完治ー6
その後二人は山川の車で髙山総合病院に出向き、瑠唯は大野の様子を診にいきたくて、先に山川一人で院長室に向かってもらうことにした。
「大野先生…起きていらっしゃいますか?」
大野は午前中に一般病棟…と言っても特別室であるが…に移されており、瑠唯が病室に入るとそこにはしおりが付き添っていた。
「おお…主治医が随分とゆっくりしたお出ましだなぁ」
…この調子なら大丈夫そうだ…
「すみません…昨夜、なかなか寝付けなくて…お加減、いかがですか?」
「なんで寝付けなかったかは、聞かないほうがいいか?」
瑠唯は頬を染めて唇を噛む。
「私が朝顔を出した時は、うつらうつらしてたんだけど、午前中の外来終わってさっき来てからはこんな感じ…」
呆れた顔でしおりが助け舟を出してくれた。
「少し診察させて下さい。」
瑠唯が大野の胸に聴診器をあてる。
「お前に聴診器あてられて診察される日が来るとはなぁ…感無量だ。」
そう言いながらも、大野はニヤニヤとしている。
「子供じゃないないんですから!止めて下さい、そうゆうの。…言葉は問題なさそうですが…頭痛は?手足の痺れはありますか?」
フっと瑠唯が点滴をしていない大野の右手を見ると、ソフトテニスのボールが握られていた。
「先生…いきなり無理しない方が…」
「ああ…無理はしないさ…頭痛は朝よりいくらかマシになった。手足に痺れはないが…むくみがあって、思うように力が入らん。」
「当たり前です。未だ術後二十四時間ですよ!少し安静にしてください。」
「安静にしてるさ。何せこれじゃ動けないからなー」と言ってカテーテルを指さす。
瑠唯が尿量を確認して
「問題なさそうなら外しますか?でも…トイレ、行けます?」
「ああ…そうしてくれ…トイレは何とかするさ。しっかし、お前に下の心配されるとはなぁ…ジジイになって介護でもされてる気分だ。」
ガハハと豪快に笑う。
…ああ…何時も先生だ…
「だから!そうゆうの止めて下さいって!後で、師長にお願いしておきますから!」
そう言って、瑠唯は大野を睨みつけた。
「主治医の先生はおっかねえなぁ…それに、師長にやってもらうってぇのもなぁ…」
「じゃあ…佐々木先生、お願いします!」
「わかりました。原田先生…」
しおりが面白そうに頷いた。
「おいおい…勘弁してくれよ!」
「私…院長に呼ばれているので、これで失礼します!後のことは、佐々木先生…宜しくお願いしますね!何かあれば直ぐに呼んで下さい!」
瑠唯は口を尖らせ、そう言って立ち上がる。
「はいはい、わかりました。」
しおりが微笑む横で大野がニヤリと、不敵に笑った。
「なんだ…院長にお目玉くらいに行くのか?どうせ山川も一緒なんだろう?せいぜい二人して叱られてこい!」
「…っ…先生!なんで知ってるんですか?」
「ハハハ…どうせそんなこったろうと思ったよ!」
「先生…カマ掛けたんですか?…酷い…」
瑠唯は真っ赤になって病室を飛び出した。
「彼女…なんか少し変わった?明るくなった?」
「いいや…あいつは本来あんなだよ。子供の頃は、無邪気で、明るくって、コロコロ笑ってた。ガキのくせして、人の事ばっかり心配しやがって…優しくて…あいつのお袋さんにそっくりな顔してやがる…」
「ふ〜ん…そんなちっちゃい頃から知ってるんだ…」
「そりゃそうさ…恩師の…大河原教授の一人娘だからな。あいつが未だピーピー泣いてた頃から知ってるよ。」
「そっかー大河原教授のお嬢さんだもんね。でも…教授の奥さんの事もよく知ってるのね。」
「あったり前だろ…恩師の奥さんだぜ!しょっちゅう、飯も食わしてもらってたからなぁ…なんだよ!やきもちか?」
「そんなんじゃありません!」
しおりは大野の腕を軽くつねる。
「いってーなぁ…術後二十四時間の病人だぜ!もうちょっと優しく扱えよ!」
「これ以上優しくなんか出来ないわよ!」
「それにしても、あいつ…料理の腕は、お袋さんから受け継がなかったらしい…あいつのつくるもんは、野良犬も食わん…」
そんな話しをしながら、大野がすうっと目を閉じる。
それに気付いたしおりが
「眠る?」と聞く。
「ああ…少し疲れた…お前はいいからもう帰れ。」
「ううん…もう少しいる…」
そう言ってしおりは大野の肩にそっと頭を預けた。




