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悪化ー3

「おはようございます!」


 瑠唯が入口で挨拶をする。


「おはようございます!」


 ERにいたスタッフが一斉に挨拶を返した。


「おっ!今日は原田先生がERの担当?今、上原室長が学会で留守にしてるから…今日は一応、俺がリーダーだ!って事で宜しくな!」


 孝太にポンっと肩を叩かれた。朝から妙に機嫌がいい。

 そこへ篠田がヒョッコリ顔を出す。


「おはようございます!あっ!いたいた…原田先生、おはようございます!」


「何だよ!篠田…お前今日はER担当じゃないだろ?」


 孝太の機嫌は急降下する。


「違うよー原田先生にちょっと用があって…」


 にこやかに瑠唯に近づいてくる篠田を孝太は訝しげな顔で睨み、噛み付く。


「原田先生に何の用だよ!」


 それを完全無視した篠田は


「はい!これ…お土産!」と瑠唯に小さな紙袋を手渡した。


「えっ?私にですか?」


 瑠唯がきょとんと目を丸くすると


「そう…昨日迄、加藤部長の学会のお供で京都に行ってたんだ!だからこれ…原田先生に、この間のお礼…ああ…それからこっちはスタッフ皆に…おやつにでも食べて!」


 お菓子が入っているらしい紙袋を近くにいた看護師に手渡した。


「ありがとうございます!」


 渡された看護師が勢いよくお礼を言う。


「何で、原田先生にだけ個人的にお土産なんだよー」


 孝太が不満げに言うと…


「お前には関係ないだろーだいいちお前に個人的に土産なんか買ってきたら気持ち悪いだろうが!」


 なんだか楽しそうだ。


「当たり前だ!だいたい、この間のお礼って何だよ!」


 益々いきり立つ孝太に無視を決め込み


「じゃまたね!」っとヒラヒラ手を振って篠田は去って言った。


 その後ろ姿をガックリと肩を落とした瑠唯が見送る。


「全く…なんなんだ!あいつは!今まで、土産なんか買ってきた事なんか無かったのに…」


 頭をガシガシとかいてボヤく康太に


「いいじゃないですかーこのお菓子美味しそうですよー後で皆で頂きましょうよー」と看護師が戯けて言うと…


「俺は要らないよ!」


 孝太が吐き捨てた。

 その様子を研修医の三ツ矢が冷たい眼差しで見ていた。



『六十代男性!突然の吐血と胃の激痛を訴えています!意識レベル1!受け入れお願い出来ますか?』


 突然、穏やかな空気を引き裂く要請が入った。


「了解しました!」

「誰かストレッチャー用意して!」


 素早く康太が指示を飛ばす。


 間もなくして、救急車で運び込まれた男性は、胃を押さえてもがき苦しんでいた。直ぐ様孝太が駆け寄り尋ねる。


「分かりますかー病院です!医師の長谷川と言います!お名前言えますか?」


「ま…町田…久…です…」


 男性は喘ぎながら何とか答えた。


「町田さん!何処が痛いですか?」


「い…胃が…物凄く…痛い…」


 そこへ更に要請が入る。


『七十代女性…自宅の階段から転落して頭を打った模様!意識レベル3!四十代女性…その女性を受け止めようとして転倒!腰の痛みを訴えています。意識レベル1!受け入れお願い出来ますか?』


「両名受け入れます!」


「三ツ矢!こっちの患者さんラインとって!出来れば、聞き取りして!」


 すると間もなくサイレンの音が聞こえて来る。孝太はストレッチャーを掴むと


「原田先生もお願いします!」と叫んで搬入口へと向かう。


 瑠唯もそれに従った。

 女性患者二人をストレッチャーに乗せてERに戻ると三ツ矢が先程の男性患者に聞き取りをしている。そして、意識不明の女性の処置をしている孝太の脇に立ち


「内視鏡の方に、山川先生がいらっしゃるとの事で…そちらで緊急検査してもらって宜しいですか?」と確認を取る。


 孝太は、手元から目をはなさず


「既往歴は?」と聞いた。


「聞きました!ないそうです!」


 三ツ矢がそう答えると。


「よし!じゃあ検査室に案内して!」


 孝太の指示に、三ツ矢はストレッチャーを動かしてERを出ていく。その後ろ姿を見た瑠唯は咄嗟に嫌な予感がした。

 腰痛を訴える女性患者さんに断りを入れ近くにいた別の研修医に聞き取りを任せると、PCを立ち上げカルテを確認する。


「町田…久…六十七歳…」


 あった!…そして愕然とする。


「長谷川先生!あの患者さん、カメラ駄目です!」


 そう叫ぶと三ツ矢を追ってERを呼び出した。






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