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進行ー1

 翌朝五時…もう間もなく梅雨入りだとニュース番組が伝えていたにも関わらず朝早くから清々しいほどの快晴だった。そう言えば、大野はとびきりの晴れ男だ。あの豪快な笑い声で雨雲も吹っ飛ばしてしまうのだろうか?孝太との約束の時間までは未だ少し余裕がある。…少し走ってこようかな…


 アメリカに渡ってから瑠唯はジョギングを始めた。外科医は体力勝負である。時には何時間もかかるオペをこなす。その為に時間を見つけては瑠唯は走る。もっとも、紛争地域にいる時はそんな余裕はなかった。ましてや、何時、何処に爆弾が投下されるかわからないと言う状況でジョギングどころではない。

そんな訳で、日本戻り、一年程遠のいていたジョギングを再開することにしたのだ。


 一時間程走って、シャワーで汗を流した瑠唯は着替えて病室の職員駐車場に来ていた。すると程なく

 目の前に、見慣れたSUVが滑り込んでくる。助手席の窓が空いて孝太が顔をのぞかせた。


「よう!乗れよ!」


「失礼しまーす。」と軽く会釈をして、瑠唯が助手席に乗り込む。


 孝太は滑る様に車を発進させると


「昨日は、助かったよ。結局あの時同時に運び込まれた患者さん、脳梗塞であの後、緊張オペになったんだ。たまたま病棟にいた加藤部長が執刀してくれたんだけど…篠田のやつさっさとオペに加わっちゃてさぁーあれからER俺一人だったんだぜーまあ研修医何人か応援に回してもらったし、救急要請も軽症が五人程度だったからどうにか回ったけど…」と、溜息をついた。


「そのくらいなら長谷川先輩一人でも回せたんじゃないんですか?」


 思わず瑠唯がクスっと笑った。


「あっ!それいいなぁ〜昔はよくそんな風に笑ってたじゃないか?こっちに来てからの瑠唯は殆ど笑わなくなった…」


 いきなりの瑠唯呼びだ。


「そんな事ないと思いますけど…もうアラサーですし…少しは大人になったんじゃないですか?」


 少し困り顔でそう答える瑠唯に


「笑顔に年齢なんか関係あんのか〜?」


 なんと答えて良いのか分からない質問を投げかける。



 車は高速道路に入り順調に走行していた。


「それにしても…篠田のやつにも困ったもんだよ…なにも瑠唯にあんな突っかかり方しなくてもいいのに…気分悪かっただろう?ごめんなー」


「いえ…先輩に謝っていただくようなことでは…」


「それにさぁー佐竹師長にもすんげー失礼だったよなぁー自分の子供のオペ、件数稼ぎだと言われるなんて…やってられねーだろー」


「まあそうですね。どんなオペでも、お母さんにとっては気が気じゃあありませんから…ましてや、師長のところは母一人子一人だって聞きましたから。」


「へぇー師長その話、瑠唯にしたんだー」


「ええ…少し…」


「ちゃんと同僚とコミュニケーション取れてんじゃん!お前…昔から対人関係のスキルめちゃくちゃ低いからなぁー」


 呼び方がだんだん砕けてくる。


 だめだ…このままじゃあ昔に引き戻されてしまいそうだ…唇を噛み締めて俯く瑠唯に孝太は更に続ける。


「俺、ちょっと心配してたんだ。院内で瑠唯の事、色々言ってるやつがいてさー」


「ああーそれに関しては私の不徳の致すところですから…大丈夫ですよ。何時までも子供じゃありませんから…」


「まあ…ちゃんとやってるんならそれでいいけど…そーゆーところも大人になったってことかな?」


 思わず瑠唯は赤面する。


 そんな会話をしているうちに、瑠唯の中から段々と蟠りが消えていき、気まずさも薄らいで行く。

けれども孝太と昔のような関係に戻るつもりは全くないのだ。いや…戻ってはいけない…そんな資格はとうに失っている。


 車は程なく高速を抜け、街中を通って成田空港に到着した。パーキングに車を停めた孝太が


「到着時刻迄少し時間があるから、どっかでお茶でもするか?」


 幾らか気まずさは薄らいだものの向き合ってお茶は未だハードルが高い気がして


「いえ…到着ロビーで待ちましょう。一応メールで迎えに来ると連絡はしてあるのですが、あの先生時々気付いてない時があって…」

 と、話の方向を変えた。


「大野先生って…そーゆー性格してんの?」


 孝太が以外そうな顔をする。


「はい!そーゆー性格です!かなり大雑把なところがありまして…あの性格で、あんな緻密なオペをするのが信じられないくらいです。」


「へぇー益々会うのが楽しみだ!」


 愉快そうに孝太が笑った。



 到着ロビーで待つこと数十分…

大雑把な大野淳平がゲートを潜ってやって来た。






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