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古き魔女と異世界の弟子  作者: オトモヘラルー(気付いたらオーバードーズしてる猫)
一章 北の地の動乱 ~王都から来た男達~
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幕間 王国の魔女はかく語りき①

本話は物語の進行とは直接的に関係の無いお話です。

幕間と表記のある物は、全て飛ばして頂いても問題ありません。




とりわけ秀でた才能を持つ者や、余人には果たし得ぬ偉業を成し遂げた者たちなどは、後世にまでその名が伝えられるのは人の世の常であるが、それは魔女族ウィッチと呼ばれる種族の世界でもまた同様であった。



 かつて多くの人々に一つの問いが投げ掛けられた。

 『人間たちの良き隣人であり、同胞とも呼ぶべき魔女族ウィッチたち──そんな魔女族の歴史の中、歴代で最も優れたるは果たしていかなる魔女であったか?』……と言った類の問いであり、また素朴な疑問でもあった。



 他意無く、

 悪意無く、

 決してその生涯に優劣を決める意図なども無く──。



 ただ純然に童子のような好奇心から生まれた疑問であったが、殊の他に意見が分かれ、卓上に数多くの論争を巻き起こしたのだった。

 


 ある者は言った。

 『それは当然ワルプルガに決まっているじゃないか』と。


 言わずと知れた一番最初の魔女であり、また一番最初に聖女と呼ばれた特別な存在である。

 その最後は決して良い形と呼べるようものではなかったが、かといって人間とその友である魔女族の仲を、今更どうにかしてしまうような物でもなく、悠久の時とも言える時間が経過した今となっては、その最後もまた人間たちの大切な歴史の一部となっているのであった。



 『……いいや、そいつは違うね。やはりその次に生まれてきた、六人の大魔女たちこそが一番だよ』

 とある者はそう反論し、自身の意見が正しいと言わんばかりに快活に笑ったのだった。


 ワルプルガの次に生まれてきたメディウスを初めとした第一世代とも呼ぶべき六人の魔女たち。


 憧憬や愛情といった、およそ好意的な想いを人間へと寄せてくれた大魔女は、六人のうちメディウスとエターナリアのわずか二人ばかりであったが、

 彼女たちが残した数多くの魔法や知恵、それに後に続く魔女たちの系譜が、今日こんにちまで人間たちの支えとなってきたのは紛れも無い事実なのであった。



 ……論争の場には他にも多くの魔女の名前が挙げられた。


 南方国家連合の宗主国インディモ・バラトの王族であり、歴代最強との呼び声も高い魔女団カヴン──燃える湧き水(ファイア・ウェル)の盟主でもある魔女ティーヤ。


 あるいは、ランドロール大陸の最北──クロムセレン帝国にて宰相位という重要な役割を、長きに渡り預かる魔女エカテリーナ……などなど。



 卓上や酒宴の場では名だたる偉大な魔女たちの名前が数多く挙げられた。

 上げられた名を一つずつ紙に綴っていけば、文字通り枚挙にいとまがないであろう。



 そんな中、不思議なことに──ここアルディナ王国と呼ばれる大国の人間たちだけは、皆が口を揃えてとある魔女の名前を挙げたのであった。



『はじめまして──わたくし、アデライン・フォン・ロンバルディアと申します。ウフフッ、こうしてきょうとお話をさせて頂くのは初めてございますね。トバルカイン・メサビ様』



 みどり花冠かかんの魔女──その名はアデライン・フォン・ロンバルディア。


 現アルディナ王国国王より遡ること21代前……

 遥か彼方、せんの時代、当時のアルディナ国王の王弟おうていと、豊穣の魔女グレイスより生まれたアルディナ王国を代表するやんごとなき存在の一人である。


 また四大公爵家の筆頭家門。ロンバルディア公爵家の女主人おんなしゅじんであり、広大な公爵領を500年もの間守り続ける偉大なる守護者でもあった。




 ◇ ◇ ◇




 騎士たちが辺境の地を訪れる数ヶ月前──。




 ──アルディナ王国の貴族街。

 有力貴族の邸宅が立ち並ぶ東アーレン地区の一画いっかくを、一人の騎士が薄い紙切れを片手にトボトボと所在無さげに歩いていた。



『トホホ……どうして俺が……ロンバルディアの公爵様なんざ天上人にお呼ばれされるんだよ。……って、なーに見てんだお前ら!! 見世物じゃねーぞ、散れッ!!』



 騎士の名はトバルカイン──鉄鉱石の産出地として有名なメサビ大鉄山を領内に有する、有力な伯爵家の三男坊である。


 金獅子騎士団という栄光の頂点とも呼ぶべき騎士団で、副団長という重要な席を預かる身ではあったが、そのような立場から想像だに出来ないほど口も態度も悪く、貴族街の通りを歩く従僕じゅうぼくたちからは好奇の眼差しが向けられるのであった。


 男はそんな従僕たちへと向けて怒鳴り散らす。

 従僕たちはまるで蜘蛛の子を散らすように去っていくのであった。




 “──親愛なる金獅子騎士団、副団長殿。

 明後日みょうごじつ、東アーレン地区はロンバルディア公爵家の屋敷に参られよ”




