。
「あに包丁取って。」
「何に使うんだ?」
アリアはエクセシア嬢の方を、具体的には顔のちょっと下をじっと見つめて宣言した。
「削ぐ。」
「削ぐって何!?」
ビビった様子のエクセシア嬢。俺はアリアの額を軽く、本当にそよ風のように優しく叩いて、
「何アホな事言ってる。部屋で寝てろ。」
とたしなめた。
ちなみに前に布団たたきで布団を叩こうとしてちょっと後ろに振った時、たまたまぶつかったアリアがぶっ倒れた時は本当に驚いた。本人曰く、
『ちょっと体幹がないだけ』
らしい。流石に無理がある。
「あに運んで。」
「部屋までか!?」
家の怠け者のいつもを知らないエクセシア嬢は驚きっぱなしだ。
「私は頑張ってるナマケモノだから運んでもらえるの。」
「はいはい。頑張ってる怠け者ね。」
「頑張ってる?怠け者?どういう事だ・・・」
エクセシア嬢には理解できなかったようだ。
「・・・ということで、あなた方の聖剣、叶うなら戦力をお借りしたいのだ。」
俺はアリアを2階に運んだ後、エクセシア嬢の話を聞いていた。
「つまり、エクセシア家の治める領地に2年程前から貴金属や宝石などの交易品が入って来なくなった。だから、浄化の儀式が頻繁に出来なくなり、アンデッドや悪霊が暴れ始めた。それに引き寄せられたエンシェントグールが領地を占領し、領主である貴女の父上や重臣たちが幽閉されている、と・・・。」
「その通り、一刻を争う事態なのだ。」
「分かった。正直、関係ない話とも言い切れないし、協力する。」
詳しくは言えないが、俺たちが辺境で暮らす事になった原因にも関係している。みてみぬ振り、とはいかないだろう。
「では、早速出発しよう!貴殿の事は当家の協力者とみなし、敬意をもって接する。エクセシア家の名誉にかけて、・・・」
途端に彼女が気まずそうな表情になる。俺の名前を呼んで誓おうとしたのだろうが、彼女はまだ俺の名前を知らないはずだ。
「まだ名乗っていませんでしたね。俺は、クロッツ・ソフェン。エクセシア嬢、貴女の協力者です。」
協力者という言葉で一転、華のような笑顔を見せる彼女。
「クロッツ、と呼んでいいだろうか。」
「どうぞ。」
「私の事はリスティと呼んでくれ。身内にはそう呼ばれている。」
「分かりました。ではリスティ様、今から3つの事をしなければいけないのですが。」
「出発、ではなくてか。」
俺は指を3本立てて言う。
「一つ目は姉と妹を連れて来ること。二つ目は聖剣を持って来る事。」
「三つ目は?」
「貴女の武具をとって来る事です。」
「分かった、今すぐ取って来る。」
扉を開いて外を見る。すると、そこにはリスティの剣と鎧と手分けして運ぼうとする賊の一団が居た。
「早速情けない事を言うようだが、あれを取り返してくれないか。」
悔しそうな表情が妙に似合うリスティ。
剣を抜きながらリスティに言う。
「アリアを呼んできてください。」
「あの貧弱な妹をか?役に立つのか?」
ぱっと見あの四人の賊の内一人相手することも出来なそうに見えるだろう。だが俺は断言した。
「あいつがいないと勝てませんよ。」
「分かった。すぐに連れてくる。」
しかしその前に、2階から足音が聞こえてくる。息絶え絶えでアリアが玄関で座り込んだ。
「あに、準備出来た。」
その声を合図に、俺は観測者を起動する。
無数の情報から、盗賊四人の情報を選別する。
テーガ・ショート
年齢:28
敵意:無し
スキル:足技
ブキガ・ダガー
年齢:25
敵意:有り
スキル:短剣術
ワカツ・クリチュウ
年齢:35
敵意:無し
スキル:美容
カージ・ノデスッタ
年齢:24
敵意:無し
スキル:不運
「アリア!」
おそらくアリアのスキルである共鳴がこの情報を読み取ったのだろう。
アリアが目を閉じ、呟く。
「イヴ姉・・・。」
空が光る。そして、四人の盗賊はほぼ同時にスキル「神罰」により即死した。
「これが、聖域の力、聖剣の強さなのか・・・。」
リスティが何か勘違いしている気もする。
リスティに剣と鎧を渡して言った。
「さて、今日は遅くなってしまいましたし、出発は明日にしませんか?」
ポツポツと、雨も降り始めていた。
「分かった。そうしよう。」
その夜。
「じー。」
アリアが食卓に並んで晩飯の親子丼を食べているリスティを睨んでいる。どことは言わないが、特定の部位を。
「どうした、アリア。」
その視線に引っ張られて自分も見てしまいそうになり、誤魔化した俺。
「私だってすぐに大きくなるんだからー。」
その言葉の悪意をスルーしたリスティはアリアに提案した。
「だったら、たくさん食べて大きくなれるようにお菓子を作ってあげよう。」
アリアは目の色を変えた。
「うちに砂糖も小麦粉も無いけど?」
「俺が今朝取ってきた卵ならいっぱいあるけどな。」
「それで大丈夫だ。」
リスティは空間魔術が施されているという小箱から材料を出したあと、氷魔術や浮遊魔術などを巧みに使いながら生地を作っていく。
1時間ほどでリスティがやってきた。
「あと1時間ほど生地を寝かせてから焼いたら完成だ。」
アリアは本を読んでいた。
俺は魔力を空中で渦状に動かす訓練をしていた。
そうしてだらだらしていると、美味しそうな匂いがしてくる。
「出来た。好きに食べると良い。」
リスティがアリアの前に大皿を置く。
「あに、すごい。クッキーだ。」
一つ食べると、アリアが笑顔になる。
「リスティ、貴女も天才。」
「そう言ってもらえると作った甲斐がある。」
何だかんだでアリアとリスティが仲良くなって、一日が終わった。