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再発ー3

 真理子が眠りについたのを確認しERに戻った瑠唯は「もう今日はいいから上がりなさい。」と上原に言われて、甘えることにした。

 走りに行こうかとも思ったのだが…


 覚悟はしている…今は比較的病状が安定しているとはいえ、真理子の身体はもう既に広範囲に渡って癌に侵されているのだ。加藤から任されたとき、もって一ヶ月と言われた。その一ヶ月が既に過ぎようとしている。

 流石に少し疲れた…肉体的にというより精神的にだ。真理子の毎日は綱渡りだ。そんな日々を少しでも安らかに過ごす事のできるよう、瑠唯はただそれだけに精一杯を尽くしているのだ。そんな事を考えながらふと気が付くと食堂の何時もの席にいた。夕日が空をオレンヂ色に染めていた。綺麗だと思った。


「あっ…やっぱりここにいた。」


 穏やかで優しい声が響く。


「山川…先生…」


「ここに来れば君に会える気がして…松本先生と揉めたって聞いたから…」


「どっからそんな情報仕入れていらっしゃるんですか?」


「色々と顔が広いんだ。」


 瑠唯は思わずクスッと笑う。


「昔から…その笑顔が好きだった…」


 突然の告白に真っ赤になった瑠唯はあさっての方向を見て


「べ、別に揉めたって程の事ではありません…治療方針でちょっと注意を受けただけです。」


「注意を受けたって言うより、また彼女が偏見で毒舌的な物言いをしただけだろう?」


「良くご存知なんですね。松本先生の事…」


「松本教授のお嬢さんだからね。彼女が学生の頃から知ってるよ。」


「親しいんですか?」


「親しいって程ではないよ。ただ、松本教授には昔から個人的にも大変お世話になっているから…そのせいで色々と接点はあるかな。」


 …嘘だ!だってあの時ホテルで、二人は楽しそうに笑い合っていたではないか…瑠唯はそう思ったが


「そう…ですか。」とだけ答えた。


「妬ける?」


 突然の問いに、驚いてた顔を上げると視線がぶつかる。


「そ、そんなんじゃありません!そんな事あるわけないじゃないですか!」


 瑠唯が焦って答えると


「なんだ、残念…少しは僕の事、気にしてくれてるのかと思った…あの頃みたいに…」


 そこで瑠唯はドキッとする。心があの頃に引き戻されそうだ。山川一色に染まっていたあの頃に…


「僕は何時も妬いてる。滝川や長谷川、それに三ツ矢達に囲まれて楽しそうにしている瑠唯を見ると、気が気じゃない。」


 いつの間にか名前を呼び捨てだ…


「そうゆうの止めて下さい!」


「何故…?」


「困ります!変な噂もたつし…」




「あらっこんな所にいらっしゃったんですね!修司さん…探しましたのよ!」


 突然、茜が割り込んできた。


「松本先生、何かご用ですか?」


「父からの伝言がありまして…今夜、家にお食事にいらして下さいと…お話ししたい事があるそうです。」


「生憎ですが、今夜は所用がありまして…申し訳ありません、と教授にお伝え下さい。」


「あら〜それでは、わたくしが父に叱られてしまいますわ。」


 そう言うと茜は側に来て、山川の肩に手をかけた。


「あの…私、これで失礼します。」


 立ち上がった瑠唯を目で制し、山川は肩に乗せられた茜の手をあからさまに払うと


「では、後ほど教授には私の方からお断りの電話を入れて置きます。…行こう!」


 瑠唯の手を取ると、茜を残してサッサと立ち去った。


 …ちょっ、ちょっ…先生…手っ…


「先生!何処いくんですか?」


 山川は瑠唯の手を握ったまま


「ん?この間約束した、食事に行こう!駅の近くにこのあたりでは珍しいちょっと洒落たレストランが出来たんだ。なかなか美味しいらしいよ!」


「約束…?そんなのしてません!それに!手…離して下さい!こんなとこ誰かに見られたらそれこそ何言われるか…だいいちご実家で何か用事があるんじゃないんですか?」


 瑠唯が必死に抵抗を試みる。


「ああ…あれは断る口実…どうせ教授からの誘いじゃないだろうしね。それから僕は誰に見られて、何を言われても構わないよ。それに約束したじゃない…おこわのお礼にって…否はないよ!もう予約を入れたから…ほら!時間がない!急いで寮に戻って着替えておいで…僕は駐車場で待ってるから。」


 有無を言わせぬ強引さ…昔の山川からは想像が出来ない。そして、なんだか妙に楽しそうだ。


 結局、強引に押し切られるかたちで、その日瑠唯は駅前にあるフレンチレストランで山川と食事をした。


 都内から移住してきたというシェフが営むその店は気取り過ぎず、砕け過ぎず…適度な心地良さを持つ落ち着いた雰囲気のレストランだった。食事も美味しかった。

 久しぶりのゆったりとした山川との時間は疲れた瑠唯の心を癒し、とても楽しかった。


 楽しかったのだが…



「あっ、瑠唯先生!」


「あっ、えっ?進くん…?」


 突然、テーブルの脇に現れたのは、佐竹看護師長の息子…進だった。


「先生…山川先生とデート?」


 進はなにやら嬉しそうだ。


「ちっ、違うよ…ちょっとお食事に…」


 慌てて言い募る瑠唯に…


「それをデートって言うんじゃないの?」と、意味深な笑いを浮かべる。


 小学五年生の仕草とは思えない。


「進…他の方のテーブルで何を…えっ?原田先生…?山川先生も…?」


「師長…偶然ですね。息子さんと、お食事ですか?」


 山川はいたって冷静だ。


「え、ええ…まあ…」


 何だかちょっと気まずそうな佐竹の様子…すると…


「あれ〜山川〜瑠唯ちゃんも〜」


 またしても、力の抜ける声がした。


「滝川…先生…?」


「あっ、まこちゃん、デートの邪魔しちゃ駄目だよ!」


 進が諌める。


「デート〜?僕をさしおいて〜酷いよ〜瑠唯ちゃん!」


 …なんだ!それ…自分こそ佐竹師長と息子さん?しかも「まこちゃん」…って…いったいどーゆー関係なんだ!と突っ込みどころ満載だ!


「なんだ!滝川…そっちこそ、佐竹師長とデートなんじゃないのか?邪魔するな!」


 憮然とする山川に


「まあ…今日のところは、見逃してあげるよ。でも…瑠唯ちゃん、僕、未だご褒美もらってないからね!」


 と…ウィンクを残して三人で去って行った。


「あいつ…やっとか。」


「えっ?山川先生…やっとって?」


「ああ…滝川のやつ、佐竹師長にずっとアプローチしてて…佐竹師長も何も…まあ、自分の事は言わないか?」


「あの…もしかして、先生の情報源って…佐竹師長だったんですか?」


 山川は気まずそうに黙々とステーキを食べていた。






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