第一話:妹のカクシゴト
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季節は秋。丁度夏休みも佳境に差し掛かり、俺は机の上を圧迫する大量の課題と格闘していた。はぁ………我ながら、学習しない人間だな。つまらない課題だが、計画性を持てば簡単に終わるのに……
「明人お兄さん、お夕飯ができましたよ………」
俺がペンを弄りながら生産性のない活動―――をしていると、一つ年下の中学3年生の義妹である、有栖が声をかけてきた。有栖は二年前、親父の再婚を期に一緒に暮らしているかわいい妹だ。容姿端麗、成績優秀、クラスのマドンナ的な存在と専らの噂だ。
二年が経ったが、未だに有栖は俺になれていないらしい。俺に接するときだけは敬語で、おどおどとした態度を取っている。
「分かった、すぐに行くよ」
俺はちょうどいい逃避先を見つけた気分で、夕食を摂りに自分の部屋を出た。
基本的に、夏休み中は有栖が自らご飯を作ってくれている。親父は家事をしない人だし、義母はキャリアウーマンで単身赴任中だからだ。俺が料理をするときもあるが、たいていは有栖が「料理がするのが好きですから」と言って自ら引き受けている。
(できた妹だな………)
贔屓目もあるだろうが、俺は心からそう思っている。だからこそ、今のような微妙な距離感や空気がもどかしい。
「はい、お兄さん、ビーフストロガノフですよ」
「ありがとう」
………どこか浮世離れした感じの妹だが…実際、常識と少しずれている所がある。料理が好きと言うが、結構大仰なものを何てことのないように作ってしまう。ジャンルもバラバラで、ハラペーニョタコス、エッグベネディクト、ゴルゴンゾーラ、ジュノベーゼ……etc
また、これらの料理は俺が最近見た料理動画のメニューなのだ。偶然というのは、奇妙なものだ。
「有栖、すごいおいしいけど……作るのは大変じゃなかったかい?」
「明人お兄さん、そんな……大した料理じゃないですから………」
「そうかい?有栖がそう言うのなら……」
「…………」
「…………」
会話が続かない。気まずい空気が流れる。もともと俺は会話が得意じゃないんだ……。俺はこの空気に耐え切れず、ビーフストロガノフを喉に押し込むと、「ごちそうさま」とだけ言い、食器を戻し、自分の部屋に戻ることにした。
ここで、我が家の奇妙な部屋割りについて説明しよう。俺と有栖の部屋は実は同じだ。急な再婚と、家の間取りもあって、二人分の部屋を用意できなかったのだ。そのため、大部屋の中央にカーテンを敷き、それを持って各々のパーソナルスペースとしている。学習机には長机を用意し、二人で共用と言う形をとっている。俺の学習机にはパソコンが置いてあるが、有栖の方にはいくばくかの筆記用具があるばかりだ。
正直に言って、この状態が二年も続くとは思っていなかった。何度も自分たちの部屋を作った方が良いと言っているのだが、中々都合がつかず、有栖も俺も、特に不満があったわけではなかったので、このまま放置されているという状況だ。
俺は部屋に戻ったものの、課題がはかどるという訳もなく、お茶を濁した回答を惰性で書き、2,3ページ進めた所で、酷く眠くなってしまった。いつもそうだ。有栖の作る夕食を食べると途端に眠くなってしまう。量が多いからだろうか?俺は最後の力を振り絞ってベッドにもぐりこんだ。
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カタカカタ………
「……で………なんですよ………」
俺はキーボードの音と少女の話声で目が覚めた。この声は………有栖?
「それでは、アットライブ所属、小森イブの配信を終了しま~す!」
おいおいおい………!有栖、お前ってもしかして………!
Vtuberだったのか!?
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