第一章:日照りの町
雨が降らなくなって、どれくらい経ったでしょうか。
マムの住む小さな町では、青空が続き、じりじりとした日差しが人々の生活を苦しめていました。
「真夢、水がもうほとんど残っていないんだ」
マムのご主人である男の子が、空っぽの井戸を見つめながら呟きました。マムは井戸の淵に立ちながら男の子の顔を大きな黒い瞳で見上げます。その顔は疲れ切り、少しやつれた表情にマムの胸は締め付けられるようでした。
マムの飲み水も前よりか少し量が減ってきているのは知っていました。
井戸の水が無くなってきて、畑の野菜もが次々と枯れていく様子に男の子は何度もため息をつきます。
そんなある日、マムは窓枠の上にちょこんと座り、いつもの様に町行く人々を見つめていました。町の住民たちもみな、やつれた表情で困り果てていました。 普段は元気なご主人や町の人々が元気をなくしている姿にマムは心を痛めました。
「ぼくが何とかしなきゃ!」
マムはそう心に誓い、窓枠からひらりと飛び降りると、仲良しのフクロウ、グリムの元へ急ぎました。
グリムは町外れの大きな木の上にいました。彼はいつもの様に木の上で昼寝中です。でも、マムが呼びかけると、大きな目をさらに丸く見開いて、翼を広げます。
「どうしたんだい、マム。そんなに急いで」
厚みのある翼をふわりと広げながらグリムが問いかけます。マムは木に飛び乗ると、息を切らしながら話し始めました。
「グリム、雨を降らせる方法を知ってる? ご主人やみんなが困っているの」
マムは真剣な表情で話しかけます。物知りで知られているグリムは少しの間、くちばしで羽を整えながら考え込むようにしていました。
「雨を降らせる方法か・・・。それなら『雲の都』に行くしかないな」
「雲の都?」
「そうだよ。空の上にある伝説の場所だ。そこには雨の精霊たちが住んでいて、彼らが雨を操っているんだ」
マムは目を輝かせました。
「じゃあ、その雲の都に行けばいいんだね!」
マムの言葉に驚きながら、グリムはゆっくりと首を振りました。
「話はそう簡単じゃないよ、マム。雲の都に行くには空を飛ぶ必要があるんだ。わたし一羽じゃお前を背負って飛ぶのは無理だよ」
マムは耳を伏せ、少し肩を落としましたが、それでもすぐに顔を上げました。
「でも、何か方法があるはずだよね? グリム、一緒に探そう!」
グリムはその決意に満ちた瞳を見つめて、苦笑いを浮かべました。
「相変わらずだな、お前は。まあ、わしもこうして昼寝しているぐらいしかやることと言ったらないからな。マムに付き合ってやるとするか」
こうして、マムとグリムは『雲の都』を目指すための冒険に出ることを決めました。
彼らはまず、空を飛ぶ方法を探すために『空を知る者』の元へ向かうことにしました。その者とは、伝説の鷹、『タカコ婆さん』の元です。
冒険に旅立つ日も、町の空には雲一つなく、眩しい太陽がぎらぎらと照りつけています。その下を、2匹は力強く歩き始めました。
次第に高鳴る胸を抑えながら、マムは思い出します。以前にもこうしてグリムと冒険に旅だった時のことを。共に旅した『星のしずく』を探す冒険の日々を。
そして今回は、あの空の上にある『雲の都』を目指してまたグリムと冒険が始まるのです。
「絶対に雨を取り戻すんだ。そして、みんなを笑顔にする!」
こうして、子猫マムの新たな冒険が幕を開けました。
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