 ……そんな可愛げのない、半ば国からの出頭命令のような脅迫文おてがみが、金獅子騎士団の執務室に届いたのは数日前の話である──。


 記載された内容は文字通りそれだけであり、用件などは一切書かれておらず、公爵家の印章が押されていなければ、誰かの悪戯だと屑篭くずかごに放り込まれていた事であろう。



『おぉ……これ本物だよ。わかった。明後日あさっては休みにしとくから行っておいでトバルカイン。あぁ、あとロンバルディア公爵によろしく言っておいてよ』



 上司であり金獅子騎士団の現団長でもあるオズワルド・フォン・アランドラに相談をした所、

 押された印章は紛れもない本物だとわかり、トバルカインはあれよあれよという間にロンバルディアの別宅タウンハウスへと赴く事となったのであった。


 手紙の相手は国王や王太子に継ぐ存在と言っても過言でない相手である──当然ではあるが、誉れ高き金獅子騎士団の副団長とは言え、拒否権などは元より存在していなかったのであった。




 ロンバルディア公爵の別宅タウンハウスは、東アーレン地区の最も見晴らしの良い一等地に建てられていた。


 それは国内の食糧生産の約7割という膨大な量を一手に引き受ける、大穀倉地帯とも呼ぶべきロンバルディア領を治める大貴族の邸宅にしては、慎ましいと表現せざるを得ないほど小さな建物である。


 ……だがその美しき花々に包まれた小さな花の楽園は、周りに建てられた無駄に巨大なだけの屋敷たちと比べ、随分と好ましい印象をトバルカインに与えるのであった。



『……ようこそおいでくださいました。閣下かっかより、お話は伺っております。どうぞお入りくださいませ』



 古ぼけたドアノッカーを叩くと、シックなメイド服に身を包む、目の焦点の合っていない女が姿を現す。

 騎士の姿を認めた女は、笑顔の一つすら浮かべず、事務的な労いの言葉をぼそぼそと呟いたかと思うと、そそくさと通路の方へと消えていくのであった。



「けっ……これがお客様に対する態度かよ。ボケが……」



 呆然としていたトバルカインであったが、我に返ると、一人不満げに愚痴を零し、渋々とその後に続くのであった。


 ──高位貴族の専売特許とも呼べる、要領の得ない傲慢ちきな内容の手紙もそうであったが、家門の顔とも呼べる家政婦長ハウス・キーパーがあれでは、主人であるロンバルディア公爵もたかが知れている。


 もっぱら国で一番の美女などという評価が、ロンバルディア公爵には付き纏うのが常であったが、それもどうせ自身の名声を高めるために意図的に流布した作り話なのであろう。心底、気に入らない。



 トバルカインはまだ見ぬ公爵になんとも不敬な考えをよせ鬱屈とした感情を抱いていたが、そのよこしまな考えは瞬く間の内に覆されるのであった。




 ◇ ◇ ◇




 メイド服の女の後を追い、たどり着いた二階の小部屋。



 その室内にはロンバルディア公爵の姿は見受けられず、一人の“女神”が存在して居たのだった。



 悠然とソファに腰掛ける、亜麻色の髪を持った絶世の美女──あるいは女神。


 “美しい”──という古来からの形容詞は、彼女から生まれてきた言葉だと言われても、何一つ疑問を持たず受け入れてしまいそうになる程だ。


 ……激しくその存在を主張する巨大な胸元も、男の抑え切れぬ欲望を形にしたのではないかと、見る者に不埒な想像をさせてしまう。


 正しくその胸の大きさたるや、おっぱい鑑定士の資格を持つトバルカインにすら、『……おっぱいでっか』と小声で言わしめる程であった。


 金獅子騎士団の血を吐くような訓練で、鋼のような強靭な精神と自制心を培っていなければ、今頃は一人虚空へと向け、へこへこと腰を振り始めていたことであろう。



 ──そんな女神から名乗りを受け、その存在がくだんのロンバルディア公爵本人であった事に始めて気付かされるのであった。



『……お初にお目に掛りますロンバルディア公爵。私はメサビ伯爵家が三男──トバルカイン・メサビと申します。わが国の至宝とも呼ばれる閣下かっかの邸宅にお招きを頂けるとは。恐悦至極に存じます』



 遅ればせながら、深々と頭を下げて自己紹介を始めるトバルカイン。


 トバルカインは自身でも信じられないような、美麗な中低音バリトンボイスが、自身の口から発せられている事に内心で驚いていた。



 ……それはひとえに、目の前の美女に少しでも良い印象を与えたいが為である。


 先ほどまで感じていた鬱屈とした感情は成りを潜め、心の中はまるで澄み渡る快晴が如く明朗に晴れ渡っていたのだった。


 胸の内に抱いていた、なかば嫌悪感にも等しい悪感情すら消えうせ、トバルカインはロンバルディア公爵へ親愛の情にも似た強い思いを抱いてしまっていたのだった。




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