第四章:鍵を盗んだ犯人
雲の建物の中は想像していた通りふわふわで、その床の上をマムとグリムは進み出て長老に向って深々と頭を下げました。他の妖精たちとは違って、白いひげを蓄えた長老は、優しくマムたちを迎え入れてくれました。
「地上からやって来た君たちが、『雨の鍵』を探してくれるのかい」
「雨が降らないので、町のみんなが困っています。森も動物も生きていくのに雨が必要なんです」
「そうなんじゃよ。お日様が照らすだけじゃなく、雨や風も森を育て、動物や人が生きていくうえでは必要じゃ。それを誰かが盗みよった」
「盗まれた?」
マムはその言葉に驚いて長老を見上げました。グリムも真剣な眼差しで尋ねます。
「長老、その鍵が盗まれたのはいつのことですか?そして、何か手がかりになるようなことは?」
長老は長いひげを撫でながら、静かに語り始めました。
「鍵が盗まれたのは、そう遠くない日のことじゃ。わしが寝室で休んでおった時、何者かが忍び込み、鍵を持ち去ったようじゃ。雲の都には外から侵入者が来ることは滅多にない。それゆえ、都の誰かが関わっておる可能性もある」
「雲の都の誰かが?」
マムは少し戸惑いながらも、長老の言葉を真剣に聞きました。グリムは冷静に考え込むように言います。
「それなら、都の中で怪しい動きをしていた者や、最近変わった様子を見せた者はいませんか?」
長老は少し目を細めて考え込みました。
「実は、この事件が起きる少し前に、不自然に雲が薄くなった場所があった。その場所を調べてみると、そこには黒い羽が落ちておった。都の妖精たちには、そんな黒い羽を持つ者はおらん」
「黒い羽?」
マムはその言葉に反応して、小さな耳をピンと立てました。
「それが鍵を盗んだ者の手がかりになるかもしれないね」
グリムがそう言うと、長老はうなずきながら小さな黒い羽を取り出しました。その羽は、どこか禍々しい気配を放っており、マムは少し怖がりながらもそれをじっと見つめました。
「はて、この黒い羽には見覚えが・・・」
グリムが、そういうと少し考え込んでしまいました。
「グリム、何か知っているの?この羽の持ち主が誰か」
「もしかすると、雷の魔鳥ヴォルテンかもしれん」
「ヴォルテン?」
「最近悪さばかりする若い黒鷹がいるそうだ。みんなからは『雷の魔鳥』と恐れられているそうだよ」
「この羽の主を探すことができれば、鍵の行方もわかるかもしれん。だが、わしら妖精はこの都の外へは出られない。外の世界に詳しい君たちなら、この謎を解けるかもしれん」
長老の言葉にマムは頷き、小さな胸を張って答えました。
「任せてください!ぼくたちが必ず鍵を見つけて、地上にも雨を戻します!」
「そうだな。わしらがここに来たのは偶然じゃない。きっとそのためだったんだ」
グリムも穏やかに言いながら、長老にうなずきました。
長老はマムとグリムの決意を見届けるように優しく微笑み、ふわりと手を振りました。
「頼んだぞ、地上からの訪問者たちよ。わしらはいつでも君たちを見守っておる」
その後、長老の案内で黒い羽が見つかった場所へ向かうことになったマムとグリム。冒険の新たな章が静かに幕を開けました。鍵の行方を追い、二匹は再び未知なる挑戦に立ち向かっていくのでした。
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