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予兆ー3

 二十分後、受け入れ要請のあった男の子が搬送されてきた。救急隊員に額をガーゼで押さえられて、ストレッチャーにちょこんと座っている。衣類は血まみれだが意識もあり、比較的元気そうだ。しかし、頭の場合、中で何がおきているかわからない。

側には母親らしき女性が心配そうに付き添っている。

瑠唯はその女性にしっかりとした視線を向け、男の子に寄り添うと


「医師の原田といいます。お名前言えるかな?」


 男の子の目を診て慎重に聞き取りを始める。


「佐藤玄樹!七歳!一年三組!」


 勢いよく応えた彼に、周りの看護師達が顔を綻ばせた。


「じゃあ…玄樹君…何処か痛い所ある?」


「おでこ痛い…血もいっぱい出ちゃったー」


「そーだね…ちょっとみせて。」


 瑠唯はガーゼを押さえていた看護師から患部を引き取ると、そっとガーゼをめくる。額にある十センチ程の裂傷は、救急隊員が圧迫止血していたのだろう…幾分出血も収まっていた。傍らの看護師に視線を向けると彼女は直ぐに気付いて


「あっ…看護師の田中です。宜しくお願いします。」


「此方こそ宜しくお願いします。…じゃあ田中さん、消毒と縫合セットお願いします。後、レントゲンのオーダー出しといて下さい。」


「はい!わかりました。」


 若い看護師はテキパキと動き始めた。


「お母さん…額の傷はちょっと大きいので、縫合しますね。それと念の為頭のレントゲン撮らせて下さい。それで異常が無ければ今日はお家に帰って大丈夫ですよ。ただ、頭を打ってるので、今日はシャワー程度にして安静にして下さいね。患部は濡らさないように気を付けて下さい。何か異変があったら直ぐに連絡下さい。」


 瑠唯の説明に、母親もほっと息をはいた。


「ええーほうごうってなにー?それ痛い?」


 玄樹が口を尖らせる。


「んー…傷が開いて又血がいっぱい出ちゃわないように縫うの。痛くないように注射するから大丈夫だよ。注射する時ちょっとだけチクッとするけど、玄樹くん、強そうだから大丈夫だよね!」


「それくらい何ともないよ!」


 そう言うと、玄樹は両手の拳を握りしめた。



「じゃあ…注射するよーちょっとだけチクッとするよー」


「平気だい!」


 威勢の良い声がERに響き場が和む。交通事故の搬送者も其々処置が終わり、落ち着いた様だ。死者もなく、スタッフは皆安堵している。


 

 玄樹の額を縫合する瑠唯が、ふと視線を感じて顔を上げると


「かわった縫合するねぇ?何処で覚えたの?」


 「上原」と名乗っていた医師が、手元を覗き込んでいた。おそらく彼がこのERの室長なのだろう。全体を把握して医師、看護師に其々的確な指示をしていたから。

 手元に意識を集中しつつ


「『ハイド』と言われている縫合方で、今、アメリカでは主流になりつつあります。傷痕が目立ちにくいんです。玄樹くんは男の子ですけど…やはり顔ですから…」


「いいねーそれ…僕にも後でレクチャーしてくれる?」


「はぁー」と瑠唯は曖昧に答えた。


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