第五章:雷の魔鳥ヴォルテン
マムとグリムは長老、案内役の妖精たちと一緒に黒い羽が見つかった場所に行って見ることにしました。
長老が言ったようにその場所だけが雲の厚みが薄くなっていて地上の様子も見て取れます。覗き込むマムは危うく雲の隙間から落っこちそうになって、グリムに尻尾を咥えられました。
「マム、そんなに覗いたら落っこちるよ」
「大丈夫だよグリム。今の僕は空を飛べるんだよ」
その表情には、今までの幼かったマムでは無く、勇敢さが少し見えたように思い、グリムは頼もしさを感じました。
「グリム、ここからなら誰にも気付かれることなく出入りが出来るんじゃない」
マムは振り返ると長老の住んでいる建物までそんなに距離はありません。
「ぼく達は雲の上からここに辿り着いたから、みんなに見つけられたけど、ここからなら、雲の下から入ってきて、長老の寝室まで誰にも見つからずに行けるよ」
「ふむ、そうだねマム。そして、やって来たのは黒いこの羽を持った者と言うわけだね」
「その通りだよ、グリム」
「そしてこの黒い羽は間違いなくヴォルテンのもの。奴がこの場所を通ったのは間違いないと思う」
長老は、マムとグリムの推理を聞きながら顎に手を当ててうなずきました。
「確かに、その可能性は高いのう」
案内役の妖精が、雲の隙間を指さして言いました。
「ここは都の外れ。見張りも少ないですし、雲の層も薄いです。ヴォルテンのような強い飛行力を持つ者であれば、簡単に通り抜けることができるでしょう」
マムは黒い羽をじっと見つめながらつぶやきました。
「でも、どうしてヴォルテンは雨の鍵を盗んだんだろう?何か理由があるのかな」
グリムが翼を広げながら考え込みました。
「確かに、それが気になるな。ただのいたずらとは思えない。鍵を持って何か企んでいるのかもしれない」
その時、長老が静かに言葉を継ぎました。
「わしも雲の上に住まう者。ヴォルテンの噂を聞いたことはある。ヴォルテンは雷の力を操る者。そして、あの黒い魔鳥は力を求めているのじゃ。雨の鍵には自然界のエネルギーが宿っておる。もしもその力を悪用されれば、地上にも空にも大きな災いがもたらされるかもしれん」
その言葉に、マムとグリムは顔を見合わせました。
「長老、ぼくたちがヴォルテンを追いかけて、雨の鍵を取り戻します!」
マムの声には決意がこもっていました。グリムもうなずき、彼の横に並びました。
「そうじゃな。君たちがいてくれて心強い。案内役の妖精たちも協力してくれるじゃろう。ヴォルテンの行方を追う手がかりを探そう」
マムとグリムは再び視線を雲の隙間に向けました。目の前に広がる雲海の向こうに、ヴォルテンが待つ新たな冒険が見えているようでした。
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