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悪化ー1

 高山総合病院内における最近の話題はもっぱら、大野と瑠唯の事でもちきりだ。二人の関係性…単なる師匠と弟子の関係なのだが…もさる事ながら、オペの時に見せる二人の連携には誰もが舌を巻いた。先日もある地元の代議士のたっての依頼で、大野が脳腫瘍のオペを執刀した。その代議士の三十代の娘との事で、病状もかなり深刻だった。オペが難しい位置に病巣がある。仮に病巣を全て取りきれたとしても、何らかの後遺症は免れないだろう。大野もその事は事前に告知していた。オペの前立ちに指名されたのは当然の事ながら瑠唯であった。その事に異議を申し立てたのが、例の篠田だ。自分は瑠唯よりも歳上だし脳外科医としてのキャリアもある…実際にはアメリカでの彼女の実績は篠田のそれを遥かに上回るのだが…と前立ちを申し出たのだ。しかし大野は聞く耳を持たない。あくまでも前立ちは瑠唯でそれ以外なら自分は執刀しないとまで言い張った。その後加藤の執り成しもあって篠田は渋々第二助手としてオペ室に入った。



 そしてオペが開始される。

 麻酔は滝川、機械出しは三ツ矢だ。この二人の優秀さは大野も直ぐに気が付いたようだ。外科医には器具を受け取る時に其々の癖がある。その癖をいち早く見抜き如何にスムーズに受け渡しをするかで機会出しの技量が決まる。その上三ツ矢はオペの進捗を読み、次に要求されるであろう器具を素早く手にする。迷う時には二つ同時に手にしている。そこに生じる時間差は一回に付きわずかレイコンマ数秒でも、オペ全体にしたら数十分の差になる事もあるのだ。時間のかかるオペなら尚更の事だ。その事ひとつでも、三ツ矢がどれ程優秀かは歴然であった。


 オペ中、大野は機械出しの指示以外殆ど言葉を発しない。それでも瑠唯は大野の意思を先読みして確実に補助していく。二人ともほぼ無言だ。にも関わらず、まるで意思が通じ合っているかのようにオペは進んでいく。何も指示されない篠田は、ただオロオロと手を拱いて焦っていた。見兼ねた瑠唯が指示を出す。


「篠田先日…そこ、もう少し広げて下さい!」


 そこで篠田が恐る恐る手を出した。が…その時大野の手がその手をグイっと押し戻す。


「篠田!邪魔するなら手を出すな!」


 篠田がビクっとして手を引っ込めた。



 結局オペ中、大野が篠田に言葉を発したのはこの一回きり…瑠唯に対しては最後まで無言だった。賛辞も労いもない。それでも瑠唯は満足だった。久しぶりに大野とオペをした高揚と達成感…心地よい疲れに安堵の溜息をついた。

 その後、更衣室に戻ろうとする大野に追いついた瑠唯が


「先生、お疲れ様でした。今回のオペも勉強になりました。あんなアプローチの方法もあるんですね。驚きました。」


「なんだ、その割にはしっかりついてきてたじゃねぇか。あんなボンクラのサポートまでしてやってよー。お前も相変わらず人がいいよなぁ。まったく!加藤部長が是非にと頭下げるから、仕方なく第二で入れたのに手伝うどころか余計な所に手ぇ出しやがって…結局ただボケっと見てただけで何の役にもたちゃしねぇ!あんなんでよくお前のこと差し置いて前立ちなんて志願したもんだ!百年早いっつうの!」と、悪態をつく。


 何度も言うが大野は声が大きい。

その会話はそこら中に響き渡り、篠田の耳にも届いていた。


「先生!こんな所でそんな事言うの止めて下さい!篠田先生に聞こえちゃう!」と瑠唯が嗜めるが…


「聞こえるように言ってんだよ!」と吐き捨てた。


「いくら篠田先生でも、そんな言われ方したら傷つきます!」


 いくら篠田でも…と言うのも随分な言いようだが…その点は瑠唯も気付いてはいないようだ。


 その様子を廊下の端で聞いていた篠田は…当然の事ながら…力いっぱい肩を落とした。






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