第七章:戦いの行方
ヴォルテンの後を追いかけようと飛び立ったマムとグリムだったが、グリムの丸っこい体ではヴォルテンに追いつくことは出来なかった。ましてゆっくりと浮かび始めたマムの速さでは、グリムの後を着いて行くこともままならない。
ヴォルテンがいきなり向きを変えてマムに向かって急降下し始めた。彼の鋭い眼光がマムを射抜くように睨みつけ、その巨大な翼はまるで雷鳴の如く空気を切り裂いてマムに向ってくる。怖に体をこわばらせたマムは、必死に体を動かそうとしたが、思うように動けない。
「マム、下がれ!」
グリムの声が鋭く響いた。グリムは全力で翼を広げると、その厚みのある羽でマムを守る壁のように立ち塞がった。ヴォルテンの迫力ある攻撃に、グリム自身も恐怖を感じていたが、守るべき相棒のために一歩も引かなかった。
「そんな小さな翼で防げると思うのか!」
ヴォルテンが嘲笑するような声を上げると、体をさらに加速させてグリムに向かって突っ込む。稲妻に打たれたような衝撃があり、グリムの体は力を失い雲の上に落ちて行った。
「グリムー」
マムは落ちていくグリムに向って叫ぶが、気を失っているのか返事が返ってこない。
「どうにかしなくちゃ!」
マムは心の中で焦燥を募らせながらも、恐怖を振り払って状況を見極めようとした。目の前では、再びヴォルテンは空高くに舞い上がっている。その圧倒的なスピードと力にマムは身構える。タカコ婆さんから授けられた羽根をぎゅっと握りしめると、向きを変えて再び急降下に移ったヴォルテンに立ち向かう決心をする。
「どうか、ぼくたちに力を貸して!」
その時、羽根がかすかに輝き出し、マムの体がさらに軽くなる感覚があった。 羽根は徐々に虹色の光を放ち始め、その光が周囲の空間を包み込むように広がった。
マムは今までとは見違える速度で、ヴォルテンの攻撃を避けると、大胆にも自らヴォルテンの横から近づこうとした。
ヴォルテンはマムから放たれる光に目を奪われ、一瞬動きを止める。その隙に、マムは両手でヴォルテンの翼を掴もうとした。ヴォルテンの羽が数本抜け落ちたが、彼はマムの攻撃をかすめるようにして再び大空に舞い上がる。
「うまく攻撃を避けたな。でも、お遊びは終わりだ。今度こそ最後にしてやる」
急降下に移ったヴォルテンは、鋭く曲がった嘴を開けてマムの元に近づいてくる。
突然、マムの横を一陣の風が吹きすぎる。黒い風は一直線にヴォルテンに向っていくと、小さなつぶてを彼に向けて打ち出した。いくつものつぶてはヴォルテンに命中し、彼はその威力に目標を誤り、雲の上に真っ逆さまに落ちていく。
黒い風は向きを変えてマムの方へと向かって来た。
「やったー。やったーぜ、マム」
マムの近くに来ると大きな翼を広げてタカコ婆さんが減速する。彼女の背中には、以前一緒に冒険した意地悪子リスのピコが乗っていた。ピコは口に頬張ったヒマワリの種を一つ出すと、マムに見せる。
「こんなにうまく行くとは思わなかったけど・・・」そう言ってヒマワリを齧る。
「ピコ!? なんできみがここに!」
「なんでぼくを誘ってくれないんだよ。一緒に冒険した仲間だろ。マムたちがここに行ったとタカコ婆さんから聞いたからな。ぼくが助けに来たんだよ!」ピコの声はどこか楽しげだった。
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