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軽快ー3

 フっとドライヤーの音が止まったと思った時、後ろからフワっと身体を包み込まれた。瑠唯がビクっと身体を硬くすると、少しだけ腕に力が込もる。頬を染め、俯く瑠唯のつむじに温かくて柔らかいものが押し付けられた。


「えっ…?」


「ずっと君が好きだった…」


 つむじに微かに伝わる息がくすぐったい。瑠唯の心臓がドクドクと音を立て始める。


「五年前…研修医としてやって来た君を初めて見た時…綺麗な子だと思った…そして指導医として君を見ているうちに…真面目で勤勉で素直で…少しだけドジで…でも飲み込みも早くて、思いやりがあって…人に対する気遣いが出来るから周りに対するフォローも上手くて…なのに何でか人付き合いが下手で…そうしてるうちに目が離せなくなって、何時も君の姿を目で追うようになっていた。」


 山川は淡々と話し続ける。


「自分の中に芽生えた感情は、指導医としては持ってはいけないものだと思った。だから…蓋をして見ないふりをして…でも君が同期の研修医や他の先生と親しくしているのを見ると…イライラして…あの日もそうだった。」


「あの日…?」


「ああ…あの日…春の懇親会があった日も隣に座った内科の先生と親しそうに話してて…君は楽しそうに笑ってた。それを見て僕は気持ちが爆発しそうになって…だから…だからあの公園で、僕に寄りかかって寝てしまった君をみたら抑えられなくなって…あんな事…指導医としてあってはならない行為だった。君が研修を終えて、医師としてきちんとしたスタートをきるまで待つべきだった。そう…思って…次の週の月曜に、君にきちんと話しをしようとしたけど、君が僕をみる目を見た時…軽蔑されたと思った…突然、あんな事をして…医師として、人として軽蔑して…そして避けられてると…そう思った。」


「そんな!私、先生の事、軽蔑なんてしてません!そんな事出来ません!出来るわけない…だって…だって私…先生の事…好きで…好きで…でも未だ、研修医の分際でそんな事駄目だって思ってて…でも…あの日…あの公園で…先生に…あの…キス…してもらって…嬉しくて…嬉しくて…もしかしてって自惚れて…でも私…次の日、見てしまって…」


「…?見た?…何を?」


「…あの…ホテルで先生が…綺麗な女の人と…茜先生と…一緒に…楽しそうに…手を組んでて…それ見て…凄くショックで…それで次の週の月曜に先生に会ったら…先生…凄く、困った顔してて…ああ…先生、お酒の勢いでついしちゃったんだって…そう思って…私…私なんかじゃ絶対先生に釣り合わないって…わかってたから…でも…辛くて…悲しくて…それで…先生の顔見れなくなちゃって…あの…本当にすみませんでした。あの時私が、ちゃんと先生に相談していれば…三ツ矢さんは助かったかもしれません。先生も責任取って大学病院を辞めることもなっかったと思います。私は医師として取り返しが付かない事を…」


 その言葉を山川が遮った。


「それは前にも言った!あの診断は、誤診なんかじゃない!絶対だ!…それにしても…次の日、松本先生とホテルって…」


 山川には瑠唯に避けられたという事の衝撃が大きすぎて、前後の記憶が曖昧だ。どうにか記憶をたどり思いつく。


「あっ、そうだ…あの日、松本教授に昼食に呼ばれてホテルのロビーまで行ったら、茜先生が迎えに来てて、その後、上のレストランで教授と落ち合ったんだ。」


「そうだったんですか…私、てっきりデートかと…」


「付き合ってもいない女性とデートなんかしないだろ?」


「でも…あの当時先生、教授のお嬢さんと婚約するかもって…噂が…」


「確かに、教授からそうゆう打診があった事もあるが、はっきりお断りしたよ!僕には好きな女性がいたから…」


「好きな女性…?」


 瑠唯は反射的に上を向く。


「君だよ。」


 そう聞こえたと同時に、瑠唯の唇に柔らかいものが触れた。

 最初は軽く…一度離れて、二度目は少し強く…それから…息もできないくらい強く…深く…


「んっ…」


 瑠唯の鼻から声が漏れる。思わず山川の首に両手を回してしがみついた。瑠唯を抱く腕によりいっそう力がこもる。唇を離した山川の口から漏れた熱い息が瑠唯の耳を掠める。お腹の中心がせつなく疼いて熱いものが溢れ出す。


「ずっとこうして君に触れたかった…」


 山川の掠れた声が身体に染み込んだ。


「先…生…」


 山川は瑠唯を軽々と抱き上げ、寝室のドアを開けた。






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