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発熱ー3

 研修医にも比較的人気がある。

 

 比較的年齢が近い割に、国外での豊富な臨床経験があり、同年代の医師よりもはるかに優秀で、それでいて高慢な所は全く見当たらない。むしろ童顔な容姿もあって親しみやすい。中には異性として好意を持っているものもいるようだ。けれど、そんな研修医の中に一人だけ…三ツ矢という一年目の研修医は瑠唯を冷たい眼差しで見る。

それについては、心当たりがあるのだが…。


 そんな訳で…五月も間もなく終わろうとしているある晴れた日の昼下がり…中庭で休憩中の瑠唯を囲んで子どもたちと一部の研修医達がワイワイと話しをしていた所へ、外来診療を終えた玄樹がやってきた。


「瑠唯先生ー僕今日糸を切って来たよー綺麗に傷が治ったねって先生に褒められたー」


 ちょっと自慢げだ。


「玄樹くん…それ抜糸って言うのよーそれに綺麗に治ったのは瑠唯先生が上手に縫ってくれたおかげでしょ!別に玄樹くんが偉いわけじゃないじゃない!」


 年上の女の子に言われて、少し不満そうだ。どうやら彼女とは通院中に知り合ったらしい。

 不穏な雲行に瑠唯が口を挟む。


「そんなことないよー痛いの我慢して玄樹くんがじっとして頑張ってくれたから、上手にできたんだよー」


「ほら見ろー僕は怪我して痛かったけど、我慢したんだー怪我もしてないで、痛い思いしてないみっちゃんなんかにわかるもんかー」


 そう言われたみっちゃんの顔が曇る。


 見兼ねた瑠唯が…


「玄樹くん!それは違うよ!此処にいる子たちはみんな病気や怪我で辛い思いをしているの!そんな事言っちゃだめだよ!」


 いつもと違う強い口調の瑠唯の言葉に、玄樹はシュンとして…


「ごめんなさい」と俯く。


「わかってくれればいいの。みんな頑張ってるんだから応援し合わなきゃね!」


 ちょっとしんみりした空気を変えようと、側にいた研修医の一人が


「そう言えば原田先生…玄樹くんの額、アメリカでの新しい縫合方なんですよね〜今度僕にも教えて下さい。」


 その場にいた研修医達も口々に


「僕も、僕も…」と言い出した。


「そう…ですね…何か機会があれば、そのうちに…」


 そう答える瑠唯に


「えっ!瑠唯先生!アメリカに居たの?」と玄樹が目を輝かせた。


「アメリカのどこ?」


「シアトルって所…知ってる?」と瑠唯が答えるや否や、玄樹は身を乗り出して


「シアトル!じゃあ、メリナーズの山谷遼平にあった?」


 大興奮だ。瑠唯はキョトンとして


「…ああ、野球選手の?そういえば一度、病院に来てて…あったかも…『日本の方ですか?』って聞かれたから、『そうです。』って応えたかなぁ?玄樹くん、その人知ってるの?」


 そこで一同驚愕の眼差しで瑠唯を見る。周りで何となく会話を聞きかじっていた看護師や患者達も皆同様に驚異の目で瑠唯を見ていた。その異様な雰囲気にいたたまれず…


「…っ!えっ?どうかした?」


 その問いに、呆れ顔の研修医が


「どうかした?って…原田先生…山谷遼平知らないんですか?」


「野球選手って言うのは知ってるけど…そんな有名な人なの?」


「有名だよ!凄いんだよ!ピッチャーとバッターの二刀流で、ホームラン王とって!契約金だって凄いいっぱいもらってんだよ!」


 何故か偉そうに叫ぶ玄樹くん。そんなのちっとも知らない瑠唯なのだ。


「原田先生って…病気や怪我の治療以外のこと…からっきしなんですね」


 ボソッと研修医の一人が呟いた。





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