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発熱ー1

 翌日…朝一番で院長室に呼ばれた瑠唯は、外科部長の加藤と看護師長の佐竹を紹介されていた。

加藤は恰幅のよい男前だ。脳外専攻の医師だという。看護師長の佐竹はスラリとした上品そうな女性だ。目鼻立ちのはっきりとした美人で、若い頃はさぞもてたのではないだろうか?


「昨日は着任早々ERでご苦労だったね。判断も的確で、処置も早いと上原室長が褒めているよ。」


 開口一番、髙山に労われて素直に礼を述べる。


「ありがとうございます。でも、まだまだです。これから色々ご指導下さい。」


「いやぁ…流石大野くんの秘蔵っ子だけの事はある。」


 その言葉に加藤が目を剥いた。


「ええーあの大野くんの教え子かい?それは先が楽しみだなぁ」


「…三年間、ご指導いただきましたが、まだまだです。注意を受ける事ばかりで…帰国された後もますますしごかれそうです。」


「院長!大野くん、此処へ来るんですか?」


「ああ…帰国後しばらくうちの病院で、非常勤で勤務してもらえることになってるよ。」


「それは凄いですねぇ!きっと若い医師たちが大喜びするでしょうね。」


「ははは…もう既に長谷川先生なんかは興奮状態だよ。…それはそうと…瑠唯ちゃん、昨夜はよく眠れた?部屋は気に入った?」



 病院の敷地内に独身者用の寮がある。医師専用の寮と看護師寮だ。

低層で建てられた医師寮は単身者向けにしては一部屋が広くトイレ、バス、キッチンも備え付けられており、冷暖房も完備されて快適だ。何より瑠唯が気に入ったのは寮とは思えない、広々としたバルコニーだ。彼女の部屋は南西の角部屋で西側に広がる太平洋が見渡せる。バルコニーからみる夕日は格別だ。デッキチェアでも手に入れよう…そう思った。


「はい…とっても素敵で快適なお部屋で…ありがとうございます。」


「夜は…ちゃんと眠れたかい?」


 その問いかけに驚いて顔をあげた瑠唯は…そうか…大野先生から話が入ってるのかも知れない…そう思う。



 二ヶ月程前…現地のとある村で子供たちにせがまれ本を読み聞かせているところに、突然爆弾が投下された。瑠唯は辛うじて難を逃れたが、少し離れた場所にいた子供たちが犠牲になった。

 火薬と血の入り混じった匂い…飛び散った肉片…それを目の当たりにした彼女は今更乍、戦争の恐ろしさを痛感したのだ。それから夜ベットに横になるとその光景が甦り、眠れなくなった。少しずつ心と身体が疲弊していった。

 心配した大野に、日本に帰国してこの病院…高山の元に行くように言われたのだ。

きっと彼もその事を承知しているのだろう。

 顔を強張らせた瑠唯をなだめるように髙山が続ける。


「まぁ…大丈夫そうなら…外科で、ローテーションに入って…外来と病棟とER…後、出来ればカメラも…いきなりは無理なようなら、時間とか日数とか調整してもらって…加藤先生頼めるかな?」


「わかりました!無理のないよう、此方でローテーション調整させてもらいます。それにしても助かりますよ。特にカメラの人手が足りなくて…原田先生、カメラの経験はどのくらい?」


 少し迷って…瑠唯は正直に応えた。


「はい…研修の時の指導医の先生が、とてもカメラの上手い方だったので、徹底的にご指導いただきました。」


「そう、それは頼もしい!今カメラに入れる医師が極端に少なくて助かるよ。早速、来週から入ってもらうから宜しくね。最初は誰か手伝わせるから。ただ来月には一人腕の良いのが、ドイツの研修から戻って来るから…少しは楽になると思うけど…そいつも常勤じゃないからなぁ。」


「わかりました。宜しくお願い致します。」


「じゃあ、また何かわからないことがあれば、都度、加藤先生か佐竹くんに聞いてね。僕でもいいよ。」


「はい。加藤部長、佐竹師長、宜しくお願いします。」


 ずっと側で微笑みながら話を聞いていた佐竹も瑠唯に向き合い


「そんな、かしこまらなくて大丈夫ですよ!気軽に何でもご相談下さい。この病院内の事で、私の把握していないことはありませんから!」


「だそうだ…瑠唯ちゃん!まあお手柔らかに頼むよ!佐竹くん。」


 すると佐竹が、すっと目を細め…


「院長!その瑠唯ちゃんって言うのはちょっと…セクハラです!」


「ははは…まったく…佐竹くんにはかなわないなぁ〜では、原田先生…宜しく頼みます。」


 髙山の茶目っ気ぶりに思わず微笑んだ瑠唯に師長が突っ込む。


「あっ…原田先生、笑うとかわいい〜」


 瑠唯は、返す言葉に詰まった。


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