第二章:タカコ婆さんの魔法の羽
マムとグリムは、空を飛ぶための方法を知っているという伝説の鷹「タカコ婆さん」の元を訪ねます。
マムは森に入るのが2回目でした。前回の冒険では、昼間でも薄暗い森の気配に恐る恐る進んでいたのですが、あの頃よりマムは身も心も成長していました。そして何よりすぐそばにはグリムがいるのです。
二匹はタカコ婆さんが住んでいる森の奥深くへ辿り着きました。
初めてみる彼女の姿は、鋭い眼光をしていて、一見怖そうに見えます。しかし、胸に拡がる白と黒の模様が何とも美しく、マムは見とれていました。タカコ婆さんは、2匹を試すために鋭い目でマムを見つめながら意地悪な質問を出してきます。
「マムと言ったかい。虹はどうしてできるか知っているかい」
マムはわからないと首を傾けて、グリムの方に助けを求めます。
「虹は、太陽の・・・」話し始めたグリムの言葉を途中で遮って、大きな翼を広げます。彼女の羽毛が風に揺れて、翼そのものにまるで魔法を秘めているようだった。
「マムに聞いてるんだよ。 マムが答えなきゃ」
「虹は、虹はみんなの希望なんだよ。ほら、虹を見たことがあるだろ。みんなに幸せや安心や安らぎを与えるために出来るんだよ」
「面白い答えだね」
「じゃあ、空はなぜ青いか知っているかい」
「青い空はみんなを包み込むから、青でなきゃダメなんだよ!」
グリムが横で驚いたようにマムの方を向いて言う。
「まったく、理屈じゃないな」と呆れて頭を抱えてしまう。
「まさかそんな答えを聞くとは思わなかったよ。お前さんのような考え方、嫌いじゃないねえ」
愉快そうにタカコ婆さんが大きな翼でお腹を抱えて笑い声をあげる。
「最後の質問だ。雨がなぜ空から降るか知っているかい?」
「雲の都に住む妖精たちが、木々や人々が助けを必要としている時に、雨を届けてくれるんだ」
マムは、自信があるぞという顔をして目を輝かせて言った。
「そうかい。最後だけは正解だ。良く知っていたな」
「グリムに教えてもらったんだよ」
グリムの方を振り返ってマムはウインクして言った。
「でも、ぼくたちの町に雨が降らなくなって、みんなが困っているの。だからぼく達が妖精にお願いしに行こうと思って・・・それには、空を飛べないと行けないんだ」
「だから、空を飛ぶ方法が知りたいってことかい」
マムの言いたかった言葉をタカコ婆さんが引き継いで言う。大きく頷くマムを見て、タカコ婆さんも頷くと。
「そういえば、ここも最近雨が降らないね。森の木が枯れると私達も住むところが無くなってしまう。そうなる前に、雨を降らしてきてくれるかい」
タカコ婆さんは、自らの羽をくちばしで一本抜き取りました。タカコ婆さんが抜いた羽は、日の光に当たると虹色に輝き、羽の先端がわずかに震えているように見えました。それはただの羽ではなく、何か特別な力を宿しているようだった。彼女は羽をマムの頭の上に置くとどういう訳か、マムは翼も無いのに空中に浮きあがっていきます。
「わぁ、わぁ、ぁ ー」
マムの体はいきなりふわりと宙に浮き上がると、彼は短い手足をバタバタします。足元から木々が遠ざかるのを感じ、風がヒゲをくすぐり、少し怖いけれど、胸の奥がワクワクでいっぱいになりました。
「おいおい、マム、落ちないようにしろよ!」
グリムが少し心配そうに下から見上げて声をかける。
「こらこら、暴れるでないわ。自分で行きたい方向を考えてみんかい」
マムは、言われた通り、行きたい方向を思い描くと、決して早くは無いのですが、自分が行きたいと思う方向へと進むことが出来ました。
「飛んだよ、飛んだ。グリム見て、これで、ぼくも雲の都に行けるんだよ」
マムは歓声を上げながら空中をゆっくりと進む。耳には森の風の音が心地よく響き、下には広がる木々の海が見える。雲の隙間から差し込む光が、森の中に金色の絨毯を敷いたように見えます。鳥たちの歌声がすぐ近くから聞こえ、風の流れに乗る感覚は地上では決して味わえないものでした。
「こんなに広い世界だったなんて!」
マムの声が風に乗って広がり、グリムの耳にも届きました。彼は地上から笑顔で見上げていました。
空を飛びながら、彼の心の中に不思議な感情が芽生えます。それは、自由への憧れと、目の前の景色をもっと知りたいという冒険心。マムは羽根を持ち直し、意識を集中させて少しずつ高度を上げました。
「うまく操縦できているね!」
下で見守っていたタカコ婆さんが、彼の努力に感心したように声をかけました。
マムは振り返り、笑顔で返事をしました。自分が空を飛べるという信じられない体験に、彼の心は喜びで満たされていました。
「グリム、ぼくたち、本当に雲の都に行けるよ!さあ、一緒に冒険を始めよう!」
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